合田玲英のフィールド・ノートVol.53 《 チンクエカンピ 》
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《 チンクエカンピ 》
イタリア、エミリア・ロマーニャ州、ランブルスコの生産者
2014年に、フランスのナチュラルワイン試飲会(Chai l’un chai l’autreだったろうか)に合田泰子が行っていた時のこと。”いいランブルスコがあるぞ”と、イタリアのフランスワインインポーターに教えてもらったそうで、チンクエ・カンピという生産者って知ってる?と、連絡が来た。その時僕はたまたま北イタリアにいて、Sorgente del Vinoというエミリア・ロマーニャ州のヴィチェンツァで開かれた試飲会に行った後だった。イタリアに来て、ちょうど1年くらい。あまりエミリア・ロマーニャ州のワインのこともわかっていなかったし、その州の生産者の参加も多かったので、一通りの生産者を飲んだ後。そしてその中でも、特に印象に残っていた生産者の一人だった。試飲会場ではちょっとねっとりとした泡で、野性的な果実味とタンニンが印象的だったけれど、その後実際にワイナリーを訪問した時の印象は、ランブルスコ系品種の野性味と酸味を、緻密な泡が綺麗にまとめあげていた。
造り手であるヴァンニ・ニッツォリは200年以上この地で農家を営む一家に生まれ、大学を卒業後、いくつかのバルサミコ酢の生産者の元で働いてた。そして2003年に祖父の農家の仕事を引き継ぐと同時に、ワイン醸造についても本格的に取り組み始める。現在でもセラーの二階でバルサミコ酢を熟成させている。そしてさすがパルマの造り手だけあって、サラミやチーズは地元の小規模農家を知っていて何を食べても美味しい。生ハムメロンも悪くないかも、と初めて思った。イタリアのワインはどこの州のものでもそうだけれど、エミリア・ロマーニャ州のワインは特に食べ物と合わせて、楽しく飲めるワインが多い。白のスパークリングも、あえてデゴルジュマンなどをせずに、澱と混ぜることで、そういうワインに慣れ親しんだ人にとってはとっても食欲をそそられる。けれどヴァンニにとっては、澱の舞うワインを飲むのは大好きだが、あえて造るのなら、透明感のある味わいの方にかけたいそうだ。
・Lambrusco dell’Emilia Cinquecampi Rosso:ランブルスコ・デッレミリア・チンクエカンピ・ロッソ
10種類ほどのランブルスコ種から造られる、チンクエ・カンピのベースの赤。フィルタリングはせず、瓶内2次醗酵は、そのVTの果汁を冷却して醗酵を止めたものを、2次醗酵用の糖分として使用する。よく、当年産のモストを使ったり試したようだけれど、この方法がいちばん綺麗に泡が出るのだとか。
・Trebbiano dell’Emilia:トレッビアーノ・デッレミリア
白のスプマンテも赤と同じように、デゴルジュマン無しにしようかと思ったけれど、やはりテーブルの上に並ぶことを考えると、クリアな色合いを目指したい。
味わいも、澱の舞ったワインも飲むのは好きだけれど、自分が造るのなら、クリアなものを造りたい。
・Rio degli Sgoccioli:リオ・デリ・ズゴッチョリ
ランブルスコ・バルギはもともとランブルスコに使用可能な品種と正式には認められていなかった。ランブルスコ協会の依頼を受けて、ランブルスコ・バルギの特性を調べるために、単一品種で作り出した。2009年に正式にランブルスコ・バルギの使用が認められ、ボトルにも品種名を表記することができるようになった。品種自体は皮が厚くとてもタニックな印象と事典にはあるが、実際にブドウを見てみると、粒は比較的大きく、皮が透き通るほどに薄い。ヴァンにはあまり抽出を濃くはしないということも重なり、出来上がるロッソ・フリッツァンテの色は少し淡く、味わいは繊細な果実味が広がる。
・Rosso dell’Emilia Le Marcone:レ・マルコーネ
レ・マルコーネとは畑の区画名。ランブルスコ用のマルボ・ジェンティーレという品種が栽培されている。エミリア・ロマーニャ州では赤スプマンテも長らく造ってきたが、地元の人が飲んできたものは通常の赤ワインを樽熟成させたものも飲んできたらしい。”赤ワインといってもマセレーションをした果汁を樽に入れて、補酒もしないで、アルコールに変わるそばから飲むので最後の方はほとんどお酢だったろうね”と、ヴァンニ。そういう昔ながらのものも造りたいが、どうせ造るのならと、ランブルスコ用品種の中でも特に、身が小さく皮が厚く、タンニンもしなやかな品種として、マルボ・ジェンティーレを選んだ。目立たないが、絶妙なバランスで、あまり知られていない品種であるのにもかかわらず風格のあるワインに仕上がっている。
~プロフィール~
合田 玲英(ごうだ れい) 1986年生まれ。東京都出身。
2007年、2009年:
フランスの造り手(ドメーヌ・レオン・バラル:写真左)で収穫
2009年秋~2012年2月: レオン・バラルのもとで研修
2012年2月~2013年2月:ギリシャ・ケファロニア島の造り手 (ドメーヌ・スクラヴォス)のもとで研修
2013年2月~2015年6月:イタリア・トリノ在住
2017年現在、フランス在住