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Sac a vinのひとり言 其の十三「失敗は成功のなんとやらかして候」

失敗は成功の母。
失敗というのは何らか理由で組み上げたロジック通りに実践できず、
成功に至らなかった“結果”である。
ではワインと料理のペアリングというものを考えた時に、
“失敗”というものは何になるであろう?
美味しくない?お気に召していただけない?採算が取れない?いろいろ考えられる。
ケースごとに見ていきたい。

①クォリティ
単純に料理とワインの相性が微妙で、求められるクォリティに達していない。
一言でいえば「美味しくない」ペアリング。
これに関しては、皆様自身の体験を思い浮かべていただければよいかと。

②シチュエーション
組み合わせだけを切り取ると悪くはない組み合わせなのだが、明らかに提供されるシチュエーションに即していない。
例)オーセンティックフレンチ(客単価50,000円)のメインにネグレットを提供。
  真夏のテラス席で魚介類にモンラッシェ。
  炉端焼きの店でPetrus。

③コストパフォーマンス
顧客の満足度も高く、組み合わせとしてもすばらしいのだが、提供し続けても
売り上げ的に店舗の利益にならない。
何らかの理由で利益を上げなくてもいいお店の場合、これは当てはまらない。
なんともうらやましい話である。
例) 客単価7,000円の店でペアリングでChambertinは出せないし、グラスシャンパーニュにKrugは出せない。

④好みの食い違い
ソムリエ自身は適切な組み合わせと思い、ロジックとしても間違っていないのだが、
顧客の嗜好をくみ取れずに満足していただけるものを提供できなかった場合。
例)  組み合わせとしてマンステールにゲヴェルツトラミネールは素晴らしいが、対象の顧客は赤ワインが飲みたかった。

 

書き記してみるとこんなところだろうか。

要するに「顧客が何らかの理由で満足しない」というのがいわゆる“失敗”である、
というのが現場に立つ人間にとっての一つの定義であると思う。
勉強会での実験や本での習得、試飲会での意見交換、そこから見えてくるさまざまな組み合わせもあり、理論的に“正しい組み合わせ”は数多あるだろう。
だが我々はプロフェッショナル、提供側であるから、享受する側の顧客の満足度が低かったら、たとえ“正しい組み合わせ”でもあまり意味はない。
ただ、ここで重要なのが「お客様に喜んでもらわないと意味がない」であって、
「お客様に喜んでもらえたサーヴィスが正しい」ではないということも、同時に認識していないと、それは単に顧客におもねるだけのサーヴィスとなってしまう。
お客様の顔色を見るのは大事だが、お客様の顔色を伺いながら仕事をするようでは
余り良い仕事とは言えないだろう。

で、あれば
どのようにすれば、お客様に適切なおすすめが出来るのか?
これを考えるときは、ステップごとに見ていけば大まかな要望は聞かずとも、くみ取ることが出来る。順にみていこう。

 

①シチュエーション
自身が所属する店舗の性格を把握する。
フレンチなのか和食なのか、バラエティーに富むのか専門店なのか、
オフィス街なのか住宅地なのか、多数の従業員がいるのかワンオペなのか
などと先ずもって自身の所属する店舗の性質や特徴、セールスポイントなどを
明確に分析し把握する。
またシェフと話し合い、「どの方向や世界観」に誘導したいのかを話し合うことも重要である。エキップとして情報の共有が出来ていないと、必ずと言っていいほど齟齬が生じるであろう。

②コストパフォーマンス
所属店舗の状況を把握したうえでの原価計算を行い、明確に利益の上がる形の購買を行う。安ければいいというものではなく、お店の状況に即した値段帯でなければならない。高すぎても安すぎてもいけないのである。目安としてはペアリングコースは大体メニューの値段に対して±1,000円~1,500円くらいが相場であろうか?

③クォリティ
メニューと構成を理解したうえで対象となる料理に合うワインを選び出すのだが、
ここで重要になってくるのがそこに至るまでの流れと、そこから至る流れに考えを伸ばすことである。この流れに関しての考え方は以前述べたと思うので、そちらを参照していただきたい。
また、ワイン自身の変化のしやすさや、トップとボトムでの違いがあまりに顕著な場合なども気を付けなければならない。一本から8杯とる場合であれば8人のお客様から満足して頂けないと意味がない。

④嗜好の把握
提供する前にこちら側が最高の組み合わせだと思っていても、お客様の好みに合わない場合もありえるので、決め打ちで組み合わせを強要するのではなく、お客様がこちらの提案を受け入れなかった場合のプランBやCを常に用意しておくと、大体のお客様には満足して頂ける。
例)赤だけ飲みたい人用に魚料理にあう赤を準備しておく。
  フォアグラにソーテルヌを合わせるのだが、甘いワインが苦手な方には
  シェリーや辛口のセミヨンなどで対応する。

 

このように適切なプロセスを踏んで検証していけば、お客様のアベレージでの満足度はかなりあげられる。ただし、これはある意味では管理する際のグローバルな考え方でしかなく、ある意味では下地でしかない。ここからどのように味付けして、店舗や自身の色を出していくのかが、プロとして1段上の仕事だと私は考えている。
失敗は減らすことは可能であるが、プロフェッショナルとしての高みを目指すのであれば、
失敗しないだけの考え方にあまり発展性はない。何か新しい独自のことを始めようとすれば支持して頂けず、厳しいご指摘をいただくこともある。その時にはしっかりとした自信のロジックを持っていれば、必ずや次の機会には発展したものにたどり着けるだろう。
変わらないということは停滞でしかない。失敗しないだけのサーヴィスには顧客がつかない。

変わらない伝統というのは、絶えず状況を把握して変化をし続けた結果、伝統になりえたのだし、この目が回るように変化し前進し続けるレストランシーンで、失敗をしないで変化しないだけのプロはすぐに取り残されるだろう。
プロであるから「失敗しない」様に努めるのは当然である。しかし、
プロであるから「失敗を恐れない」これも又当然である。

なんとも難儀なものである。

 

~プロフィール~

建部 洋平(たてべ ようへい) 
北海道出身で1983年生まれ。調理士の専門教育をへて、国内で各種料理に携わる。
ブルゴーニュで調理師の研修中、ワインに魅せられてソムリエに転身。
ボーヌのソムリエコース(BP)を2010年に修了、パリ6区の「Relais Louis XIII」にて
シェフ・ソムリエを勤める。現在フリー


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