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『ラシーヌ便り』no. 146 「アメリカワイン入荷予告/マルク・アンジェリ」

公開日: : 最終更新日:2018/01/31 定番エッセイ, 合田 泰子のラシーヌ便り, ライブラリー

 新年おめでとうございます。
 昨年は、フランスに留学して30年、2018年はワインの仕事を始めて30年になります。このように長い間たゆみなく歩んでこられたのも、ずっと買い続けてきてくださった多くの方々に支えていただいてこそ、とあらためてお礼申し上げます。
 昨年を振り返ると、嬉しいことに、また素敵なできごとに恵まれました。まだ、発表できないことで大きなニュースがありますが、2月にブノワ・マルゲが初来日することも、嬉しいできごとです。
 古いつきあいでは、ル・クロ・デュ・チュ=ブッフが、最近とても美味しいこと。正直、一時苦しむこともありましたが、2014年と2015年、そして今回入荷した2016年に触れると、ティエリーが本腰いれて作っているのがよくわかります。久しぶりにパリで会ったのですが、「遅霜と雹害で、作ることができず、売るものもないから、スペインとジョージアの輸入しているワインを、パリのレストランをまわって営業しているんだ」と言っていました。2018年は、どんな天候になるのでしょうか。2年続きの厳しい年でしたから、どうか今年は標準なみの収穫に恵まれてほしいものです。

 さて、新しい年を迎え、お知らせがあります。ラシーヌは、2018年4月より、アメリカワインをご紹介することとなりました。
 オレゴンから2社、カリフォルニアのセントラル・ヴァリーから1社、計3社分が入荷します。何故、アメリカワインを扱うことになったのか? それは、ケリー・フォックスと、アンビス・エステイトのフィリップ・ハートが造るワインに出会ったからです。4月末には、皆様にお披露目させていただきますので、是非、楽しみにお待ちください。

Kelley Fox ケリー・フォックス

 2016年の春、一通のメールが届きました。「オレゴンでピノ・ノワールを造っています。ロンドンの取引先から、日本のパートナーにはあなた方しかないと、勧められました。ご興味があれば、会いに来ていただけませんか?」
 オレゴンといえば、ポートランド、マット・クレーマーが住む街、ピノ・ノワール・セレブレーションという、ポートランド郊外の街マクヴィルで、街を挙げての一大ワインイベントが催されるところ。
 そもそもは七面鳥の大産地で、ワインとは無縁だったこの地に1960年代、デーヴィス(この当時はまだ、醸造学科がなかった)で学んだ ズィ・アイリー・ヴィンヤーズのデイヴィッド・レットが、ピノ・ノワールを植えたことに始まります。彼は、ニュージーランド、南アフリカなど各地の土壌と気候を調査し、オレゴンの北部をピノ・ノワールの聖地と選びました。
 内心「アメリカのワイナリーなんて、どうせ近代建築の建物で、フル装備の近代施設かプレハブの建物でワインを造っているのだろう」くらいに思っていました。が、行ってみたら、森の中に見たこともない木と石でできた巨大な建造物が、訪れる人を圧倒します。ケリーは、広大な畑をビオディナミで栽培するワイナリーの一隅で、20000本ほどのワインを造っていました。一目でデリケートな感性の持ち主だと感じ、強く自分の仕事の仕方を披露することもせず、年齢不詳の若々しく美しい方でした。ワインは、ハッとするほどピュアで、テクスチュアがなめらか。何層にも細やかさを感じる、複雑でまぎれもないファイン・ワインです。

 彼女は、誰にでも販売するのでもなく、一人一人、パートナーとなる取引先を選んできたようです。ですから、アメリカの中でも、ある程度いい店に行けば必ずあるわけでなく、自分の感性をシェアし、伝えてくれる人を選んでいると感じました。
 自根で栽培される畑があり、ケリー自身が述べているとおリ、花崗岩質の土壌ではフルーティで、果実味がきわだったワインが生まれます。ラシーヌには、ヨーロッパからジョージア、他に多くのパートナーがいますので、アメリカワインを扱うとなれば、単なるアメリカ産ワインではなく、造り手そのものと、栽培・醸造方法に特別な意味がなければ、扱うわけにはいきません。ケリーのワインには、あまりある意味と魅力が溢れています。ラシーヌに、会いに来て、と言ってくれたケリー。この、まぎれもない最上級のパートナーを、あらたにラシーヌの仲間に迎えます。

マルク・アンジェリの新しい境地 

 いよいよ、フシャルド2015とブランドリ2015が入荷します。昨年訪問をした際、2016年を樽から試飲しました。 sec でnon filtre に仕上げるために試みてきた長年の積み重ねに、ようやく答えが出てきていると強く感じました。余韻に感動が長く続く、20年以上の研鑽が結実し、通常味わえない世界を見せ始めていると思った訪問でした。
ロゼ・ダンジュールは、既に2016年入荷分(2015ヴィンテージ)から亜硫酸添加なしで仕上げられていますが、フシャルドとブランドリの2015年も、亜硫酸をホメオパシーの考え方(Hervé Jestin の流儀) でビン詰めされました。亜硫酸を使った「記憶」の作用と、ほぼ無添加で仕上げたあげく、いっそう味わいの伸びやかさと美しさが加わり、本人も違いに大変驚いていました。2018年2月に、マルクの新作を味わう会を開きたいと思います。
 2015年と2016年の収穫は50%減。そのため、蔵出し価格は大幅に値上がりしました。ラ・リュンヌ、ロゼ・ダンジュールは1000円以上小売価格があがります。私たちにとって、マルクのワインは、ヴァン・ナチュールであるか否かを問わず、丹精をこめた栽培から生まれる、繊細にして複雑な相をそなえ、品の良い余韻の心地よさを備えた限りなく美しいワインです。「良いワインとは、何か」という問いに応えられる、理想的なお手本だと考えていますが、小売価格がこれほどまでも値上がりしてしまっては、マーケットが限られてしまいます。そこでマルクの真価を知っていただくために、やむをえず値上げ幅を最小限にとどめることにしました。2017年も収穫量が少ないのですが、2018年はどうでしょうか? このまま値上がりが続いてしまえば、価格の維持は難しくなるかもしれません。今年リリースのマルク・アンジェリは、掛け値なしの宝物です。より多くの方々に大切にご紹介していきたいと思います。

 
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