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『ラシーヌ便り』no. 140 「ジョージアと日本の友好25周年・フランス出張」

ジョージアと日本の友好25周年

 6月1日は、ジョージア国の建国記念日です。2017年は日本とジョージアとの友好25周年の年にあたり、建国記念日にあわせて、パーティが開かれました。もちろんワインは、すべてジョージア産。2017年、ジョージア国から日本への輸出プロジェクトと、日本側の輸入拡大政策が、大きく動き出しました。ジョージアワインを輸入する会社も増えており、今後はジョージアからの小口輸送の船積みが容易になりそうです。
 ジョージアからの船積みは、黒海沿岸に位置するポティ港から出航します。ジョージアの伝統を体現する造りをしたクヴェヴリ・ワインは、生産者の出荷価格を反映すると、日本での小売価格が3500円~4000円以上となるため、フルコンテナ(7000本分)の輸入量を満たすことが困難です。LCLリーファー(異なる荷主との混載コンテナ)がジョージアにはないため、これまで各社は、イタリア、北欧、フランス経由などで船積みしてきました。

 ラシーヌでは、第一便はエアーで輸送し、以降は少量の荷物をワンコンテナで船積みし、輸送してきました。ジョージアから他国に常温トラックで輸送することによる劣化と、ヨーロッパ内へトラック輸送するコストを比較して総合的に検討した結果、ポティ港からワンコンテナで輸送することにしたのです。当然ながら1本当たりの諸経費は、フルコンテナ輸送と比べて2.5倍もかかります。
 またワイナリーのある田舎では道路事情が悪く、トラックがワイナリーの前まで入ることができません。そのためジョージア国内の輸送は、リーファートラックをチャーターして夜中に走らせ、それぞれの造り手がワインを幹線道路まで運んで、積み込みます。保険作業も、どの国よりも手間がかかります。
 未知のことを始めるにはリスクがつきものですし、いまでも毎年船積みのたびに、手探りの連続です。ラシーヌのある貿易事務担当者は、「こんなに手間とコストがかかり、プロモーション費用もラシーヌの全取り扱い中で一番かかるのに、利幅がほとんどないから、本当にジョージアワインの仕事は大変ですね」と驚いています。おまけに到着後まもなくは、なかなか本領が発揮されません。2年経ってようやく絶妙な美味しさを見せはじめたものもあれば、まだ辛抱強く待ち続けているワインもあります。でも、この春入荷しましたワインの販売は、これまでで一番順調で、ちょっとホッとしています。
 ラシーヌ扱いの「最も古くて、新しいジョージアのワイン」、他国のアンフォラ製ワインと比べれば、価格はけっして高くありませんので、是非お試しください。
 今頑張らなければ、重要な造り手のワインが数年後、日本市場に手に入らないともかぎりません。そんなことにならないよう、私たちももうひと頑張りします。

 

出張あれこれ
 6月19日から、フランスとスペインに出張しました。スペインといっても、カナリア諸島はアフリカ大陸の西側、大西洋に浮かぶ島です。カナリア諸島に残る古い畑と伝統的な栽培は、驚きに満ちていました。が、今月はフランスのロワール地方訪問について触れたいと思います。
  ご承知のように、4月末にヨーロッパは厳しい霜害に見舞われました。2013年来、うどん粉病、ベト病、スズキ虫、エスカなどの様々な病害も大変でしたが、気候温暖化による途方もない豪雨・遅霜・雹には、なすすべがありません。特に創業間もない造り手は、経営危機に見舞われているくらい、悲惨な状況なのです。訪問した造り手の方々に、なんと伝えればよいか、言葉が見つかりませんでした。

 

No.1 シリル・ル・モワン訪問

 出張1日目はロワールのアンジェへ、シリル・ル・モワンから。
 2017年4月の遅霜は、幸運にも被害は最小ですみました。しかしシュナン・ブラン・セップ・サントネールの栽培は、今年でやめることになりました。樹齢の高い畑で、通常の1/3 しか葡萄が植わっていないのに、その広さ分の仕事量があります。2016年は60%、2017年は100%の被害にみまわれました。
 ここは霜害を受けやすい場所なので、栽培を諦めざるをえない、という決断です。畑は、Eric Calcut のNourisson (現 Stephane Bernadot の畑) の隣にあります。「他のシュナンの畑を探すよ」とシリルは言っていますが、本当に残念です。
 シャルドネは10 %の被害。「この地方は、昔は霜害にみまわれるようなことはなかった。霜害にあうと、もう収穫がないからと手入れをしない人がいるが、凍らなかった部分から芽が次々に出てくるので、ちゃんと手入れしなくてはいけないんだ。でも、今年は収量も見込めそうだ、成育が2週間ほど早い。1か月以上も雨が降っていない。夏に恵みの雨が降れば2005年みたいになるかな。6月暑いと夏は暑くなる。あとは、雨次第だね…」
 セラーで2016年をテイスティング。今年はとくに発酵が長びき、まだマロラクティック醗酵が終わっていません。2016年は霜害のため、総生産本数は2000本のみ。日本にもわずかしか届かないのは仕方ありません。でもワインはいずれも素晴らしい仕上がりで安心しました。
 シャルドネ・ヴィーニュ・フランセーズは、樽に満たないのでフロールが張ってるものの、香りが素晴らしく、酸化のニュアンスが隠れています。スケールの大きさを感じる味わいです。
 シャルドネ、シュナン、グロローの3種を10日間スキンコンタクトしたワインは、複雑でかつ澄んでいます。「シュナンはスキンコンタクトすると味わいが強くなるから、グロローを入れてスパイシーなニュアンスを加えたかった。」ハーモニーがとれ素敵な味わい、新しいキュヴェの誕生です。
 2016年のリリース分から、白ワインはラシーヌでは一年ビン熟成させてからリリースする予定です。あまりに少生産量なので、味わいが出ていないうちに飲んでしまわれては勿体無いですから。

