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ファイン・ワインへの道vol.22

ブラインド・テイスティングで分かりますか??

 今までで一番短いコラムになるかも、です。
 なぜなら、論旨のほとんどをもう言ってしまっているので。
はい。「ブラインド・テイスティングで分かりますか?? その“違い”は?」というお話しです。

 今日(いや、昔からか?)ワイン本、ワインメディアを開けば、まずはテロワールの違いから始まって、土壌の違い、エリアの違い、標高の違い、樽材産地の違い、葡萄のブレンド比率の変化(時にはわずか5%あるかないか)、が、なんとも声高らかに誉れ高く厳かに、叫ばれております。まさに“違い”の嵐と暴風雨。みなさんも日々、もうテレビの天気予報を見るより頻繁に、そんな文言を目にされてるかと想像します。

 シャンパーニュ地方のアンボネとブージィのテロワールの違い(=味の違い)、モンタルチーノ北部と南部のテロワールの違い(=味の違い)、某畑の斜面上部と下部の差、ブルゴーニュ南部の一部のテロワールに見られる特徴的な色合いの石灰岩ならではの味わい、バローロとバルバレスコの“明確な”差異、はてはブルゴーニュの同一クリュ内のリュー・ディによる味の違い、南アフリカの地域Aと地域Bのテロワールの違い・・・・・・。
 ここで、おうかがい、および確認したいのです。しかも、とても真面目に。
 そういう風な文言を書かれる書き手の方は、当然の前提として、その違いをブラインド・テイスティングで100%、特定できるんですよね。なにせ“違い”があるんですから。
 え、ブラインド・テイスティングでは時々特定できない?? 
 それって、違いが(そうたいして)“ない”ってことなんじゃないですか??
 さしてありもしない違いに対して、なぜ(さも高尚に)違いを大げさに喧伝されるんでしょう?(作文苦手で、埋めるべき原稿用紙が埋まらなかったから?)

バローロ、バルバレスコの新着ヴィンテージ約 350 本を4日間で準・ブラインド・テイスティングするピエモ ンテ、アルバでの恒例のイベント「ネッビオーロ・プリマ」の風景。生産者名のみがブラインドで供される。 よくバローロ西側、ラ・モッラ地区はエレガント、東端セッラルンガ地区は厳格で重厚と、当然のように言わ れるが・・・・・・、僕以外は皆さんその差をブラインドでも 100%、特定できるんでしょうね・・・・・・。

 

 いずれにせよ、ブラインド・テイスティングで特定できない違いは、なんと申しますか、衒学の類にして“香具師の口上”、ワイン界の有害ノイズ、もしくは霞ヶ関虚言官僚の「資料は破棄しました」レベルの低級答弁にさえ近い社会害悪かつチープ・コメディにさえ感じるんですが・・・・・。いかがでしょうか? みなさん。
(「国有地の8億円の値引きは、適正です」って?)
 もちろん、ブラインド・テイスティングで100%絶対特定できる違いも無数にあります。例えば、バルバレスコ・アジッリで偉大な造り手(例えばロアーニャなど)と凡庸な造り手の差。DRCの赤の7つのグランクリュの違い、総亜硫酸添加100mg/Lのワインと40mg/Lのワイン(これはホントに絶対分かりますね)、などなど。
 ブルゴーニュの特級ワインと村名ワインの違いも分かるだろうって?? う~ん、ブラインドでドメーヌ・ルロワの村名が出て、特級が凡庸なネゴシアンだと、おそらくルロワをグランクリュ、凡庸ネゴシアンの特級ワインを村名と言ってしまうかと思います・・・・・、不肖・私は。

 さらに、ワインの世界にはこんな美しい言葉もあります。
 「見事にテロワールの特徴が刻印されたワイン」。
 ならば例えば、ジャンシス・ロビンソンは「1982年は戦後初めて、シャプタリゼーション(補糖)なしでボルドーでワインが造れた年」と書いてる訳ですが、ということはテロワールの刻印を感じられる人はみなさん、「少なくとも20年中19回はシャプタリゼーションなしではまともなワインが出来ない、ボルドーというテロワール」をしっかりお感じになっていた、ということ、ですよね。
 はいもちろん、補糖以外にもワインの味の調整剤はいろいろあります。
 メガパープルをご存じですか? 赤ワインの着色剤で、甘み、果実味も加えてくれます。ルビーレッドという品種の葡萄果汁を2,000分の1まで凝縮して造ります。現在、カリフォルニアでこのルビーレッドの栽培面積は約5,000ha.(バローロDOCG葡萄栽培全面積の約2.5倍!)とのこと。夏が暑くて酸が足りなかった? 補酸剤があるじゃないですか。タンニンが足りない? 補タンニンもできますよ。

