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Sac a vinのひとり言 其の十五「Difference numéro 2」

Allo,lequel point ce qu’il faut recommencer ,,,

さて、何処から再開いたしましょうか?
前回はソムリエの日仏の違いについて述べさせていただきましたが、今回は少しその周りに目を移してみましょうか?レストランはあらゆる関係性の中で成り立っていますから。

① 職場内での立ち位置

日本
 主観的ではあるが大体の店舗はキッチンがイニシアティブを握っている場合が多いように見受けられる。オーナー又はオーナーシェフがいて、その下にマネージャーやスーシェフ、そしてソムリエといった感じが大多数だろうか?準備時間などには話し合うことも多いのだが営業中は基本的にトップの指示のもと、全員が一糸乱れぬ行動をすることが求められていると感じた。

フランス
 まずはオーナーが絶対であり、何があろうとその意見は労働者の権利に引っかからない限り厳守される。そしてその下ではキュイジニエとサーヴィス、ソムリエは平等な立ち位置にある。またその部署内で上司のいったことは絶対である。守らないものは排斥される。(但し労働基準法が日本の比ではないほど厳しいので直接的な行為にはならない。)
また役割によるパワーバランスの違いは余り無いので、良きにつけ悪しきにつけ議論は活発に交わされる。時には洗い場も話し合いに積極的に参加してくる。個人的には営業中少しは自重したほうがいいとは思うのだが。

※フランスにおいては労働者の権利は非常に強く保護されており、其れを守らなかった場合、ストは正式な権利として認められているし、下手に権利を阻害すると自身の店を畳まざるを得ないほどの罰金を払わなくてはならなくなる。依ってどのようなポジションの人間であっても発言は許されるし、またその意見は検討されるのである。ハッキリ言って経営者にとってはかなり厳しいシステムである。

② 労働体系

日本
 大体2つに区分できる。
1.ランチとディナー両方とも営業の店舗。
週1日休暇がベースとなっており休憩時間も1時間前後のパターンが多い。当然ながら試飲会に行くには小規模店舗では難しく、大規模店舗でも責任者クラスがなんとか行ける、といった感じである。勉強は自発的なものや上司の裁量次第といったところか。
2.ディナーのみの営業の店舗。
ビストロやワインバーに多い。時間的な余裕が前者よりもあり、権限がある程度あれば比較的頻繁に試飲会に参加できる。業態的にも情報交換などもしやすいのでモチベーションがあればワインだけを見るのならばかなり融通が利くと思われる。

フランス
 基本的に完全週休二日制が担保されており、就労時の休憩時間も手厚く保証され、通常2時間以上は確保されている。(星付きなどの多忙な店の場合はその括りではないが、それでも1時間程度は確保できる。) ホテルなどの場合は週35時間が絶対厳守の為、下手をすると就労日数が週3日半という場合すらある。
プロフェッショナルとしてのレベルがどうあるかというのはまったくもって本人次第、と言っても過言ではない。

③ 喫煙に対するスタンス

日本
 避ける人が多いように見受けられる。自発的な理由ももちろんあるだろうが、それ以上に顧客が煙草の匂いを嫌悪するため自重しているようにも見受けられる。まぁこれに関してはソムリエうんぬんよりも飲食に対する世間の喫煙の忌避が非常に強くなってきていることが大きいかと思われる。

フランス
 意外におおらか。自重しているソムリエは周りから良い印象は持たれるが、だからと言って喫煙するソムリエがネガティブな印象を持たれることは余り無い。まぁフランスに関して言えば基本的に屋内の施設は完全禁煙なので、あまり煙草に関して言われづらい環境なのもあるが。室内の喫煙は認められていないがフランスはシガーの愛好家が非常に多い国でもある(街角のTabacで結構マニアックなサイズのシガーが普通に置いてあったりする)ので、喫煙はしていなくてもシガーの知識はある程度のランクのお店の場合必須である。オールドヴィンテージの表現でもシガーの銘柄とサイズで言い表すことが頻繁にある。せめてCohiba位はわからないとお話にならない。

