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『ラシーヌ便り』no. 198 「今秋リリースのポデーレ・イル・パラッツィーノ」

【今秋リリースのポデーレ・イル・パラッツィーノ】

Il Palazzino / IGT Toscana – Rosso del Palazzino 2019 小売2,600円
Il Palazzino / Chianti Classico – Argenina Gran Selezione 2018 小売4,000円
Il Palazzino / Chianti Classico Gran Selezione – Grosso Sanese 2016 小売7,500円

 先月からリリースしています、3種類の【イル・パラッツィーノ】についてですが・・・・・・
「昨年までと違う」と私が言っては、おつきあいいただいている方々に申し訳ないのですが、「とびっきり美味しい、何が変わったのだろうか」と、嬉しい疑問を繰りかえしています。
 あまりの驚きに「何か変えたことはあるの?」と問い合わせをしても、「美味しくて、それは良かった。何も変えていないよ。ヴィンテッジもいいしね」と、息子のエドアルド。次回の出張で、しかとこの眼で在りようとその理由を確かめなくては。しっとりとした質感、鼻腔を抜けていくスミレの花のような香り、上質ワインの印であるストラクチャーと長い余韻、何かが違うと思わずにおれません。

 

エドアルドとアレッサンドロ

 

若き日のアレッサンドロ(右)とマルク・デ・グラツィア

 ポデーレ・イル・パラッツィーノとのお取引は、旧八田商店でイタリアワインを取り組むことになった1995年から、27年ものお取引が続いています。長いビジネスの中で、イル・パラッツィーノほど、インポーターとして混乱を感じた造り手はないと言ってよいかもしれません。正直に言えば、「極上のワイン」と「並みのでき」の間を、なぜか往ったり来たりしていたのです。
 イル・パラッツィーノは、シエナの銀行に勤めるアレッサンドロ・ズデルチのワイン好きが高じて始まったワイナリーです。ガイオーレ・イン・キャンティの南、標高400mの、古くから地元でガイオーレの “ザ・クリュ” 別格地とみなされている一角に、畑は広がっています。
 そして、1990年代の『イ・ヴィニ・ディ・ヴェロネッリ』、バートン・アンダーソンの名著『ヴィーノ』、ローズマリー・ジョージ著『キャンティとトスカーナのワイン』(いずれも未訳)といった重要なワインブックで、別格の高い評価を得ていました。イタリアワインを夢中で追いかけ始めたころ、トスカーナの「名品」を次々味わいながら、イル・パラッツィーノの、わけてもグロッソ・サネーゼにある、(スーパータスカンらしからぬ)温和な優しさと芳醇で見事なブケをまとった、ほかのキャンティ・クラッシコとは明らかに異なる味わいに、すっかり魅了されていました。2000年ごろだったと思いますが、六本木のラ・ゴーラで、「澤口知之シェフのお料理とトスカーナのワインを楽しむ会」を開きました。そうそうたるワインの中で、とびぬけて深い印象を与えてくれたのは、イル・パラッツィーノのグロッソ・サネーゼ1985でした。

 しかし時が過ぎ、2000年になってまもなく、「別格の味わい」は姿を消してしまいました。じつは、同ワイナリーで長く醸造を担ってきた方(写真:25年以上前のことで、お名前も忘れてしまった)が亡くなったためと、後から聞き知って、判然とした次第です。今なおレストランの方々とお話しすると、「1990年代のグロッソ・サネーゼは、素晴らしかったですね」という過去の思い出の中のお話しとなってしまうのです。が、どうやら何か復活の兆しがみえてきたようです。幸運にも世界的な再評価が出る前に、追加発注ができました。この秋は、トスカーナの特別な味わいをじっくりお楽しみください。

 
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