 そして。この「ブラインド・テイスティングで分かりますか?」という切り口は、当然ワインの価格面にも適用できます。
「小売価格1本5万円の入手難のブルゴーニュでございます」。
 そんなワインはもちろん、ブラインド・テイスティングで出てきても、「お、5万円はするワインだな!」と、誰でも分かる(はずですよね)。ブラインドだと誰も「1本5万円ぐらいかな?」と言わないような5万円のワインは、もしかすると本当は価格に見合う価値がないワインなのかもしれません。あくまでも、もしかすると、ですけどね。

 もちろん、ワイン・ライターの中には、「ブラインド・テイスティングよりもラベルを見ながら飲む方がよりワインが理解できる」という論旨の主張をする人もいます。例えばマット・クレイマー。「ブラインドは、ラベルでワインを飲む気取り屋を謙虚にする。面前のワインが、一見すると控えめであっても、真に高雅なものだと気づかされることもある」と前置きしつつも、「ラベルを見た方が、より良く多くを学べる」と語る。
 続けて「音楽を聴くときに、作曲家や演奏家を知っていたら、私たちの鑑賞力や洞察力は鈍くなるのだろうか。まさにその反対だと思うのだが」と続ける。少なくともこの音楽の論考に関しては、筆者は断固反対である。作曲家名、作品名を知っていようがいまいが、真に偉大な音楽の素晴らしさは、そのデータ認知の有無に先立つと筆者は考える。偉大なラ・ターシュは、初めてワインを飲む、そのラベルが読めない人にも巨大な感動を与えるように。
 もちろん今日よく喧伝される、某カリフォルニアワインがブラインドでDRCに勝った、某チリワインがブラインドでラトゥールに勝った、などといった話を、本稿で間接的に強調する訳でもありません。この種のブラインド・テイスティングは、どんなテイスターが、どんなコンディションのワインを、どんな環境設定の中で試飲したか、という核心的情報がしばしば届かないからです。特にこの試飲会場の環境設定というファクターは、ワインの品質開閉に、しばしば決定的に左右することさえある重要事項です。もし試飲が鉄のテーブルの上で、鉄の窓枠の近くで行われていたら? さらにテイスターの一人がパーカーだったら・・・・・? その結果は破局的なものになる可能性だって、ないとは言えませんしね。

 と、ここまで考えていくと、どうも一番ブラインド・テイスティングで分かりやすいのは“真に偉大で、情熱ある造り手”と“効率と量産第一の造り手”の差、のような気がします。これは、ホントに分かりやすいですよね。ブラインドでも。(当たり前すぎますか)。
 なので・・・・・・、例えばシャンパーニュのアヴィズ村とクラマン村の違いよりも、それぞれの地域で今、真に畏敬すべき仕事をしてる造り手は誰なのかが知りたい(メディアには書いて欲しい)と思いますが・・・・・、どうでしょうか?
 それでもソムリエさんやワイン・アドバイザーさんが、この村の南北のテロワールの違いがですねぇ・・・・・と言い出したら、一度尋ねてみてください。
「その違いって、ブラインド・テイスティングで100%、分かるんですか?」と。

ちなみにブラインドで良く使われる、写真の黒いボトルカバーは近年、ワインによろし くない影響を与えるとも・・・・・言われることも多いようです。

追伸:結局、長くなってしまいました・・・・・。短い原稿(今回こそは)を期待された方には・・・…申し訳ないです。

 

今月の「ワインが美味しくなる音楽」:
エアコンのない時代、
音をエアコン代わりにしたジャワ宮廷の智恵。
『ジャスミン・アイル ジャワのガムラン音楽への誘い』
熱帯、インドネシアの宮廷の人々や貴族たちは、智恵を絞ったんでしょうね~~。どうしたら年中高温多湿のジャワ島で、少しでも涼しく暮らせるか。もちろんエアコンのエの字もない大昔に。この音こそ、その偉大な回答の一つでしょう。極少人数編成で、ゆ~ったり、ゆるゆるとまるで風鈴の音をスローで聞くようなこの音。まさに、南国宮廷の雅の極致とさえ思えます。
当然全楽器アコースティックながら、抑制の利いたミニマルな展開とルーピングの妙は、現代のアンビエント・ミュージックの偉大な先駆とさえ思えます。
現地で1970年の録音。今も別格の新鮮さ。これからの日本の夏も、雅びにナチュラル・クールダウン、してくれます。

https://www.youtube.com/watch?v=GXKsEQJIcnM

今月のワインの言葉:
「比較は諸悪の根源である」 ウィリアム・シェークスピア

 

寺下光彦
ワイン/フード・ジャーナリスト
「ヴィノテーク」、「BRUTUS」、「MEETS REGIONAL」等に長年ワイン関連記事を寄稿。イタリア、ヴィニタリーのワイン品評会・審査員の経歴も。音楽関連記事も「MUSIC MAGAZINE」に約20年、連載中。


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