*

ファイン・ワインへの道vol.11

フリウリの大御所推奨。“熱燗オレンジワイン”の新地平。

 夏には合わないお話しかも、で申し訳ないです。
しかし皆さん、よく聞かれませんか? 「日本酒だけが、世界で唯一、6℃でも60℃でも両方楽しめる醸造酒なのだぁ!」との文言。
 誰がどうやって確認、検証されたんでしょうかね?“日本酒だけが、世界で唯一”って部分を。
 はい。お察しの通り、今回は60℃で「より花開く」ワインの話です。
 ことの発端は、この6月中旬、取材で訪れたフリウリ=ヴェネツィア・ジュリア州とスロヴェニアの国境線・西側に接する、オスラヴィエ村でのこと。村全体でわずか130haほどの畑を耕作するのが、ラディコン、ラ・カステッラーダ、ダリオ・プリンチッチ、プリモジッチ、そしてヨスコ・グラヴネルほか、計6名という、大変な気鋭生産者密度の村です。そしてこの村は、アブルッツォのヴァレンティーニ、ランゲのロアーニャなどに続き、イタリアで最も早い時期から真摯な自然派ワイン造りが根付いた、偉大なエリアとしても……、皆様ご存知のはず。
 そんな中、訪問がかなったヨスコ・グラヴネルでの5時間に渡るインタビューの最後、夜9:30ごろのまさに別れ際に、大御所がポロリと口に出したのがこの言葉。
「あぁ、うちのワイン、特にリボッラ・ジアッラね。60℃で飲んでも美味しいから。一回試してみて。僕が少し前、日本に行った時にね、いい日本酒が60℃で、驚異的に表現力豊かになるのに驚いてね。それで自分のワインでも試してみたわけ。そしたら18℃の時には現れない、面白いニュアンスが楽しめたんだよ。意外だったね。」
 つまり大御所自ら“オレンジワインの熱燗”を推奨した訳です。
 早速帰国後、試しました。
 実験用ワインは、グラヴネル リボッラ・ジアッラ2009とラディコン ヤーコット2009。いずれも約半年、果皮と種を果汁にスキンコンタクトした、ザ・オレンジワインです。
 結果は、最大限控えめに表現しても、驚愕そのもの。
 グラヴネルのリボッラは40℃、50℃、60℃と温度が上がるにつれ、ワインの複雑性と格調が高まり、味わいのスケール感、奥行き、広がりも劇的、かつ優美に高まったのです。バランスも62℃まで、全く崩れないどころか、酒質全体の荘厳さが増すとさえ、感じられました。
 続いてラディコンのヤーコット(フリウラーノ100%)、こちらも温度が上がるにつれ、味わいの重層性が増すのはグラヴネル同様。さらに、オレンジ・ピールなど、フルーツのニュアンスも、より生き生きとした生命感と共に広がり膨らむのも感動的でした。
 ただこちらは53℃がピーク。それ以降はバランスが崩れ始めたのは、フリウラーノというブドウの繊細さゆえかもしれません。
 もちろん、今までのいわゆる“ホットワイン”と異なり、ワインだけで一定温度以下なら完璧にバランスが取れているため、スパイスや蜂蜜を混ぜて味を調える必要なんて、皆無。
 この2本の実験で感じられたのが、実は熱燗オレンジワインの「開き方」は、上質の日本酒のそれと非常に似ているという点。
 例えば日置桜、辨天娘、竹鶴など、今をときめく完全発酵系山廃原酒はよく、「常温で飲むと氷の下に閉ざされたマンモスのよう」とさえ言われます。そのマンモスが、50~65℃になって初めて、生き生きと躍動し、豊かな表現力と奥行きを“花開かせる”。
 そんな、日本酒の開き方と、オレンジワインの開き方、その方向性とニュアンスは、非常に共通点があるように感じられましいた。

熱燗オレンジワインの最適温度は、ワインとブドウ品種により様々のよう

 では、早速やってみよう! と思われた勇気ある方々に、老婆心ながら留意点を。
 ご存知の方も多いとは思いますが、お酒を燗にする際は、鍋での直火はご法度。湯せんが基本です。私は、小鍋に湯を張り、そこで徳利に入れたグラヴネルを温めるという方法をとりました。加熱の際も、強火はご法度。お湯がグラグラ煮えてはいけません。沸騰の少し前、フランス料理でフォンを煮詰める際によく言われる「液体の表面がほほ笑むような火加減で」が肝要です。ゆっくり、温めてあげてください。

