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Sac a vinのひとり言 其の十八「Manipulation ―Environnement―」

公開日: : 最終更新日:2018/09/11 建部 洋平の連載コラム, ライブラリー, 新・連載エッセイ

ワインというものは変わるものであり、変わりゆくものである。
その要因は複雑にして繊細なものであり、提供する人間がしっかりと把握しないと
顧客に対して狙った状態での提供は難しくなる。
今回はワインの香味を変えうる要因を考えていきたい。

① 温度 

最も影響が大きく判別も容易なため、ソムリエもお客様も非常に重視するポイント。
ただ変化させうる要因が非常に多いため、それを正確に把握していないと予想外の変化をすることがある。
なお、これから挙げる温度の数値はあくまで一般的な数値であり、例外も存在はするが、それらは基本的にワインにとって良い温度帯ではない為敢えて除外してある。

 

―ワイン自身の温度 6℃~15℃
 ワインが置かれていた環境の温度であり、抜栓直後の温度。周囲の温度との差異が大きければ大きいほど変化が激しく、少ないほど安定している。最も注意が払われやすい温度。

 

―周囲の温度  12℃~25℃(屋外の場合は~30℃)
 ワインが提供される場所の温度帯。この温度はワイン自身の温度も変化させうるが、それ以上に顧客の身体に対して影響が大きく、感じ方や欲求などへの影響が大きい。ワイン自身の温度帯と近似値の場合はワインへの影響が少ない。

 

―グラスの温度 12℃~25℃
 提供される際に使用されるグラスの温度。顧客の口より先にワインに最初に触れる物であり、影響は非常に大きい。またカラフェなどを使えば、意図的にワインの温度をコントロールすることも可能である。ただ最もダイレクトに触れるため、差異が大きいとコンディションにネガティブな影響を及ぼすこともあるため注意。

 

②シチュエーション 視覚情報

ワインを飲む際の周囲の環境。ワイン自身のコンディションには大きな影響はないが、
受け取り手側に大きな影響を及ぼす。

 

―レストランシーン With テーブルクロス
色調は基本白のみ。周囲の装飾は場合によるが、基本的に卓上からは余分なものが排除され、料理とワインに集中しやすい環境といえる。円卓の場合は卓の中心点に向かって集中力が引き寄せられ、角卓の場合は正面に向かう。ワインも基本的に集中力、緊張感を若干なりとも孕んでいるものであるとシンクロさせやすい。

 

―ブラッスリー With 木
色調は様々、基本ブラウン系。テーブルの上の環境は店舗により様々であり、極端に簡素であったり装飾や調味料で混沌としている場合がある。そのためワインにしっかりと集中するというよりもワインを楽しむという方向に基本的にはシフトしたほうがストレスが少ない。
ワイン自身も一点に向かって集約するようなタイプのワインよりも、外交的でどちらかというと末広がりなある意味では“ゆるい”ワインであるほうがトーンをそろえられる。
ただ、ワインのコンディションを整えるために、あえて木のテーブルにしている場合もあるため、全て上記に当てはまる訳ではない。狙いがどこにあるのか要把握。

 

―ワインバー Withカウンター
ワインに集中すること、しやすいことが大前提で作られている。
正面にはスタッフ以外おらず、料理などをオーダーしない場合は、ワインだけと向き合うこととなる。そのため重視されるのが提供されるワインのクォリティやキャラクターであり、周囲に慮る必要がない。ここにおいてはワインと周囲の主従関係が逆転しうる。あくまでワインが主役になるのである。

 

③香り

ワインの香りではなく、周囲の香り。

 

―レストラン またはワインバー
基本無臭。料理が出てきた瞬間などは香りで満たされることもあるが、瞬間的であり長くは留まらないため考慮しなくてよい。 周囲からの影響は少ない。

 

―オープンキッチン With 炭、スパイスEtc
炭火焼であったりスパイスをふんだんに使用する店舗である場合、影響は如実に出る。
顧客は周囲の環境に順応するため香りは気にならなくなるが、ワインの香りには影響は確実に出る。簡単に言えばワインそのものの香りとは言えず、「Aという香りと混ざったワインの香り」になるのである。焼肉屋でワインを飲むことを想像してもらえばわかりやすいだろう。
繊細な香りのワインを楽しめる環境ではない。

 

―テラス、屋外
環境要因はケースバイケース。影響は極小の場合もあれば極大の場合もある。不確定要素が非常に多いため、精妙なコントロールは難しいだろう。夏のテラスではキリリと冷えたロゼ、ピクニックで飲むキレのいいスパークリングなど、周囲とのコントラストを楽しむほうがベターであり、集中力や敬意を払ってワインを飲む環境とは言いづらい。生産者とともに畑の近くで飲むというなら話は別であるが。

 

④音響

香味には影響がないが、受け取り手のフィジカルやメンタルへの影響は大きい。

 

―屋内 静謐
ワインに集中しやすい環境。聴覚から入ってくる情報量が少なくなるために自然とワインへの感覚リソースを回しやすい。ただ、流行っていないお店の不気味な静けさであると、必ずしもプラスとは言えないが。

 

―屋内 喧噪
繁盛している店などによくある所謂「ワイワイ楽しめる店」である。
精妙なワインを楽しむには向かないが、エネルギーに満ちた外向的なワインにはむしろ騒がしさが寄り添う場合もある。客層次第でもある。

 

―屋外 静謐
場合によってはワインに向き合うのに理想的ともいえる。風の凪ぐ音、鳥の声、木々が揺れる音、、、もし生産地でこういった環境で楽しめるのであれば、ワイン自身が育った環境に身を浸せるため、格別な楽しみであるだろう。

 

―屋外 喧噪
あまりいい環境とは言えない。 素直にビールなどをたしなむべし。

 

と、ここまで五感のうち 触覚 視覚 嗅覚 聴覚について触れた。
次回はここに更に味覚を足して、今まで述べた環境要因を利用して、具体的にどのような運用を行っていくか述べていきたい。

 

~プロフィール~

建部 洋平(たてべ ようへい) 
北海道出身で1983年生まれ。調理士の専門教育をへて、国内で各種料理に携わる。
ブルゴーニュで調理師の研修中、ワインに魅せられてソムリエに転身。
ボーヌのソムリエコース(BP)を2010年に修了、パリ6区の「Relais Louis XIII」にて
シェフ・ソムリエを勤める。現在フリー

 
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