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Sac a vinのひとり言 其の五「過日のYソムリエとの会話」

 自分 「のうのう。デギュスタシオンメニューとのペアリング考えるときに、一皿一皿に対するチューニングはもちろん大事だけど、同時に前後との関係性とか全体の流れも考えないとあかんよなあ? 」

 Y氏 「せやね。いくら一皿に対して美味しくても全体の流れ壊したらあかんしね。それぞれの役割があるしなぁ。」

 己 「コースに込められた意味や狙いをくみ取らないとあかんよね。」

 Y氏 「そうそう。そういう意味ではあえて盛り上げていたのを軽く落として、そのあとに来る真打をより引き立たせるのもあるな。」

 以下、酔いも回ってきたため、グダグダと取り止めのない会話が続く・・・
まぁ、ここら辺に関してはその時だけではなく、何回も同じような会話を繰り返している・・・
別に酔っぱらっているせいではない。多分 きっと おそらく? まちょと気にはしておけ。

何度も繰り返しているため、話の肝は把握していて
「特定のコースに関してのペアリングを考える際に必要な構えとして、それぞれの皿に対して合うものを考えるのは当然とするとして、そこからより一歩踏み込んで考えると“料理の構成の特徴をより生かすためにワイン自身もその前後の流れや全体のバランスを考慮せねばならず、その観点に立った上の選択であるならば`ベスト´よりも`ベター´を選ぶのも十二分にあり得ることである”」
と 端的にまとめられるであろうか。

例を挙げてみよう。

 Carpaccio de Bar aux amandes fraîches
 Noix de coquilles Saint-Jacques poêlées au Noilly Prat
 Carré d’agneau de Sisteron à l’olive Taggiasche

この三皿に対する提案を考察するとして、
一皿ずつだと

《スズキ》
 スズキとアーモンドに対して、ボリューム感よりも、どちらかと言えばミネラル感やハーブ感が求められるため、SancerreやPatrimonio SavoieのChasselasやフランケンのミュルラートウルガウ。ステンレスの甲州なども良い。

《ホタテ》
 ヴェルモットの香りとホタテのジューシーな甘み。それに対してバランスの取れるややクリーミーな白。
Saint-Josephやピエモンテのティモラッソ。ヴィクトリアのリースリング。熟成した火山土壌系のゲヴュルツトラミネールなども良いかもしれない。

《子羊》
肉のミルキーさと脂の甘み。オリーブの支配感に対し、赤も酸味よりも何らかの個性的なテクスチャが求められる。ギリシャの樽熟成のクシノマヴロ。旱魃の年のバーデンのシュペートブルグンダー。熟成がやや若めのBandol。30年以上熟成したマルベックなどになろうか。

 個別に対応した場合は上記のような選択肢が考えられる。

 何をお勧めするかは卓上の状況(お客様の好み、提供に与えられた時間や予算などの諸条件、人数ETC)で判断すればよい。
 そのため、全体の流れはそれほど重要ではなく、一皿一皿に対する完成度がより優先され、その各々の皿に対する世界観が重視される。
求められるのは、どちらかと言えば理論的の構築された判断よりも、脊髄反射的なサービスとでも言おうか?
 それに対しペアリングを考察した場合、事前にメニューのコンセプト、予算、提供タイミングなどが把握できているため、トータルでの完成度を追求する事が出来る。

よって

 スズキに対し、例えばSancerreを出した場合、ホタテとハーブの香りをやや抑えて口の中をややクリアーにするためのワインが必要になる。そこに対して、ギリシャのクシノマブロのロゼや、トスカーナのサンジョヴェーゼのロゼで、酸味と収斂性が基調にあり、なおかつ低温でサーブしても問題のないもので、次の子羊に繋げる。こうすることにより無理に重たいワインを出さずとも、柔らかな果実味の赤、例えば2013年のコートドボーヌなどが良いだろう。

 飽く迄これは一例で、前提条件や季節、顧客層などでどんどん変わってくるので選択肢は無限にある。

 重要なのは、私たちが「お客様とchefの双方のことをしっかりと理解しようとする」ことである。
 其の深度と解釈の違いでお店ごとの違いが出てくるものであって欲しい。
次回の文面で具体的な例を挙げながら、全体の流れと前後の関係性について解説していきたいと思ふ。

 

~プロフィール~

建部 洋平(たてべ ようへい) 
北海道出身で1983年生まれ。調理士の専門教育をへて、国内で各種料理に携わる。
ブルゴーニュで調理師の研修中、ワインに魅せられてソムリエに転身。
ボーヌのソムリエコース(BP)を2010年に修了、パリ6区の「Relais Louis XIII」にて
シェフ・ソムリエを勤める。現在フリー。

 
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