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『ラシーヌ便り』no. 185 「マルク・アンジェリのインタビュー」

 全国的な新型感染症変異株の急拡大に伴い、緊急事態宣言が発令されました。すでに一年以上も難儀が続く飲食店の皆様にとって、その厳しさははかり知れません。が、ワインでつながる者として、「共に超える」を目標に掲げて、ラシーヌは進んでいく所存です。とにかく、皆さまのご無事をお祈り申し上げます。

【マルク・アンジェリのインタビュー】  

“La Revue du vin de France” 2020年9月30日ネット配信で、マルク・アンジェリの興味深いインタビューが掲載されました。
 あらためて説明するまでもなく、1989年の創業時からビオディナミを実践してきたマルク・アンジェリは、ニコラ・ジョリーらと共にビオディナミの最重要啓発グループ「ラ・ルネッサンス・デ・アペラシオン」の中核メンバーとして、世界にビオディナミの力を伝道してきた使徒の一人です。マルクのドメーヌ【ラ・フェルム・ド・ラ・サンソニエール】の収穫量は大変少なく、最上期のワインは無限の多層性あるエキス感と、まるで宙を舞うかのような軽やかさと端正さを併せ持ちます。まさにヴァン・ナチュールの精髄であり、神聖さすらたたえているといえます。2018年に、ドメーヌを離れていたマルクの息子マルシャルが戻ってきたことで、親子でのワイン造りへと移行しました。現在、伝統と感性の継承中ですが、今後の成り行きにおおいに期待できます。
 3月にリリースとなったロゼ・ダンジュール2020は、オレンジがかったサーモンピンクで透明感を備え、熟度の高さを強く感じる香り、果実の甘みと鉱物感がほぐれてきたときのような甘みと粘性があります。フランスでも日本の春の訪れが報道されているようで、マルクとマルシャルから「桜の季節には間に合ったかな。2020年は例年よりいくらか涼しく、果実の熟成がゆっくり進んでよい年だった」と、一報くれました。根強いファンに支えられてきたマルク・アンジェリ、彼の味わいのキィともいうべき、亜硫酸の使用についてのインタビューをお読みください。

 


 

La ferme de la Sansonniere Mark Angeli へのGeoffrey Aveによるインタビュー
マルク・アンジェリ「ワインに亜硫酸を添加するのは、一種の敗北である」
https://www.larvf.com/mark-angeli-ajouter-du-soufre-dans-un-vin-c-est-une-defaite,4701843.asp

《アンジュの造り手、ラ・フェルム・ド・ラ・サンソニエールのマルク・アンジェリは、シュナン・ブラン酒の名手です。可能な限りワインへの亜硫酸の使用を少なくしようとしており、石油由来の亜硫酸は絶対に使いません。》

マルク・アンジェリ:

 「ワインに亜硫酸を添加することは、ある意味で“敗北”なのだ。何故なら、亜硫酸はワインの味わいを損なうから。特に味わいの余韻において。サンソニエールにおける我々の最終目標は、私が生きているうちに実現できるとは思っていないけれど、ワインに一切亜硫酸を添加しないことだ。」「亜硫酸添加を出来るだけ少量で済ますためには、収穫時のブドウの品質が健康でなければいけない。ボトリティス菌(貴腐菌)の付着は、絶対に避けなければならない。ぶどうのpH(酸度)の定期的な観測、醸造容器と熟成期間に気を配る必要がある。炻器製アンフォラの場合、酸化防止剤の使用を避けることが出来るようだが、木樽の場合は必ずしもそうはいかない。誰もが知っている通り、木樽醸造ではどうしても酸化を避けることが出来ないし、どんなに注意をしても、亜硫酸を使わないわけにはいかない。」「これはほぼ直感なのだが、亜流酸をどれくらい添加するのか、もしくはどのような場合であれば添加せずにすむのか的確に判断できるかどうかは、ヴィニュロンの腕次第だ。赤ワインやスパークリングワインは亜硫酸を全く添加しなくても造ることができる。条件が整えば、ロゼワインも亜硫酸を使わずに造ることが出来る。」

白ワインは、より多くの亜硫酸を必要とする

 「一方、世界中至る所に輸出される白ワインは、事情が異なる。亜硫酸の必要性は、保管状態に依るところが非常に大きい。日本の場合はワインが完璧な状態で保管されるのは間違いないと確信しているが、どこでもそういう保存条件ではないから、亜硫酸を使わざるを得ない。」
 「添加量は毎年それぞれのワインを検査して、その結果次第で決めている。グラスに注いだワインをそのまま空気にさらしておいて、そのワインがどれくらいの時間で酸化するか観察するんだ。もしそれが一週間かかるなら1 hl(ヘクトリットル)に対して1~2gのほんの少量だけ添加をしていいと判断できるし、これはほぼ入れないに等しいね。もし翌日に酸化してしまっているようなら1hl当り3~4g、多い時で5gまで添加しなくてはならない。火山性の天然の硫黄を使うようになって、この量を越えたことは一度もない。」
 「私は火山から産出される天然の硫黄を使用している。2002年にあるヴィニュロンに教えてもらったのだが、市販の亜硫酸は石油から造られているそうだ。要するに石油精製から生じる産業廃棄物由来なのだ。それを知ってからは、私はそれまでの考えを変えた。というのも我々のワインに石油を加えるなんてことは考える余地もないことだからだ。」

 「我々が使用している硫黄はポーランド産で、イタリアで精製されたものだ。これは我々が畑でつかっているものと同じで、ただみたいなものだ! 2003年以来我々はこの硫黄を試してきたが、亜硫酸添加量を以前の半分まで減らすことが出来た。」
 「しかしながらワインに加える前に、醸造桶の中で硫黄を燃やす、うまい方法を編み出さなければなかった。何度か試してみたが納得のいく結果は得られなかった。というのも普通にやれば、醸造所に立ち込める臭いが耐え難かったし、量の調整が難しかった。幸運にも、友人の元シャトー・ラ・トゥール・グリーズのフィリップ・グートンディズニーは映画に登場する“Géo Trouvetout”のような発明家で、彼は安全にワインに亜硫酸を加えることができる道具を発明してくれた。」

《二酸化硫黄発生器の使い方》
 「金属の細い管(発生した亜硫酸ガスが出てくる棒状の部分)をタンクにセットして、小さな漏斗の部分に硫黄の粉を加える。火をつけたマッチを一本漏斗の中に落として火をつけ、ふたを閉める。(圧力を調節するバルブがついていてガス圧はここで調節する)硫黄が燃焼して、二酸化硫黄が管から出てくるという仕組みだ。」

 「この一連の取り組みの目的は、亜硫酸臭がしないワインを得ることである。1hl当り8~10g程度まで亜硫酸の添加量を上げて何度か試したところ、火山由来の硫黄だと感知できない程度、石油化学由来の亜硫酸ならば、ほんの極わずか感知できる程度であることがわかった。」
「我々はこの火山性硫黄を入手しようと、必死に探している。シチリアのエトナやギリシャの島々で、硫黄を産出する。インドネシアにもあるが、そこからはやめた方がいい。というのは、その地の採掘環境はまさに奴隷状態だからだ。

フィリップ・グールドン
「ブドウ木のビオディナミ的観点からのアプローチについて -知識、探求、実践」
という会議の時の写真 2015年2月

 


 

今後、マルク&マレシャル親子のワインが、益々透明な輝きを増していくのを楽しみに待ちたいですね。

 
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