『ラシーヌ便り』no. 144 「カリフォルニア北部の大火災・ソルデラ試飲会・10月仏出張」
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定番エッセイ, 合田 泰子のラシーヌ便り, ライブラリー
1)カリフォルニア北部の大火災
10月8日、カリフォルニア北部で山火事が発生し、ナパ、ソノマ、レイク、メンドシーノ、ソラーノ・カウンティなど、9万ヘクタールに及ぶ大火災となりました。9月にカリフォルニアを訪問したことはお話ししましたが、その時訪問した4軒のうち、3軒が被災地域にありましたので、大変心配いたしました。幸い全員ご無事なことがわかりほっとしています。「数キロまで火が迫っている」と知らせてくれたサンタ・ローザとソノマの間にある造り手は、木造の簡素な古い建物だったので、本当に心配しました。でも皆さん、畑もセラーも無事でした。ここでは、特に畑はすぐ際まで火が迫り、また樹の上を火がわたったのですが、燃えなかったと聞き、驚くとともに安堵いたしました。このような大規模の火災となった原因は、強風、乾燥、高温のためと言われています。特に高さ10-18㎝の乾燥枯草を伝って、火が地を這うように山間地から山麓へと猛スピードで燃えひろがりました。(防災研究所の【カリフォルニア山火事[2017年]・現地調査レポート/山村武彦】 に詳しく報告されています。
今年はヨーロッパを襲った春の遅霜、日本では台風の被害が大きく、自然の脅威の恐ろしさを感じるとともに、太陽と水の自然の恵みがあってのワイン造りであることをあらためて知り、日々自然の恵みに感謝を深めたいと思います。犠牲になられた方々のご冥福を祈るとともに、被害にあわれた方々の復興をお祈りいたします。
2)SOLDERA DALL’ AZ.AGR.CASEBASSE 試飲会
生命が躍動するジャンフランコ・ソルデラのワイン
Wine as Living Art
10月19日、ラシーヌオフィスにて、カーゼ・バッセの5ヴィンッテジの垂直試飲会をいたしました。今回のテーマは「失われたカーゼ・バッセを求めて:2007~2012年」(2010を除く)です。大変残念ながら、私は出張中のため出席できなかったのですが、20日夜に帰国し、わずかに残っていた2007年と2011年をテイスティングし、あらためてこのように優雅で深い感動をあたえてくれるワインを味わえる幸せに圧倒されてしまいました。何よりも、私自身が飲みたくて企画した試飲会でしたが、ご出席いただいた方、スタッフの感想を聞き、喜んでいます。
カーゼ・バッセとのおつきあいは、2007年12月にお取引がきまって10年、ジャン・フランコさんも80歳になられました。ご承知のとおり、2012年12月2日深夜に、6ヴィンテッジ<2007-2008-2009-2010-2011-2012>にわたる熟成中の大樽10本のブルネッロ・ディ・モンタルチーノの弁をあけ放つという、重大きわまる事件がおきました。62,600ℓのワインが失われ、経済的ダメージはもとより、ソルデラ一家にとって、悲痛な事件となりました。以来、塚原・合田は毎年のように、ジャン・フランコさんを訪問してまいりましたが、「何人も私たちの仕事と、この土地とそのワインに対する情熱を、止めることができない」とソルデラ家の人々は未来に向けて、強く前進してこられました。この間、他の樽に残ったワインが、少量ずつリリースされてきました。
昨年春に訪問したおりに味わった、2013年は、神々しいばかりの荘厳な味わいにあふれ、「ソルデラ復活」にかけるジャン・フランコの熱情そのものを感じ、感動のあまりに言葉を失いました。来年は、2012年事件後初の作になる2013年が、いよいよリリースを迎えます。そこで新生カーゼ・バッセに先立つ近業を振り返り、認識を新たにしたいと思い立ちました。
当日は、ザルトのユニヴァーサル4脚とロブマイヤーのバレリーナIV 1脚で試飲をいたしました。飲み頃を迎えた2007年、2008年の豊かな充実した味わいは予想どおり見事な味わいでしたが、2011年、2012年、近年のヴィンテッジがもつ高貴で美しい緊張感に多くの方々が驚かれたようでした。
Az.Agr.カーゼ・バッセは、ジャンフランコ・ソルデラその人と一体になっています。そのワインが、「ブルネッロ・ディ・モンタルチーノ」アペラシオンを脱して、あえて「IGTトスカーナ 100%サンジョヴェーゼ / Az.Agr.カーゼ・バッセ」を名乗るのは、名誉ある孤立を選ぶ、いまなお意気軒昂なジャン・フランコの自尊心がなせる業です。孤高のワインは、畑とセラーを貫くエコシステムの哲学がもたらしたもので、ファイン・ワインを目指し、作ろうと志す者は皆、かくあるべきと思わずにはおれません。カーゼ・バッセを味わうことは、ワインを愛するものにとって、至福のひと時です。
3 ) 10月フランス出張
10月5日からシャンパーニュを中心に出張しました。シャンパーニュだけで帰国する予定でしたが、重要な案件が続き、2週間に及ぶ出張となりました。フランス北部は2016年、2017年と2年続きで収穫量が少ないため、今後入荷するワインの本数も極端に少なくなります。自然と共に生きるワイン造り故にいたしかたないことですが、それ以外の理由で、入荷本数が減ることは残念なことです。
オリヴィエ・コランでは、出荷直前のパレットが、セラーから636本分が盗まれました。特に、生産本数500本のレ・ザンフェール2010年は60か月熟成をして、オリヴィエが、長期熟成初の試みでリリースしようとしていたもので、そのうち30本が失われました。
ブノワ・ライエでは、ブジィ・ルージュのブドウ600本分が、収穫直前に盗まれました。近年のブノワの評価は、高くなる一方で、とりわけ ブジィ・ルージュは、比類ないコトー・シャンプノワです。今年は霜害を受けても、開花期の天候が良く、9月上旬のブドウの状態はすこぶるよく喜んでいたら、600本分のブドウを盗まれたのです。「失ったのは、お金でなく、クオリティだ。何て酷いことだ。」より良いワイン作りのために、工夫と丹精をつくすライエ家の人々の一年の仕事と心中を思うと、残念で仕方ありません。以前、セロスでも盗難がありましたが、そのうち、フランス中の重要なブドウ畑は厳重な鍵つきの塀で囲まれるか、夜間のガードマンが必要になるのでしょうか?