『ラシーヌ便り』no. 147 「マルク・アンジェリ」
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最終更新日:2018/02/01
定番エッセイ, 合田 泰子のラシーヌ便り, ライブラリー
1月22日東京でも、午後から雪が降り始め、20㎝を超える積雪となりました。雪がやんだ翌日も路面が凍りつき、高速道路は封鎖。雪道対応のタイヤをつけた車が少ないためタクシーが少なく、混乱が続いています。北海道や日本海側では今なお猛ふぶきが続き、各地で宅配便の集荷・配送がとまっています。そのためしばらくご迷惑をおかけいたします。ワインが凍りついてしまわないか心配しています。
マルク・アンジェリ
先月に引き続き、マルク・アンジェリについて書かせていただきます。
1990年に南仏からアンジュにやってきて、ワインを造り始めたマルク・アンジェリ。当初は甘口ワインを造るつもりでした。
が、シャトー・ド・フェールのオーナーであるボワヴァン氏から、1947年のドライなシュナン・ブランを含む、熟成した多様な味わいを楽しむ機会を恵まれたマルクは、辛口シュナン・ブランの偉大さに目覚めます。ワイン造りを始めたころから、SO2の使用量を最小限に止める努力を重ねてきました。近年は、パトリック・メイヤーが実践しているホメオパシーに基づいた方法を用いることで、より早く目標に近づけるようになりました。この方法を用いることで亜硫酸非使用ながら、ワインを酸化・汚染することなく仕上げることができるようになりました。
このホメオパシーを実践したキュヴェは、次の4点です。
Mirabelle ミラベル2015、Gelinette ジュリネット2016、La Lune en Amphore ラ・リュンヌ・アン・アンフォール2016、Rose d’un Jour ロゼ・ダン・ジュール 2017
ホメオパシー法を施す前のワインをテーブルに置き、外気への反応、変化を観測しながらホメオパシー方法で仕上げるかどうかを判断します。ホメオパシー方法を取り入れない場合は、今までどおり火山由来のSO2(2グラム)を使用しています。2015年ヴィンテッジのレ・ブランドリーとレ・フシャルドはSO2を従来の方法で添加しましたが、分析では総亜硫酸は 19㎎です。
「いかに酵母数を増やすことができるか、ずっと追求してきました。樽内にフレッシュなマールを入れたり、冬場にはセラー内を暖め、汚染から保護しながら、酵母の活動を活発にしています。しかし、それだけでは不十分に感じています。その前段階として畑作業でも区画に適した草を生やすなどを試み、樹の活力をあげています。以上のような、試みを繰り返してきた結果、それぞれのキュヴェの総亜硫酸値が低く仕上げられるようになりました。」マルク・アンジェリ談
《ラ・リュンヌ》は、2002年は100㎎/ℓを超えていました。が、2011年には18㎎、それ以降は作柄にもより、2014年は38㎎でした。雨にみまわれた困難な年に、この仕上がりになるということは、長年の研鑽の結果だと思います。酸化のニュアンスがなく、ますます内からの輝きがましてきているように感じられます。
―熟成期間―
《レ・フシャルド》は、華やかな香りに満ち、味わう歓びにあふれる素敵なワインです。《レ・ブランドリ―V.V.》は様々な要素がつまり、濃密で力強さがありながら洗練さを備える、偉大なシュナン・ブランです。しかし、長い間、その強さゆえに、若い間は飲みづらさが伴いました。レ・ブランドリーは2013年ヴィンテッジから、レ・フシャルドは2014年ヴィンテッジから樽での熟成期間を24か月にしました。熟成期間を十分長くすることでワインはより洗練され、ビン詰めしてからより早い段階で味わえます。同時に、ワインは樽内で安定とハーモニーを身につけ、ろ過をせずにビン詰めが可能になりました。総生産量の半分を占めるラ・リュンヌは、2年バリック熟成にするのは資金繰り上の問題があり、今のところ18ヶ月醸造です。
2015年のレ・フシャルドとレ・ブランドリーVVが1月にリリースされました。例年の50%以下の生産本数ですが、いつもどおりわけていただくことができました。高額ですし、そんなにすぐには売り切れないだろうと思っていたのですが、先週在庫を確認してみましたら、すでに完売していました。数本だけ会社に残したワインを、大切に時間経過を追いたいと思います。
マルク・アンジェリの歩み
1990年 アンジュ地区コトー・デュ・レイヨンとボヌゾーに7haの畑を購入し、ワイン造りを始める。
1994年 ヴィーニュ・フランセーズを植える。
1998年 ル・テロワール(ラシーヌの前身)と取引を始める。
2000年 ラ・ルネッサンス・デ・アペラシオンの活動を始める。当初メンバー40名、現在250名。
2005年 アンジェのグルニエ・サンジャンにて、第1回試飲会を主催する。
2006年 フィロキセラ禍のために、ヴィーニュ・フランセーズを抜く。
2009年 マダガスカルの支援をラ・ルネッサンス・デ・アペラシオンのメンバー全員で始める。
2010年 再び、別の区画にヴィーニュ・フランセーズを植える。
2013年 秋、赤ワインの醸造法を変える。ラ・リュンヌ畑産ブドウで、クヴェヴリ醸造を試みる。
マルクの歩みを振り返りますと、妥協せずにビオディナミを実践しているだけでなく、栽培・醸造の両面でたゆまぬ工夫と革新を続けていることに、驚かされます。ワインには進歩の跡が鮮やかに刻み込まれているため、近作の素晴らしさに感激します。
「ワインを造るということは、ほぼ毎日畑にでること。畑で仕事をしていると直接地球の変化に気づく。また、ワイン造りの仕事や催しを通じて、他の産地や国々の造り手たちと連帯感を感じる」と、マルクは話しています。この思いが、ラ・ルネッサンス・デ・アペラシオン運動の原動力なのでしょう。