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『ラシーヌ便り』no. 141 「シャンパーニュの造り手来日」

 各地で甚大な水害がおきていますが、皆様にはお障りなくお過ごしでしょうか。猛暑にみまわれる季節に、大きな災害にあわれた方々のご苦労を思いますと、察するにあまりあります。心よりお見舞い申し上げます。

1)シャンパーニュの作り手来日
―今こそ、レコルタン・マニピュランの真価が問われるとき

 7月20日、シャンパーニュから【ラエルト・フレール】、【ブノワ・ライエ】、【フルーリー】と、3社6名の造り手グループがこぞって来日いたしました。 大阪の試飲会から出発し、京都、名古屋、東京での試飲会、メーカーズ・ディナーを無事に終えることができました。ご参加いただいた方々と、運営にご協力いただきました方々に、深くお礼申し上げます。
 この度の来日にあたり、今の日本のシャンパーニュの状況を今一度考えてみました。

 この二十数年の間にシャンパーニュ地方では、フランスのワイン産地のなかでもでも稀なくらい、レヴェルの高い有機栽培とナチュラル醸造のムーヴメントが生まれました。ラシーヌは年に何度もシャンパーニュに通い、その二十数年の変革を目の当たりにしながら、探索を続けてまいりました。この度来日する3生産者は、そのような変化を体現するだけではありません。従来の有機栽培の力をさらに深化させ、10年前の彼らのワイン造りとは全く異なった次元の世界に達して、世界中を魅了しているのです。 

 2010年4月にオーレリアン・ラエルト、ブノワ・ライエ、ラファエル・ベレッシュ、シャルトーニュ・タイエが中心となって始まったささやかな”Terre et Vin”「テール・エ・ヴァン」の試飲会は、他に3つの組織の試飲会とあわせて、「グラン・ジュール・ド・シャンパーニュ」と呼ばれるまでに発展しました。現在、これらに出展しているほぼすべてのRMのシャンパーニュは、日本に紹介されています。今や日本のマーケットは、いわばRMシャンパーニュの飽和状態となり、質的な競争から逸脱して激しい価格競争が展開されています。
 そのような状況の中で、真のRMのあり方、上質なシャンパーニュとは、どういうものでしょうか? NM「グランド・メゾン」もどきの「表面的にわかりやすく、受けいれられやすいもの」ではなく、かといって「有機栽培、ビオディナミ」という栽培方式に飽き足らず、内から輝く個性の域にまで到達したシャンパーニュではないでしょうか。既にそのようなシャンパーニュが現れてきています。そうしたシャンパーニュは、おのずと魅力的であり、繊細でもあります。
 今回来日の3生産者は、いずれも先んじてその域に達した実力をそなえるだけでなく、それに安住する気配も見せません。つねに進化中であるがゆえに、そのシャンパーニュはやや武骨な風貌をおびる傾向なしとしませんが、それが未来のあることの証しでもある、といえるでしょう。
 とすれば、繊細にしてやや武骨なこれらのシャンパーニュの真髄を味わう条件は、どのようなものでしょうか。「可能な限りをつくした良好なコンディション」であればこそ、その真価を味わうことができる、と考えるラシーヌでは、現状に満足することなく、より良いコンディションの実現に向けて務めています。
 最後に、このような3人の造り手がそろっての来日に際し、個々の生産者とそのワインの魅力をより深く知っていただける機会となりましたなら、大きな喜びです。

これからもラシーヌのシャンパーニュにご期待ください。

大阪夏のシャンパーニュ祭りにて

 

2)大阪・京都・名古屋・東京 シャンパーニュ来日試飲会からの語録

 それぞれの会場で、造り手たちにショート・スピーチをしていただきました。その中から、印象に残った言葉をご紹介します。

* テイスティングしている様子が、どの方も集中していて、プロフェショナルな試飲会だと思いました。また、プロフェショナルといっても、ワインを抜栓するしぐさ、そそぐ様子から深い愛情を感じられ、感銘をうけました。

* 名古屋では、これらのワインにまだ馴染みのない様子が感じとれましたが、一口味わって驚き、その後どんどん興味がでてきている様子が見てとれました。とてもいい試飲会だったと思います。

* プロの方々だけでなく、消費者の会でも、深い知識と経験に驚きました。質問の内容が、他国の試飲会と全く異なっています。シャンパーニュについては、日本が成熟したマーケットだということがよくわかりました。

* 古い入荷のもの含めて、コンディションが良いのに大変驚きました。亜硫酸が低い醸造のものが多い試飲会で、このレヴェルでの味わいは、フランス国内でも難しいことです。

 来日試飲会を終え、あらためてどの造り手も次の世代が実力派ぞろいで、これからがますます楽しみだと思いました。フルーリーは3人の子供たちにすでに代替わりしており、エルヴェ・ジェスタンのコンサルタントを受け、新しい時代に入っています。ラエルトとライエは、ともに世代交代が進行形ですが、子供たちについて話す様子がとても嬉し気で、深い信頼をもって日々仕事をしていることが感じられました。 どの造り手も、止むことのない変革の途上にありますが、彼らの明るい未来が大いに期待できると実感したしだいです。

 

3)今月到着のワインより 

 おなじみの【ボッカディガッビア】のロッソ・ピチェーノ2013が入荷いたしました。この度の入荷から、今までとは少し異なったワインが入荷します。この春ヴィニタリーの会場で、そのオーナーであるエルヴィディオ・アレッサンドリから、皮肉交じりに浴びせられました。
 「あなたたちは、ヴィーノ・ナチュラーレをたくさん輸入しているんだって? ヴィーノ・ナチュラーレってなんだ? あの、【メンティ】っていうワイン、ラシーヌが扱ってるんだろう? 濁っていて澱があって、そんなワインが人気があるなんて、信じられないなー」
 率直な言葉ながら、いつものように愉快な笑顔での問いかけです。
「当然よ、安定を一番に考えた質も個性もないワインは、日本の愛好家は好まないのよ」と答えました。
 ラシーヌのイタリア・ワインの定番、[ロッソ・ピチェーノ]は、しばらく品切れていました。2011年は買わず、2012年に飛びました。その後、ロット違いの2012年が私達の好みに合わず、しばらく切らしていたのです。2013年をどうしようか、と考えながらヴィニタリーに行ったのですが、その日のボトルはとてものびやかな味わいで、表面的でないしっかりとした味わいに満ちていました。予想されたことですが、ビン詰前のタンクサンプルでした。すぐさま、「すでに、使用されている亜硫酸で十分なので、ビン詰め時の亜硫酸は入れないでビン詰めしてほしい」とお願いしました。一タンクごと購入しましたので、このロットは沢山入荷いたします。
 ボッカディガッビアは、有機栽培でもなく、ましてナチュラル・ワインではありません。しかし、エルヴィディオ・アレッサンドリの造る[ロッソ・ピチェーノ]は、大変バランスがよく、飲み心地がよいので、イタリア・レストランでの食事の友として、20年を超えるおつきあいです。派手な押しつけがましさや修飾が皆無で、軽やかさと落ち着いた雰囲気がともに伝わってきます。成熟に向かいつつある日本のワイン市場に、このようなタイプの「大人のワイン」、これぞラシーヌ定番のお気に入りです。

 
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