 で、ここまで読まれて、グラヴネルとラディコンが美味しくなるならジョージア・ワインもいけるのでは、と思われますか?
 はいもちろん。試してみました。アレックス・ツィクヘリシュビリ ルカツィテリ2012。こちらは46℃前後がベストのよう。味わいの重層性がクリアになり、その均整、格調、余韻の端正な美しさが増すという“熱燗オレンジワイン”の特性は、ここでも共通していました。合わせる料理は……ホワイト・ミート。つまり、豚や鶏のちょっといいものをシンプルに塩だけでグリルしたような料理が抜群でした。
 と、ここまでいろいろ試して、一つ突き当たる壁が、どの温度が、最も“自然に”ワイン本来の持ち味を発揮させる温度なのか、という大問題。熱燗は、飲み手によるワインへの過干渉なのでしょうか? (自然な飲み方じゃない? とすると、サンセールを氷で冷たく冷やして飲むのは“自然な”温度帯なのか・・・?)。この作業は、ワインの持ち味をより開かせているのか、あるいは意図せず殺しているのか?
 先に挙げた日本酒たちのケースを考えると、40℃以下で飲むことは持ち味を殺すことと、多くの酒好きは口を揃えます。またグラヴネルが、私に60℃で飲むことを勧めたということは、作り手としても、この方法が「ワインの持ち味を殺す」とは考えていないと判断してもいいでしょう。
 ともあれ、熱燗オレンジワイン。ワインの全く新しい楽しみ方、ワインの新地平となるかどうか。もちろんワインは嗜好品。好みは人それぞれです。しかし少なくとも私個人的には、この夏、ガンガン熱燗ワインの実験を繰り返そうと思っています。もちろん、ワイン本来の持ち味を殺さぬよう、最大限の注意と作り手への敬意を忘れず、いたずらには走らず、です。(日本酒で冴えない酒に、燗でなんとか面白さが出る、というケース同様、そのまま飲んでも美味しくないオレンジワインに下駄を履かせる効果も、なんとなくありそうな気もしますし・・・)。
 少なくとも、失敗しても、冷たい飲み物ばかりで冷えた体を温めるには、役立ってくれるはずですしね。

追伸:
今年6月のフリウリ、コッリオ地方取材記事の本編は、8月1日発売、9月1日発売のヴィノテークに2号連続でレポートします。こちらも是非、お目通しいただけると幸甚です。

 

今月のワインが美味しくなる音楽:
アフリカのベン・ワット。
ほのぼのアコースティック・ギターのそよ風音。

Jean Bosco Mwenda 『MWENDA wa BYEKE』

 夏ですね~、ということで、夏を涼しく過ごすための音楽です。アフリカ音楽、といってもアッパーなパーティ音楽の対極。シンプルなギター1本のみの、ゆる~くスローな弾き語りで、まるでだれもいないサハラの川辺で、ほのぼのと独り言をつぶやくような、パーソナルな響きが素晴らしい一枚です。まさに、アフリカ版ベン・ワットの趣き。
 このアーティストは、1930年コンゴ生まれ、1990年に没したコンゴの伝説的ギタリスト。アマゾンやi-tuneでダウンロードしてもらえれば、夏の除湿機効果も、エアコン代節約効果も、冷えたリースリングやピノ・ブランが美味しくなる効果も、大いにあると思います。
https://www.youtube.com/watch?v=pvsP9i0xovs

 

今月のワインの言葉:

「ワインを記述し、伝える者の言葉と表現がいつまでも貧困だから、いつまでも世界のワインの質が貧困なままなのだ」 ―ヨスコ・グラヴネル

 

寺下光彦
ワイン/フード・ジャーナリスト
「ヴィノテーク」、「BRUTUS」、「MEETS REGIONAL」等に長年ワイン関連記事を寄稿。イタリア、ヴィニタリーのワイン品評会・審査員の経歴も。音楽関連記事も「MUSIC MAGAZINE」に約20年、連載中。

 
PAGE TOP ↑