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Sac a vinのひとり言 其の十一「Focus、Fuoco、焦点」

例を挙げよう。
鶏のから揚げにクミン、コリアンダー、ターメリックを利かせたものにワインを合わせる場合、何を合わせるか。
【返答1】Blanc de NoirChampagne出来れば樽熟を経ているもの。
【返答2】白い石灰土壌で育ったSauvignon Blanc ステンレス熟成なら尚善し。
【返答3】大樽熟成のMourvèdre主体のワイン。バンドールなどが好ましい。

以前も書いたと思うが、マリアージュを考える際、対象となる料理に合うワインが一つだけということはほぼなく、様々な合わせ方が可能である。

上記の例の場合
【返答1】香ばしい衣と油の風味に対して、二次発酵由来の豊かな香りでバランスをとる。黒葡萄想定はスパイスとの親和性から。
【返答2】唐揚げにレモン汁をかけるのと同じ原理。酸味で食べやすくさせる。
【返答3】肉汁、衣のボリューム感、スパイスには、しっとりとしたテクスチャーのMourvèdreが非常に好相性。

と3者3様である。どれが優れているということもなく、選択の際の判断基準はアマチュアであれば嗜好や好みであり、プロフェッショナルであればコスト(金銭面や管理)や対象となる料理の全体での位置づけである。
特にこの対象の料理の位置づけというのが非常に重要で、こちらに関する認識を誤るとマリアージュ自体のレベルが高くあろうとも顧客の満足度は著しく下がると考えていい。
マリアージュ全体での強弱や流れは以前書いたので省かせていただく。
前後の関係性でワインの選択が変わるのは皆様の認識としてもあるとは思われるが、今回は更にもう一歩踏み込ませて頂きたい。
上記した通り対象となる料理に対して複数のワインが候補にある場合においては、決定するのがなかなか難しいものである。しかし、視点をワイン側から料理側に置き換えてみると、意外にすんなりと決まるものである。
それはなにか? 簡単である。その料理の売りは何であるかを確認すればいいだけである。
焦点をどこに合わせるのかをきっちりと認識すればよいのである。
先ほどの例であれば、もしその売りが「カリカリの衣で揚げたての熱々!」といったものであれば、Champagneのほうが満足度は上がるであろうし、例えば食べ放題の宴会のコースであればSauvignon Blancのほうがしっくりと来るであろうし、ブランド鶏の肉質が売りで尚且つゆったりとした空間で供されるのであればMourvèdreなどはその本領を発揮するであろう。
こういったそれぞれのメリットを、きっちりと把握して提供することはあまり議論されないが、
個人的にはマリアージュにおける最重要項目であると個人的には考えている。

想像して欲しい。
カリカリの衣の風味を楽しみたいのに、さっぱりとした組み合わせにされてしまった場合を。
考えてみてほしい。
食べ放題で満腹気味なところにさらに、滑らかで重みのあるワインを飲まなくてはいけない時を。
思い浮かべてほしい。
大好きなブランド地鶏を味わおうと思ったら、衣の味が引き立つ組み合わせを提案された場合を。

釈然としないであろう。

組み合わせ単体としては正しいのであるが、お客様の満足度を高める組み合わせではないのである。一言で言えばニーズに即していない。
もちろん、お客様の意図していないものを提案し、新たなニーズを作り出すというのもプロフェッショナルのやるべきことであるが、それを行った場合「予想外の満足度」は高まるが「安心感の満足度」は下がるものと認識すべきである。要は焦点がどこに対して当たっているかをしっかりと認識しなくてはいけないということだ。

もし、クラシックなフレンチのデギュスタシオンメニューであるのならお店の性格や立地にもよるが、王道な組み合わせ8に対して、コンテンポラルな組み合わせは、どんなに多くても2くらいに抑えるべきであるし、また提案するポイントも、ちょっと切り口を変える部分や中継ぎにすべきである。期待感を高めて「さあメインのお肉!」というときにあんまりアバンギャルドなことをやると顰蹙を買いかねない。イノベーティブフレンチの場合はその逆になるだろうが・・・
トリュフのコースであるのなら、どのワインもトリュフを引き立てる構成にすべきであるから、余り酸味が立ったワインは出すべきではなく、全体的に柔らかい構成にしなければならないし、
クエ鍋のお献立なら、メインのクエに至るまではあまり盛り上げ過ぎずに、最後のクエで合わせ方のテンションのギアを上げるイメージにすべきである。
提供されるもののコンセプトをきっちりと把握し、それに沿わせなければならない。主役は何であるかは明確にしなければならず、脇役はあまり目立ってはならない。

なので、料理とワインの組み合わせに複数の解があるとき、選ぶポイントは

ーどういったお店で
ーどういった客層で
ーどういったコンセプトで
ーどういったタイミングで
ーその料理がどういった位置づけなのか
ーコスト

これらを鑑みてどこに焦点を当てるのかを意識すれば、割とすんなりと決まるものである。
勿論「この料理には絶対にこのワインを出したい!」という方もいらっしゃるし、そういった拘りはプロとしては欠かざる物かもしれない。是非やるべきであると私は思う。
だが、もし実行するのならば、先ほどの満足度とニーズに関するマネージメントを確りと念頭に置き、トータルでのパフォーマンスのバランス調整をきっちりとこなさなければならない。
素材のすばらしさの表現や、ワインとの好相性はお客様に伝えなければならないが、何よりも重要なのはお客様の喜()びであって、我々の拘りではないのだから・・・

 

~プロフィール~

建部 洋平(たてべ ようへい) 
北海道出身で1983年生まれ。調理士の専門教育をへて、国内で各種料理に携わる。
ブルゴーニュで調理師の研修中、ワインに魅せられてソムリエに転身。
ボーヌのソムリエコース(BP)を2010年に修了、パリ6区の「Relais Louis XIII」にて
シェフ・ソムリエを勤める。現在フリー


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