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合田玲英のフィールド・ノートVol.60 《 低収量の年ならではのワイン達 》

 今年のフランス北部からの新着アイテムには、変わり種が多い。2016年と2017年に雹や遅霜で、極端に収穫量の少なかった造り手たちが、南に醸造用のブドウを求めたためです。面白いもので、南のブドウからつくられたワインであっても、北の造り手たちの手にかかると、北ならではの涼しさをまといます。醸造期間の外気、蔵に住み着く酵母、造り手の嗜好と、普段造っているワインのタイプなど、多くの要因が合わさった結果の味わいなのだろうと思います。

・【アリス・エ・オリヴィエ・ド・ムール】

ル・ヴァンダンジュール・マスケシリーズ(ド・ムールのネゴシアン部門)も、10年近く造っているけれど、南のブドウで造ったのは2016年が初めて。

– Melting Potes 2016

 エミール・エレディアを含む3人の造り手からの買いブドウ。仲のいい友人達のことをPotesと呼びます。ブドウが色々混ざっていることもキュヴェ名からわかります。いろいろな背景を一言で言い表していて、センスが光ります。ティエリー・ピュズラのワイン名といい、フランス人のジュー・ド・モ(ダジャレ)はワインと同じように、個性が強く出ます。

d’une si belle compagnie Meridionale 2016

“南の素敵な仲間たちから”という素敵な名前のキュヴェ。エレディア、ラングロール、グラムノン、テクシエ、オストリック、プラデルの皆から少しずつ分けてもらったワインをブレンド。どれも収穫日程が少しずつ違うので、別々に醸造しました。ブレンド前のものしか飲んでいないのだけれど、どれもド・ムールらしい酸を感じさせつつ、品種特性をしっかりと感じさせる味わいでした。ブレンドして、更にどう変わったのか楽しみです。

Le Bourboulenc de Marie et Eric 2016

 ラングロールのマリーとエリック・フィフェルリング夫妻からの購入したブドウ。彼らの所有する畑の中でも特に古いブルブラン種の畑で、100歳を超える樹もあるそうです。ブレンド前はどの樽も個性があって、ブレンドするに忍びないという風だったけれど、その中でもブルブランの古樹はアリスとオリヴィエにとっても特別だったようです。

・【ル・クロ・デュ・チュ=ブッフ】

Cheverny Rouge “Caillere + Rouillon = Couillon”

平地の多いロワール。標高も高いわけではないので、遅霜の被害が出やすい。ル・クロ・デュ・チュ=ブッフでも2016、2017と遅霜が続きました。馴染みのある、カイエールとルイヨン。それぞれの畑だけでは発酵槽を満たせなかったので、合わせて醸造。ティエリー節は健在で転んでもただでは起きません。名前がまたラフで小洒落ています。

・【ジェラール・マリュラ】

J’ai Vu Rouge 2017

 同じくロワールはシノンの造り手。2年連続で聞くも涙なほどの収穫量で、ルーシヨンの友人のメルロ―を収穫させてもらいました。南の太陽のトーンは感じられるけれど、これはやっぱりジェラール・マリュラのワイン。彼のワインから感じる「最初に好きになったヴァン・ナチュールってこんな感じ(個人の感想です)」という雰囲気は損なわれていませんでした。
 ちなみにキュヴ名はフランス語で怒る=voir rougeという意味。だけれど、苦しい年でもジェラールはきっと、
 いつものように笑いながらワインを造ったに違いありません。

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 どれも面白いワインなのに、人気の造り手ばかりですし、そもそものワインの量も極端に少ないので、多くの人に飲んでいただけないかもしれません。もし見かけることがあれば、そういう年であったと、思い出していただければ、また一味違うはずです。

・不作の年 
 不作の“不”は不豊作の“不”。収穫量が少ない以上の意味は無い。むしろ、いろいろな背景と感情が詰まって、とんでもない迫力のワインが造られることがたびたびあります。なにもユニークなナチュラルワインの造り手に限ったことではなく、「あの生産者は、難しい年しか本気でワインを造らないからなあ」なんて笑い話もあるくらい。
 もしかしたら、その人は毎年同じように造っているだけで、収穫量が落ちたことで、その分果実が凝縮した(そんな単純ではないと思いますが)から、なんて理由なだけなのかもしれませんが。

・豊作の年でも 
 久しぶりに質、量ともに大満足の年を迎えた、2017年のブルゴーニュ(雹、霜の被害を受けた一部地域を除く)。今年の2月にボーヌへ行った時に、ドメーヌ・デ・クロワのダヴィッド・クロワはこんな風に言っていました。
 「ここのところ、ブルゴーニュは収量の低い年が続いたからなぁ。樽が2段目まで行ったのは久しぶりだよ!けれど2017年のような、収量の多い年ほど気をつけなければいけない。特に不作の年が続いた後はね。収穫量が上がりすぎないように自制の言葉を呪文のように唱えていたよ。attention, attention….」
 つい果実をならせすぎてしまうと、凝縮感にかけてしまいます。たくさん健康なブドウが出来る年も、そういう年なりの注意するところがあります。確かに、2017年VTのある意味、良すぎる飲み心地には驚きました。

~プロフィール~

合田 玲英(ごうだ れい) 1986年生まれ。東京都出身。
2009 年~2012 年:ドメーヌ・レオン・バラル(フランス/ラングドック) で研修
2012 年~2013 年:ドメーヌ・スクラヴォス(ギリシャ/ケファロニア島) で研修
2013 年~2016 年:イタリア/トリノ在住
2017 年~:日本在住

 
 
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