 

No.2 マルク・アンジェリ 訪問

 2016年を樽から試飲。セックで無濾過に仕上げる為に試みてきた長年の積み重ねに、ようやく答えが出てきています。余韻が長く続き、感動。20年以上もの研鑽が、通常味わえない世界を見せ始めている、と思った訪問でした。ロゼ・ダン・ジュールは、既に亜硫酸添加なしで仕上げられていますが、2015年はレ・フシャルドとブランドリも、亜硫酸はホメオパシーの考え方(エルヴェ・ジェスタン流とおなじ)で瓶詰めされました。「亜硫酸の記憶」だけで、ほぼ無添加で仕上げた結果は、伸びやかで美しい味わい。 本人もこれまでとの違いに大変驚いていました。
 【マルク・アンジェリ】の畑の霜害は、深刻でした。2年続きの霜害で、2017年はロゼ・ダン・ジュールが見込めません。「長年買い続けてくれた日本には、できるだけ出荷できるようにするよ」 と、言ってくれてますが 、ブドウの房があまりに少ないのです。リンゴも、ジュースは作れてもわずかしかありません。カベルネ・ソーヴィニョンの根にシュナン・ブランを接木したので、来年はシュナン・ブランが増える予定です。

 

No.3 ニコラ・ルナール / ル・クロ・ドゥ・テュ・ブッフ

 6月20日7時前にすでに暑く、 テレビで6月としては異常な猛暑についての報道していました。平年夜14度 日中23度に対して、夜24度、日中37度 。畑では40度を超えて、クラクラします。

 ニコラ・ルナールの様子を見に行ってきました。2014年から借りている畑は15年間の契約で、ニコラは朝夕栽培に全魂を傾けてきました。が、ニコラ流の栽培方法が気に入らないと、オウナーから突然契約を打ち切られ、2017年は別の畑を探さないといけないとのことだったので、心配していました。でも幸い、それほど遠くない場所シュヴェルニーに、ソーヴィニョン、シュナン、シャルドネ、カベルネ・フラン、ピノ・ノワールの植わる4ha畑を借りることができました。大きな森のすぐ側に位置し、隣人がなく彼の思い通りの栽培ができ、ひとまず安心。新たにシュナンを植える予定で、理想的な洞穴セラーはそのまま。広いセラーの中には、2016年は深刻な霜害にみまわれ、ソーヴィニョンがたった2樽。2017年は15%の被害ですが、どんなワインが出てくるか楽しみです。
 続けて訪ねた、ピュズラ兄弟。ここの被害は最も大きく、2017年は収穫が見込めません。買いブドウで、「ル・クロ・デュ・テュブッフ・ルージュとブランを作るだけだよ」 とのこと。2016年は少量ながら、すでに日本に入荷済みです。 倉庫で休ませているワインは、大切に販売していきたいと考えています。

 

No.4  クルトワ父子を訪ねてソローニュへ

 ここでも霜害はひどいのですが、被害のある区画と全くない区画がモザイク状に混じっています。栽培品種はどんどん増えていますが、畑の面積は変わりらず、現在クロードが2.5ha. エティエンヌが 5ha。植えてすぐの畑は、ある程度大きくなるとエティエンヌ に引き渡しています。2017年からラシーヌ・ブランの造り手は、エティエンヌにかわります。
 ジュリアンがワインを作り始めて、早や15年。クロードが築いた栽培の力の上に、格別なワインが生まれています。悲しいかな、ここでも霜害が酷く、2017年は収穫がありません。
 ちょうどヒレブランド社のトラックが集荷に来ました。 「Warning Temperature Recorder」 の張り紙、温度記録計をつけて、無事に6パレット出荷されました。
 今年は、Racines 1995から仕事を初めて20年。クロードはラシーヌ用に、特別ボトルとコルクでビン詰めしました。公式には品種名を名乗れませんが、35種類の品種で醸造されている、クロードの思いがこもったワインです。苦労を重ねたあげくの今日の畑と、成長した子供たちとクルトワ・ファミリーによる今日のワインに、クロードはとても幸せそうでした。
 このあと、ヴェズレーのモンタネ父子と、ニコラ・ヴォーティエを訪ねましたが、この2軒の二年続きの霜害も深刻でした。
 収穫減のため、値上がりは仕方ないのですが、それだけでなくヴァン・ナチュールの世界的需要の高まりのため、ワインの価格が上がってきています。 「ヴァン・ナチュールがニューヨークを席捲」という記事がでていましたが、ニューヨーク・西海岸・北欧・ロンドン・カナダ・シドニー・アジアの国々が、すごい勢いでヴァン・ナチュールを買い始めています。彼らのヴァン・ナチュール・マーケットは新しく、現在の価格が出発点なので、問題なく受け入れて買っています。日本は20年以上のヴァン・ナチュール経験があるために、値上がりの実感が強く、市場が高値についていけていない状況を強く感じています。 真に高品質なワインの仕入れ競争は世界レベルになってきていることを、またしても強く感じた出張でした。

 
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