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合田玲英のフィールド・ノートVol.57 《 十人十色のナチュラルワイン vol.1 》

《 十人十色のナチュラルワイン vol.1 》
 雑誌、ブログ、SNSなどでナチュラルワイン(自然派ワイン?ヴァン・ナチュール?)の定義づけが様々な言語で定期的に、アップされていますが、自分とぴったり同じ考えの人なんてもちろんいませんし、自分の中でもとてもじゃないけれど、定義づけできそうにありません。
 ただ、なにかに当てはめて「これは…である」かないかを判定するための大げさな定義ではなくて、どういう意味で自分がその言葉を使っているか、を意識できるように、考えをまとめて見ました。
 十人十色なんていう言い方は、なんだか弱腰な感じもしますし、それに、無理にナチュラルワインを定義づける必要もないのですが、自分の考えをまとめるために国ごとのナチュラルワイン観(僕視点)を書いて見ました。本当は各国の項目ごとに、何千文字も書けるようなものなのでしょうが、まずは整理のはじめとして、なんとなく書いてみました。フランスとイタリアはまだしも、他の国に関しては、認識不足のところも多いとは思いますが、どこかで会ったら「あれは、違うよ」とか「そうだよねー」と声をかけてください!

 

◆フランスのヴァン・ナチュール

 世界的なナチュラルワインのムーブメントの発信地はやはり、フランスと言っていいと思います。ロワールでひらかれる多くの試飲会。その一つのディーブ・ブテイユは今年で、19回目を数えます。畑でのビオロジックの栽培だけでなく、醸造中の亜硫酸添加の量も極端に低いです。亜硫酸ゼロのワインを造っている生産者の数も、フランスが圧倒的に多いですし、添加するにしても、ドイツの人にしたら入れているうちに入らないような量を、添加するだけです。
 何がなんでも亜硫酸をいれないという人も多いし、その理由も様々です。体に悪いから、生来アレルギーだから使わないとか、化学的に合成された亜硫酸は使わないけれど天然のものは使う、という人もいます。化学的に合成された亜硫酸を使わない人のなかには、亜硫酸だけでなく、二酸化炭素ガスや窒素ガスも使いたくないという人もいます。先に、ヴァン・ナチュールと言うものを造る!という考えを持ってから、ワインを造っている人が多いのもフランスだと思います。なので、他の分野から、ヴァン・ナチュールの造り手へと転向してくる人も多く、またマルク・アンジェリのようなベテランの造り手たちも、彼や彼女らを積極的にサポートしています。
 クラシックワインの世界との乖離も大きいですが(パリのヴァン・ナチュールの様子を見ると顕著に感じます)、ヴァン・ナチュールに欠かせない〈ムーブメントとしてのエネルギー〉の高さを、一番強く感じる国です。

 

◆イタリアのヴィノナトゥラーレ

 ナチュラルワインの世界と、クラシックワインの世界とが、重なっている部分が、フランスに比べて圧倒的に多い国。イタリアの地域性の高さが理由の一つなのでしょうか。ナチュラルワインとか、クラシックワインとか言う前に、自分の家や地域が続けてきたものを、造り手自身が愛するものを、外からの思想にはあまり影響を受けず、ある意味愚直に造り続けている。だからこそ、多くの地場品種が残っているし、品種や地域ごとの味わい違いが明確にあるように思います。
 イタリアは職人の国と呼ばれますが、ワイン造りにおいて醗酵を自然に任せる部分に比べ、造り手の介入する部分(または介入しなくても良いように、周りの環境を整えておく)がフランスよりも多いように思います。味わいだけでなく、歴史と市場価格においても各地域で最高と言われる、造り手たちでさえ、ナチュラルワインもしくはそれにとても近いワインの造り方をしていることからも、そのように思われます。

 近年では、フランスの造り手たちから影響された、「ヴァン・ナチュール」のようなワインも多く見られるようになり、早めに収穫をして抽出をしすぎず熟成は短め、というワインも出てきて、これからどのようにイタリアワインが変化していくか楽しみです。それと同時に、頑固親父の濃~いど迫力なワインも絶対に廃れないで欲しいです。

 

◆スペインのヴィノナトゥラル

 カタルーニャが先頭を走って、スペインの他の地域を牽引している、と言うよりは一人で突っ走っているような感じです。カタルーニャのワインはフランスのヴァン・ナチュール的、他の地域はイタリアのヴィノナトゥラーレ的、と大きく言えるかと思います。
 カタルーニャの造り手たちは、フランスの造り手たちとも連絡を密にして、多くの交流があり、南仏の都市やバルセロナ周辺でも多くのナチュラルワインの試飲会が開かれています。ラウレアーノ・セレスはその象徴的な存在でしょう。Brutal!(ブルータル!F〇〇kin good!のような意味合い)とTodo controlado!(トード・コントロラード:想定通り、のような意味合い)が口癖で、彼を始めとする個性的な造り手が多いです。

 それ以外の地域(と、まとめてはいけないほど広範囲ですが)では、各地域がバラバラで、個性的な造り手たちが点在し、その誰もが他の誰とも似つかないワインを造っています。スペインの全体像はまだ全然つかめていないのですが、各地域は、ワイナリーの大きさから造るワインの方向性まで、各地各様。スペインには、僕にはまだ全く共通点の見えないいろんな造り手がいて、一つの国としては理解不能なほど勢いがあります。

 