④ 飲み

日本
 非常に多いという印象。深夜にやっている店舗があるのもあるが、日本特有の飲み文化とワインの勉強をする時間が就業中にはなかなか取れない事も相まって、向こうで働いていた人間としては、色々な意味で「よく持つなぁ」という印象である。あれだけ飲んで次の日も仕事をしっかりとこなしている方々には憧憬というか羨望というか、ある種の敬意を抱かずにはいられない。まぁ付き合いを断れないとかそういうのもあるのだろうが。

フランス
 基本的に仕事の後に飲みに行く、ということ自体が余りない。ああ見えてフランス人は基本ドライというか最初に優先されるのが家族である為、余り仕事以外の時間で同僚とはコミュニケーションは取らなかったりする。(もちろん仲良くなって休みの日に遊ぶことなどはあるが)一緒の時間を共有するより、お互い自分なりの時間を過ごしてそれを楽しそうに話していた。この辺りは民族的なスタンスの違いだろう。飲みに近いことがあるとすればホームパーティーなどになるだろうが、ニュアンスがちょっと変わってくる。もしフランスで仕事の後に飲みに誘われなかったり、飲みに誘って応じてもらえなくても、其れは極々日常的に起こりえることである。落込むことはない。
因みに日本の飲み文化について説明したことがあるが、同僚には「日本人は皆アル中なのか?」と真顔で心配されたことがある。まぁ聞かれたきっかけが新橋のサラリーマンに関する番組を見て、だからあながち間違っていないというかなんというか・・・

⑤ イベント

日本
 頻繁にワインやそれに関するイベントが行われている印象。またソムリエも頻繁にオーガナイズしているように見受けられる。お客様も積極的に参加していて、イベントを通したコミュニティーが形成されているように思われる。日本においてはワインがインポート文化であるという大前提があり、生産者と触れ合う機会自体も立地条件も相まって極端に少ないと言っても良い。生産者自身も業務で来日していることから余り時間は潤沢に無いので、如何しても消費者と生産者の関係は One of them になってしまいがちである。

フランス
 一部の生産者を除いてほぼ全ての生産者が直接の販売を行っている。生産者も古くからの顧客とのつながりは非常に大切にしており、歴史ある生産地ほど余り新しい顧客を探していないし、良い条件を積まれても首を縦に振らない。今ほどワインビジネスが巨大でなかったころからの顧客が第一なのである。そういったことから意外なところに信じられない銘醸が置いてあったりするのが面白いところである。・・・・もう閉店してしまったので言っても良いと思うがブルゴーニュのLadoixにあったビストロではムルソーのとある生産者のCorton charlemagneが300ユーロくらいで飲めたそうである。誰にでも出していたわけではないようだが。

上記のように生産者と消費者の距離が非常に近く、時には家族ぐるみの付き合いがあったりするので、余り生産者イベントのようなことは行われないし、集客もかなり難しい。精力的に行っている店舗もあるが、その殆どが海外の生産者であり、またフランスにおいては海外のワインマーケットはポートやシェリを除いて極小と言っても過言ではなく、正直マニアックなコミュニティーになりがちである。イベントよりも会いに行くのである。

⑥ サラリー

ここに関して日本とフランスの違いはその人物の置かれている環境次第としか言えないのだが、決定的に違う点が一つだけある。Pouvoir、チップの存在である。
割り振りや額などはお店ごとのルールがあり、どのくらいの額になるかは明言はできないが、ワインという店舗の売り上げに大きく関わり、また数字が明確に提示されるソムリエとい業務はチップの面でも優遇されやすい立場にあると言える。というより優遇しないとすぐに他店舗に引き抜かれかねない。
サーヴィスの人間の慢性的な不足は日本だけの問題ではなく古今東西悩みの種なのである。

ここまでつらつらと書き連ねてきたが、こうやって振り返ってみるとソムリエとしてはなかなか面白い場所にいたのだなぁ、と感慨深いものがあった。又戻りたいとはいまは露ほども思わないが、あの日々があったからの今と思うと何ともセンチな気分になる。

 

~プロフィール~

建部 洋平(たてべ ようへい) 
北海道出身で1983年生まれ。調理士の専門教育をへて、国内で各種料理に携わる。
ブルゴーニュで調理師の研修中、ワインに魅せられてソムリエに転身。
ボーヌのソムリエコース(BP)を2010年に修了、パリ6区の「Relais Louis XIII」にて
シェフ・ソムリエを勤める。現在フリー

 
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