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ファイン・ワインへの道Vol.68

公開日: : 最終更新日:2022/04/01 寺下 光彦の連載コラム, ライブラリー, 新・連載エッセイ ,

NFTと暗号通貨で、さらにワイン投機が過熱?

目次:
1.アメリカに続きイタリアでも。カルトワインをNFT化。
2.偽造防止、来歴確認はNFCタグで完璧。
3.全世界のワインの格付け、イタリア勢が次々と1級昇格。

 

1.アメリカに続きイタリアでも。カルトワインをNFT化。
 アメリカ最古のオークションハウス、アッカ―・ワインズなどに続いてイタリアでも・・・・ NFT 及び暗号通貨に関連付けたワイン取引が始まったようで・・・・・思わず身構えてしまう(あまり嬉しくない)お話です。 
 NFT (非代替性トークン)については、コピーが容易だったデジタル・コンテンツで、複製不可・オリジナルであることを保証する 技術として脚光を浴びていますね。 イーロン・マスクの音楽作品が1億円、日本のデジタルアーティストの作品も1,000万円越え、ですか。
 この NFT と関連付けてのワイン販売をスタートしたイタリア企業の場合は、参加ワイナリーのトップキュヴェのマグナムボトル12本に、イタリア人アーティストの作品をセットにして販売するというもの。ワインの来歴、ワイナリーから出てから消費者の手に届くまでは、ブロックチェーンが裏付ける最新NFCタグに記録され、閲覧可能なため、偽造品の心配は一切ないことも安心材料です。

1358年以来の歴史を誇るトスカーナの貴族、マツェイ家(フォンテルートリ)当主、フィリッポ氏も、NFT販売に参入。

 

2.偽造防止、来歴確認はNFCタグで完璧。
 もちろんこの NFC タグは、2018年からブルゴーニュのドメーヌ・ポンソがグラン・クリュで。その後、シャトー・ルパンも偽造品対策で採用しているテクノロジー。ここにさらに NFT でアートと関連付けて商品価値を高めようという戦略のようです。
 と聞くと、そんなのに参加するのは大手・大規模ワイナリーだけだろう、と思われるかもしれないのですが、意外にもバルバレスコの小規模伝統派家族経営優良生産者、ジュゼッペ・コルテーゼなども参加していて、少し驚きました。 
 イタリアの金融機関 イタリア・ワイン・クリプト・バンク(IWCB)による、 「Catch 22」と言うこの NFT、それぞれのロットが22セットのみとの数量限定も、投機向けですね。
 参加ワイナリーは現在17社。
 マッツェイ・フォンテルートリ(シエピ)、トゥア・リータ(レディガフィ7)、アルジャーノ(ヴィーニャ・デル・スオーロ)などが、すでにリリースを確定しています。
 セット販売されるアートを担当するのはジャンルカ・ビスカルチン(Gianluca Biscalchin)など、イタリア人アーティスト。作風は、アイコン・ワインにつくアートとしては意外なほどポップでカジュアルなのが……、逆にイタリア的? という感じでしょうか。

 また同銀行は、ガストロノミー分野での NFT参入にも野心的なようで、すでにイタリアのトップカリスマ・シェフ、ハインツ・ベック(ウォルドーフ・アストリア・ローマほか)の特別ディナーにハインツ・ベック自身のアートワークと関連付けた NFC を35枚限定で発売しています。

 ちなみに、この分野の当然の先行国、アメリカからはロバート・モンダヴィが暗号通貨での取引をスタート 。ナパのカルトワイナリー、ヤオ・ミン・ファミリーもNFTワインをスタート。オークションハウス、アッカ―・ワインはブルゴーニュの人気ドメーヌ、コント・リジェ・ベレール2019年のボトルにちょっとした生産者のビデオをセットにした NFT をオークションにかけたところ、予想の3倍、332%の落札価格がついた、とのこと。

 

3.全世界のワインの格付け、イタリア勢が次々と1級昇格。
 とここまで読まれて、「いやーそんな話は僕が選ぶ、飲むワインには全く関係ないね」と思われますよね。もちろん筆者もそうありたいです。
 しかし懸念されるのは このような様々なワイン投機ルートの確立で、さらに“ワインを飲む気ゼロの人々”、投機筋と言えば聞こえはいいが、要はやってることは転バイヤーのワイン購買が加熱することです。
 このコラムでかなり以前から予言していた通り、2020年から2021年にかけてイタリアのアイコン・ワインの値上がり率は一年で50%近くのものさえ少なくありません。
 あなたが愛するクリケット・パイエや、ソルデラも、その中の一つです。ロンドン「Liv-Ex」の格付けでは、現在世界に72種類ある一級格付けワインのうちイタリアワインは11種類。うち9種類は 2年前の格付けの際は2級、もしくは格付け外から昇級したものです。(※このLiv-Exの格付け、冗談なのか真面目過ぎるのか、その格付け基準は1855年のボルドーの格付と全く同じ基準。つまり平均流通価格の高低のみで決まる格付けです。なんたる快挙!)。先に述べたイタリアワインの昇級の話は、とりも直さずそれだけ、イタリアのアイコン・ワインの価格の上昇幅が激しい、ということですね。

 そんな世の中で・・・・・もはや「投機目的でワインを買うのはやめろー」と叫ぶ声は、おそらくはウォール街の大規模・転バイヤーには一切届きません。
 我々にできることはただ、欲しい有名ワインを買うなら、今がおそらく自分の残りの人生で一番安値、というムードを受け入れることだけなのでしょうか?
 私は、近い味で無名産地のお手頃価格のワインを発掘し、友人にバンバンふるまう方に情熱を注ぐタイプですが・・・・・。
 もちろん有名産地・有名生産者の名前がラベルに書いてないと、安心して“美味しい”と言うことができない人々の多さは、日々ひしひしと実感しています。
 美味しい無名ワインをふるまおうとする私の努力は、今後も無駄のまま、なのでしょうか?

 

今月の、ワインが美味しくなる音楽:

Jack Symes  『Tompkins Park

春の陽光を、まんま音にしたような
アコースティック・ギターのなごみ。

 春ですねぇ。お花見ですね。そんな席のロゼや、スパークリングの空気感を、ほっこりゆるく、より平和に高めてくれそうなアコースティック・フォークです。LA生まれ、現在ブルックリン拠点のシンガー・ソング・ライター、2021年のフルアルバム。メロウに音の隙間を生かしたゆるギターと、時に独り言みたいでもあるヴォーカルは、まるで芝生の上で優しく揺れる春の木漏れ日を、そのまま音にしたようなピースフル感。スゥ~~ッと体にしみこむような、亜硫酸無添加ワインのアフターと共鳴するような柔らかさが音にもあって……、聞いているとほんとうによく進みます。春のナチュラル・ワインが。

https://www.youtube.com/watch?v=_K-WRju1Mtw

 

今月の言葉:
「なぜ人間の記憶はかくも短命なのであろうか。 なぜ繰り返し起こるブームは、過去の教訓を一つも生かそうとしないのだろうか」

                    バートン・マルキール(米、経済学者)

 

寺下光彦
ワイン/フード・ジャーナリスト
「(旧)ヴィノテーク」、「BRUTUS」、「MEETS REGIONAL」等に長年ワイン関連記
事を寄稿。アカデミー・デュ・ヴァン 大阪校」、自然派ワイン、および40年以上熟
成イタリア・ワイン、各クラス講師。イタリア、ヴィニタリーのワイン品評会・審査
員の経歴も。音楽関連記事も「MUSIC MAGAZINE」に約20年、連載した。

 
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