◆ドイツのナトゥアヴァイン

 イタリアと同じ、もしくはそれ以上に職人の国と言われている国、ドイツ。自然に任せて出来上がるワインよりも、自然が与えてくれたものを人の手によって別のものへと造りあげる、そこにアート(技術)があって、ワインからもそれを感じます。甘口に仕上げるために、亜硫酸を多くいれているワインであっても、山の湧き水がそのまま喉に流れこんできたような、清らかさを感じることもあります。イタリアと同じように、ナチュラルとクラシックの世界が重なりあう部分が多いとも思いますが、技術によるコントロールは幾分多いかもしれません。

 甘くて亜硫酸が多いというイメージもありますが、ドイツのワインには暖かい地域の人たちの造るワインには感じられることがあまりない、神秘性を感じます。ドイツの辛口ワインの需要が高まれば、それだけ亜硫酸の添加量も減ることになるわけです。オーセンティックな甘口ワインだけでなく、フードフレンドリーな辛口ワインが、これからも増えていくとおもいます。

 

◆ジョージアのブネブリヴィ・グヴィーノ

 グーグル翻訳でNatural Wineをジョージア語へと翻訳すると、ბუნებრივი ღვინოと出ました。ブネブリヴィ・グヴィーノと読むそうです。造り手にも一応確認しましたが、ナチュラルワインという意味になるそうです。そもそもジョージアの人がナチュラルワインという言葉を使うとも思えませんが、実際どうなのでしょう。
 ジョージアといえども、なにも超少量生産のクヴェヴリ醸造ワインが主流ではなく、今はもちろん大きなワイナリーによるワインも盛んに造られています。それに、ジョージアのナチュラルワイン=クヴェヴリワイン、というわけでも無いのでしょう。国全体の生産量でいうと、他の生産国と同じように、ナチュラルワインを造っている人は多くないのではないでしょうか。ただ、田舎の家にぶどうが植わっていて、家の一階や庭にクヴェヴリが置かれているというのは、やはり歴史の長さを感じますし、それと同時にそれがほとんど手の加えられることなく残ってきていることの、重要さを感じます。
 生産者たちがヨーロッパへと出てきて、他国の生産者が造るワインや、僕たちインポーターの考えに触れて、ジョージアのワインも変わっていくと思いますが、ジョージアのジョージアらしさを損なわないで欲しいと、余計なお世話でしょうが思っています。ジョージアらしさ、というのは単に色とか、スキンコンタクトとか、酸化的なワイン、ということだけではないと思うのですが、なんでしょう。
 一時期、自分の中で”造る”ワインと”出来る”ワインという言い方が好きだったのですが、ジョージアではワインは”育てる”と言います。また、例えば、いろんな地域でワインを飲む時に、出てくるキーワードがあると思うのですが、それがイタリアとジョージアでは圧倒的に「アモーレ」(愛:イタリア語)と「ラヴ」(ジョージアで僕は英語で会話しているので)です。確かに、愛は”育てる”ものだといいますしね。
ジョージアのクヴェヴリ醸造のナチュラルワイン、これからも続いていって欲しいです。

 

◆日本の自然派ワイン

 上記の国では、生産国としてのナチュラルワイン観(僕から見た)ですが、生産国としての日本は僕もまだまだ、わからないことばかりです。ナチュラルワインの大きな輸入=消費国であるがゆえに、造りの実感が伴わないで、言葉と情報だけが氾濫していて、わかりにくいのかもしれません。
 なので、もっと”ナチュラル”で”自然な”(定義は曖昧にしても)、もしくは小規模のワインの造り手とワインができて、SNSや訪問を通してワインをもっと身近に感じてくれたら、もっと話がまとまりやすくなるかもしれません。もちろんワインでなくて日本酒やビールでもいいですし、ブドウでなくて、他の果物や野菜からだって、”ナチュラル”や”自然”の意味を考えるきっかけになると思います。僕はワインが今の所一番好きなので、ワインでもって考えますが…。
 いつから誰が自然派ワインと呼び始めたかは知りませんが、僕はナチュラルワインと書くことの方が多いです。なんだか英語のカタカナ表記の言葉のもっている、いい加減で曖昧な雰囲気が、言葉として使いやすくて好きです。ちなみに、他の言語でNatural Wine, Vin nature, Vino naturaleとそれぞれ、書かれていますが日本語版wikipediaではビオワインとなっています。なんだかなぁと思うと同時に、ざっくりしていて別にこれでもいいかという、戦意を喪失させる気の抜けた言い方で、悪くない気もしてきます。

 

 それはともかくとして、日本語で自然派ワインというと、なぜかフランスのヴァン・ナチュールが一番近いような気がします。僕自身が、南仏のヴァン・ナチュール生産者のところに住み着いて、そこでの研修を通してワインを知っていったせいも多分にあると思いますが。

 一応vol.1としましたが、続きはきっとあります。国だけでなく、同じ文化の中でも、ワインビジネスのどの職業で働いているかによっても、定義づけが変わってくるのではないでしょうか。
ワインの定義は「ブドウから造ったお酒」、とこんなに簡単なのに。

 

~プロフィール~

合田 玲英(ごうだ れい) 1986年生まれ。東京都出身。
2007年、2009年:
フランスの造り手(ドメーヌ・レオン・バラル:写真左)で収穫
2009年秋~2012年2月: レオン・バラルのもとで研修
2012年2月~2013年2月:ギリシャ・ケファロニア島の造り手 (ドメーヌ・スクラヴォス)のもとで研修
2013年2月~2015年6月:イタリア・トリノ在住
2017年現在、フランス在住

 
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