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『ラシーヌ便り』no. 149 「コトゥーリワイン、アンビス・エステイト」

 4月末にケリー・フォックスが来日しました。日本初リリースにあたり、直接ケリーに出会っていただく機会となったことを喜んでいます。ケリーという人とそのワインに魅せられた方が多く、内容の深い会となりました。私たちもまたケリーとそのワインに接して、大きな感動をうけるとともに、ラシーヌにとって特別大切なワインが新しく加わったと、確信しています。懇談や取材の場で話された興味深いことがらを、随時ホームページに紹介してまいりますので、ご期待ください。

 ここでは、ケリーのワインと同時にリリースしました、カリフォルニアの2人の造り手について、ご紹介いたします。

1)コトゥーリワイン(Coturri Wine)

 2003年秋のこと、カリフォルニアで研修されていた方から、トニー・コトゥーリのピノ・ノワールをいただきました。カリフォルニアにも、まさしくヴァン・ナチュールであるワインがあるのかと、当時とても驚いた覚えがあります。きめ細やかなテクスチュアで派手な果実味でなく、時間をかけて醸造されたことが伝わってくる、しっとりとした味わいでした。すぐに訪問はできないですし、またカリフォルニアワインに取り組むとなれば大変な決断ですから、他のキュヴェも送ってもらいました。残念ながら、他のキュヴェは、オフフレーヴァーの塊で、仕入れたら取り返しがつかないことは明白でした。おそらくセラー環境と樽内部の不潔さ故かと、取引を諦めた次第です。

 昨年9月にカリフォルニアに行き、ナチュラル・ワイン・バーの人たちから「コトゥーリに行かないの?息子の ニッコロ(愛称ニック) は、トニーと違うよ。最新ヴィンテッジを飲んでみたら」と勧められ、帰国直前に訪問しました。大火事の2日前のことでした。その日はフランスから友人たちがきていて、10個ものジョージア産クヴェヴリを総出で土中に埋めていました。外は気温が40度近く、父のトニーが長年醸造してきた木造のセラーに入ってみて、「一家は30年以上もの間、ここでワインを造ってきたのか。今のようなヴァン・ナチュールのムーヴメントは皆無の時代に、ナパやソノマの地という、トニーとはまったく考えの異なる世界のど真ん中で、ほんの一握りのファンとともに、どのようにして生きながらえてきたのだろう。よくこの環境で作られるワインをアメリカで売り続け てくることができたものだ」と驚きのあまり、気が付けばずっと黙っていました。

 セラー内は暑く、樽は古く、屋根は簡素です。
 さて、こんな状態でしたが、なんとも惹かれるところがあって、最近作り始めたニックのメルロー2016 を仕入れることにしました。さあ、不安だらけですが、これからニックといい仕事が続けていけますように。とりあえず、この度の試飲会では、ヴァン・ナチュールを心底から知りぬいた方々からご好評いただき、ほっとしています。 

 

 コトゥーリのワイナリーは、ソノマ・マウンテンの、グレン・エレンと呼ばれる小さな集落にあります。1979年にハリー・レッド・コトゥーリと彼の息子たち、トニーとフィルによって立ち上げられました。
 その歴史は、1960年、ハリーが現在ワイナリーとなっている場所を購入したことから始まりました。ハリー・レッドは、禁酒法・大恐慌時代に、イタリア系移民である父エンリコからワイン造りを学びます。1963年から、ハリーは息子のトニーとフィルにワインの作り方を教え、1974年のこと、二人の息子たちは5エーカー分のジンファンデルを植えました。そして1979年にコトゥーリ・ワイナリー(H. Coturri & Sons)を設立し、ワインを売り始めたのです。コトゥーリ・ワイナリーは近代カリフォルニアにおいて最初のヴァン・ナチュールの造り手です。
 トニーの息子ニックも、2003年にはフルタイムでワインを作り始め、2009年にワイナリーのサイド・プロジェクトとして、ニック個人が手入れをするブドウ畑を紹介するためのSonoma Mountain Wineryを始めました。彼は、”PURE 00 WINE” = ”完全無添加のワイン造り”をテーマに活動しています。将来的には、カリフォルニアに古くから植わっているブドウ品種に注力し、カリフォルニアのよりクラシカルなワイン醸造スタイルと、絶え間なく続くナチュラルワインのプロセスを融合させることが目標です。

 

2)アンビス・エステイト(AmByth Estate)

 農業としてぶどう栽培に真剣に取り組み、自分たちの好きな味わいを作っているハート家の人々、このような例を見たことがありません。仮にワイン作りの生活に憧れて、都会を離れ、ぶどう栽培をしたとしても、これほどまでに正真正銘の究極とも言えるナチュラルワインを作る人に出会ったことがありません。思い浮かぶとしたら、カッパドキアのウド・ヒルシュ か、最近シャンパーニュに登場した極小の某ドメーヌの二人ぐらいでしょうか。少量生産でとても高額、ヨーロッパのワインと長年取引してきた感覚では、蔵出し値は3倍のような気がします。でもアメリカの富裕層で、彼らの生き方とワインに共感するファンがたくさんいるようです。ヴァン・ナチュール大ファンの友人にすすめていただき、去年8月末に訪問しました。気温は47℃、喉が焼けしそうな砂漠で、水不足に喘ぐようなぶどう畑が、広がっていました。

 小さなセラーにはスペイン製のアンフォラが並び、醸造期間は24ヶ月以上。時間をかけて仕上げられた正統派のナチュラルワインの味わいに驚きました。パッソ・ロブレスはサンフランシスコから南へ 200km、思っていたより大変遠く、短い時間の訪問で、本当に残念でした。
 ビジネスで成功を収め、人生を楽しんでいるように見えるフィリップ、ユーモアに溢れ、ワイン作りを楽しむハート家の素敵な人々、是非彼らのワインと出会ってください。

 ウェールズ出身のフィリップ・ハートが、カリフォルニアにやってきたのは、1980年代のこと。フィリップはカーペットの輸入商として世界中を飛び回っていましたが、2000年にパソ・ロブレスに農場を構えます。それまではロサンゼルスに住んでいましたが、そのころから、パソ・ロブレスへやってきては、週末を過ごしていました。2004年にブドウ樹を植えるまでは、趣味でビールを造ったり、シードルを造ったりと自分たちで消費するものを、自分たちで造ってきました。

 アンビス(AmByth)とはウェールズ語で“永遠”を意味します。そしてこれこそが彼らが、後世に残したいものです。つまり、テンプルトン(パソ・ロブレス地方の)の地で彼らが幸せに満ちた生活をし、土地を耕すことが、その地に生きていた証となるのです。それだけでなく、畑が次世代へと残されていくものだということを前提に、未来を見据えて健全な状態の畑仕事に取り組んでいます。
 アンビスには、3つの魔法のコード(three magical chords)があり、それらはフィリップ達の心の奥底を流れ、考えを形作り、目的を与え、そして決断し行動に移させるものです。つまり、①100%灌漑なしでの栽培(100%ドライファーミング)。②バイオダイナミック栽培。そして、③ナチュラルなワイン造りです。

 
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