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Sac a vinのひとり言 其の七「組み合わせと提案」

例をあげよう。
鶏のから揚げ 用いる部位は腿、味付けはしょうゆベース、臭みを消すために生姜に漬け込み2度あげしたものとする。
之に対して提案することのできる飲料を考えると実に様々な候補が挙がってくる。

スッキリ系
ピルスナービール、レモンチューハイ、モヒート、ステンレス発酵のソーヴィニョンブランやヴェルメンティーノ

バランス系 
辛口純米酒 冷で、新樽熟成で太陽をしっかり浴びたシャルドネ

しっかり系 
コーラ、樽の利いたカベルネソーヴィニョン、芋焼酎お湯割り

など、タイプ別に実に様々な候補があり、又その全てがかなりの高いパフォーマンスを誇る。

私は別に唐揚げが実に汎用性が高く素晴らしい酒の肴である!と力説したいわけでは無く(個人的にはそう思ってはいるが)、ここから考えられるのは、マリアージュという業務を考察した場合、商品に対して最高のパフォーマンスの提案をすることは最重要課題ではあるが、それと同様に、又は状況によってはそれ以上に、“楽しみ方の提案”という業務は非常に重要であるということである。

今回は例としてから揚げを挙げたが、考えてみても欲しい。
メニューが頻繁に変わる店であれば余り問題はないが、もし、在るスペシャリテが売りのお店で、通年でそちらを提供していて、且その商品の回転率と利益率が優れていてリピーターも多いものとする。
例として挙げることのできるものは、ウナギのかば焼き、焼き鳥、サーロインステーキなど目玉商品があり、その魅力で集客をしているタイプの店舗。
そのような状況であると、明確に店に対する貢献度の高い商品のディティールを変えることは容易ではない。しかしリピーターが顧客の中でも高い割合を示すようであれば、例え満足度が高くても何時までも同じ組み合わせを提案することは得策とは言えない。
この様に料理サイドの変更が難しい場合に、飲料部門からの提案により新たな切り口で需要の開拓をしていく事が店の流動性や成長のために重要になってくる。

上の例ならば、かば焼きに対して
 1.冷酒 スタンダード且クラシック
 2.ラガービール 夏に人気のポートフォリオ
 3.お湯割りの焼酎 冬の厳しい寒さに
  辺りは通常でもお勧めしているであろう。
  ソムリエであればそこから新たに需要を生み出すための提案をしなければならず、
 4.グルナッシュメインの赤 たれの甘辛と太陽を浴びて丸々太った果実味
 5.シラー、ムールヴェードル、サンソーのブレンド 酸味がありかつスパイシーで脂に対して滑らかなテクスチャーが好相性。
 6.樽の利いたピノノワール ニューワールド系のある意味では媚びた所謂あざといワインのほうが寧ろ合う。
 7.プロヴァンスのキリリと冷えたロゼ 夏の酷暑に対しサラッと口の中をキレイにする。
 8.甕熟成のオレンジワイン 脂の重さを抑え、白身のうまみを引き出す。

とぱっと思いつくだけでもこれくらいは出てくる。
この様に多角的な提案をしていくことにより、顧客の満足度とリピート率を高め所属する店舗に貢献していかなければならない。

ただし其の上で留意すべき点として顧客に対して新たな提案をする場合、何故そのような提案をするのかその狙い、メリット、注意点、楽しみ方。これらの情報をしっかりと説明しなければならず、またそれにより満足度を狙ったポイントへと落とし込んでいく。
そのためにもソムリエや販売側の組み合わせに対するロジックが明確でなければならず、それが明瞭でない場合、消費には至らず、また受け入れられても満足度は概して低い。
更にそこに対して消費者側の情報所有量、ワインを飲みなれている方なのか否か、自身との信頼関係、消費に対する余裕、その日のテンション Etcも考慮に入れて総合的に判断しなければならない。
我々がいくら良い組み合わせと思ってもその美点を的確に伝達していかないと料理の品質とワインのポテンシャル、その双方の魅力を著しく損なう可能性すらある。
之も例を挙げてみると私は赤肉に対して頻繁に白ワインをお勧めすることがあるが、これもいきなり進めるわけではなく自身の中のルールとして
 1.初回はスタンダードな組み合わせ ハトに対してピノ、牛に対してカベルネ。
 2.少し踏み込んだ組み合わせ 重い肉料理に対し敢えて軽めの赤、スパイシーな料理に対し香りのテンションが抑え目な赤。
 3.信頼関係が出来たら一気に踏み込む シカに対しシャルドネ、バザス牛のサーロインに対しミュスカデ、馬肉のたたきに対しサンセールの熟したもの 等など。

と段階を踏んでからお勧めしている。
でないと素材とワイン、双方に対して不幸なことになり店に対しても損害を与え何より顧客に満足していただけない。
商品に対して様々な提案をしていかないといけないが、どの様にそれを行っていくかは慎重に検討しなければならない。魅力的な商材を生かすも殺すも我々次第なのである。

ソムリエはサーヴィスマンであると同時にセールスマンである。
それを常に意識して的確な営業と提案をしていかなくてはならないと思う。

 

~プロフィール~

建部 洋平(たてべ ようへい) 
北海道出身で1983年生まれ。調理士の専門教育をへて、国内で各種料理に携わる。
ブルゴーニュで調理師の研修中、ワインに魅せられてソムリエに転身。
ボーヌのソムリエコース(BP)を2010年に修了、パリ6区の「Relais Louis XIII」にて
シェフ・ソムリエを勤める。現在フリー。


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