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『ラシーヌ便り』no. 109

公開日: : 最終更新日:2014/12/26 定番エッセイ, 合田 泰子のラシーヌ便り, ライブラリー

no. 109

 この秋は何度も台風にみまわれ、その後も雨の多い日が続いています。災害に見舞われた方々には、心よりお見舞い申し上げます。 

  さて、10月は久しぶりにオーストリアとドイツを訪問しました。 ゼップ・ムスターには、2011年の秋にオーストリアワインのリサーチに訪問したあと、各地で催された展示会ではお目にかかっているものの、現地を訪問していませんでした。この間、ゼップの比類ない畑の仕事ぶりが、そのまま映し出されたような純粋さに満ちたワインは、日本で熱烈なファンを獲得してきました。 夕暮れ前に訪れた畑で、セップがこう話してくれました。「義父が言っていた。『ブドウ栽培とは、忍耐を学ぶことだ。2014年は本当に難しい年だった。これほどひどい年は、私の父の時代も含めてない』と。開花期にうどん粉病、続いてベト病、9月の300mmを超える豪雨、おまけに傷んだ果皮に蜂までおそってきた。でも、きのうふとセラーで思ったんだ。今年のような困難があるからこそ、2011, 2012, 2013 と3年続けて良年に恵まれたことに幸せを深められるんだ」。なんて叡智にみちた言葉でしょうか。今年入荷しましたオポック2011は、ゼップ・ムスターという名前を日本のマーケットに鮮明に刻んでくれたと思っています。以前、彼のようなワインは、スピリチュアル・ワインとでも呼ぶのでしょうか? と書いたことがあります。畑を覆う目に見えない、でも明らかに存在する精気を感じ、妖精が住んでいるかのような、畑に込める造り手の愛情が触知でき、ブドウがゼップと会話をしていると、あらためて確信した訪問でした。

ムスター

 さて、いよいよ11月を迎えます。11月22日に「ナショナル・ワイン・エイジェンシー・オブ・ジョージア」のミッションとして8名の造り手が来日します。 ラシーヌの取引先は、もうおなじみになりました、ニコロス・アンターゼ、イアゴ・ビタリシュヴィリ、ラマス・ニコラゼ、 ズラブ・トプリゼ の4名が来日します。彼らは、11月30日第4回フェスティヴァンに参加いたします。 来日中、大阪、京都、東京の各地でイベントが開催されます。彼らがそろって来日する希少な機会ですので是非、直接造り手と会って、ジョージア・ワインの魅力をより深く知っていただきたいと思います。

秋の訪問記録・2軒

ラ・フェルム・ド・ラ・サンソニエール/マルク・アンジェリ

 9月の中旬に、マルク・アンジェリを訪問しました。 常に前進するマルク、大御所と勝手に思い込んでいたら、彼の真の姿をつかみ損ね、通りすごしてしまいます。 

 2013年にマルクは、ティエリー・ピュズラがトラック一杯に運んだ、ジョージア随一のクヴェヴリ職人、ザリコ製の200リットルのクヴェヴリを一つ分けてもらい、ラ・リュンヌのブドウで醸造をしました。 ティエリーから、マルクがクヴェヴリで醸造したと聞いていましたが、「味わってみて、これほど素晴らしいとは思いもしなかった」などと言っては、マルクに失礼。 「これはいったい何? 繊細で複雑、品の良い余韻の心地よさ・・・」と思わずにいられませんでした。 格別なクオリティのブドウによる、細心丁寧で考え抜いた醸造だと、かくも美しいクヴェヴリ・ワインができるのでしょうか? 「樽で醸造したラ・リュンヌ2013は、まだ発酵が終わっていない。のに、クヴェヴリのラ・リュンヌ2013は完全に残糖がなく、濾過しないでビン詰めできる。不思議なのは、樽醸造に比べて厚ぼったさが少なく(moin gras)、本当にフィネスに溢れている。」 と、マルクも驚いていました。 

マルク・アンジェリ新たな実験

 一方、赤ワインの醸造方法でもマルクは新たに実験を試みていました。 底を3cm四方の網に編んだ、大きな籠を発酵槽にのせ、ブドウを籠にいれ、手で優しく回して果梗を除き、網目から実を発酵槽に落すというやり方で、除梗をします。 ブドウを発酵槽に入れたら、発酵槽一杯の大きさの丈夫なビニール袋を発酵槽に入れ、袋に水を25cmだけ入れて重しをする。実はゆっくり重みで潰れ、果汁がでてきたら下部にある穴から引き出し、再びビニール袋に1mの深さで水を入れる。重みでさらに出てきた果汁を取り出します。このようにして搾汁したブドウは、タニンの青さや、ワインになってから若いうちの堅さがなく、しなやかな味わいになる、とマルク。 2013年は、今まで味わったどのマルクの赤ワインよりも、柔らかなカベルネ・ソーヴィニョンでした。 

 2014年は日照不足に苦しめられた年でしたが、マルクの畑には活き活きとした生命感があふれ、セラーのどのキュヴェも一層の洗練さを備えていました。 前進し続けるマルクの新しいヴィンテッジの到着が、心から楽しみです。

 トロッセン 

 ウィーンから列車でトリアーに出て、ザールから中部モーゼルへ。 ヴァン・ナチュールを作るトロッセンを訪問し、シーファー・ゴールデンと仮に名付けられた2013年SO2ゼロのキュヴェをテイスティングしました。 マドンナの畑(*)の一部から作られます。ついこの間発酵が終わったばかりで、生産量は150リットルのみ。亜硫酸ゼロで作るリースリングに特有のぼんやりした重さがなく、美しい緊張感と稀有な深さ、スケールの大きさ、高貴さに満ち、2005年にボルドーでビーズ・ルロワからClos de la Roche 1999年を注いでいただいた時に感じた、あの荘厳な一瞬を思い出しました。リースリングでこのような味わいが作れるなど、誰も信じることができないでしょう。「慈愛あふれる神々しさを感じる」と言ったら、マドンナの畑だからかもと、言っておられました。 ドイツで、出会えないと思っていたヴァン・ナチュール、またリースリングの真のすごさを感じさせてくれたトロッセンに出会えたことは、ラシーヌの大きな宝です。

トロッセントロッセントロッセン

(*)マドンナの畑、畑斜面の入り口に、古いマリア像が祀られているため「マドンナ」と名付けられている。 


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