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『ラシーヌ便り』no. 154 「収穫状況」

1.収穫状況
 ヨーロッパ各地の収穫の様子が、Facebookで報告されています。この数年では、収穫量は悪くはなかったようですが、5月の豪雨や長雨のため、ローヌのマルセル・リショー、ロワールのエルヴェ・ヴィルマードでは、ベト病がひどく、深刻な被害にみまわれたようです。ロワールは、局地的な雨だったとみえ、エルヴェ・ヴィルマード以外では、被害の報告はありません。マルセル・リショーは、「これほどの酷いベト病は、経験したことがない」とのことですが、甚大な農業被害をもたらす気象変動が、来年は平穏でありますようにと願うばかりです。

 

2.〈ミナ ぺルホネン〉皆川明さんとの対談 
「人生に寄り添う一着を」(NHK『プロフェッショナル 仕事の流儀』より)

 9月16日夕方、青山スパイラルビルにあるcallにて、皆川明さんと対談いたしました。
 皆川さんが1995年にお一人で始められたファッションブランドが、〈ミナ ぺルホネン〉です。独自のストーリー性のあるスケッチや絵をもとにして、織や刺繍やプリントなど、オリジナルデザインのテキスタイルを作り、洋服を作っておられます。そのように作られる服は、手にすると大切に仕上げられている思いがひしと伝わり、昔の着物に通じる「特別な一着」を感じます。

 じつは数年前のこと、ネットでとても素敵な積み木を見つけました。かもしだされる柔らかで、優しい雰囲気の木のおもちゃは、孫へのプレゼントや出産のお祝いに求めました。それが〈ミナ ぺルホネン〉との出会いでした。が、皆川明さんと対談の機会をいただくことになるとは思いもよらず、大いに感激いたしました。

試飲会場は都心とは思えない心地よさ。

ジョージアの郷土料理、ハチャプリと一緒に。

 

 対談の会場となったのは、〈ミナ ぺルホネン〉による心地よい暮らしのためのお店〈call〉です。このお店でラシーヌのワインを扱っていただいているご縁で、お話をいただきました。callというお店の名前には、“creation-all”=たくさんのプロフェッショナルと一緒にものをつくり紹介する場所、“call”=呼び寄せるように集めたものを紹介する場所である、という二つの意味がこめられています。〈call〉では、〈ミナ ぺルホネン〉の洋服やテキスタイルだけでなく、〈ミナ ぺルホネン〉のモノづくりの視点で世界中から呼び寄せられた工芸、アクセサリー、家具が販売されています。併設されているカフェ「家と庭」では、都会を忘れるような広々としたテラスを眺めながら、温かい家庭の料理を楽しむことができます。ショップでは、ヴァン・ナチュールのワイン、親交の深い農家の有機野菜、調味料などが販売されています。 

 対談の二日前に用意された打ち合わせで、はじめて皆川さんにお目にかかりました。事前にネットで紹介されているさまざまなインタビューや著作に目を通した際に、ラシーヌの運営の基礎として、日々忘れてはならないことが、自分の意識の中で薄れつつあることを再認識したと、お伝えしました。
皆川さんからも、
「私たちは、ファッションまたは、テキスタイルを中心に、モノづくりをしておりますが、そこに共通点やお互いに共感できる部分がずいぶんあるなと思いました」
と言っていただきました。
対談の当日は、ジョージアのイアゴ・ワイナリーのワインを飲みながら、お話しさせていただきました。皆川さんからいただいた言葉の一端を、意を汲みながらご紹介させていただきます。
 「こうやって、足を運んだことがないジョージアの土地から、かつて自家用だったワインを、ナチュラルワインの普及とともに紹介してくださったわけですね。どんどんどんどん、ものごとが合理化されていき、情報化されていくなかで、こういう伝統的なことや、人の営みとして大切に残されていることが、世界の他のカルチュア―に伝わってくということが、とっても貴重なことだと思います。私たちのファッションやモノづくりやデザインということにおいても、とても励みになることだったんですね。」
 「普段モノづくりをしているので、今回のワインの作り方を知って、あー自分たちもその部分の役割をきっと、この日本での生地の作り方の中にいれていけるな、ということをあらためて感じられたので、こうやって食とファッションということも、本当に人がやることなので、とっても共通することがあるな、と思いました。」
 その言葉に、「ワインは造り手の署名入りの作品」というラシーヌの理念と共感を強く感じました。

流行の移り変わりが激しい大量生産の時代に、時間をかけて織ったオリジナルのテキスタイルでもって、一点一点と作品を仕上げていく〈ミナ ぺルホネン〉は、理想を理想に終わらせることなく、強い意志で組織を束ね、前進されていく力強さを感じて、私たちもそのようでありたいと思います。

 皆川さんのお考えは、ご著書やアーカイブの中で拝見できますが、その言葉をそのまま素晴らしいワインに置き換えて考えることができます。文中からいくつか、深く印象に残った言葉をご紹介します。
参照:『ミナカケル -手から手へ 受け渡される価値-』2015年 (株式会社ミナ発行)
   『minä perhonen?』2011年 (ビー・エヌ・エヌ新社)

「作為を超えて、どんなに作りこんでも届かない無為の美しさがあること」
 ワインも狙って造られた味わいは、面白くもなんともなく、ワクワクしません。しかし、造り手が楽しみながら、経験から学んだ技から生まれるワインは、たとえ揮発酸があっても、欠点があっても、何とも言えない魅力にあふれ、時を経て素晴らしい味わいにとまとまっていきます。

「美しい生命のかたちは、静けさと華やかさをもっている。既成概念への気づきから新しい視点をもち、そこから生まれたデザインが生活へと戻るようなサイクルーものづくりを続けていけたらと思う」
 優れたヴァン・ナチュールは生きているワインで、静かな余韻が美しく、華やかさ、高貴さを感じさせてくれます。

「大量生産と生産効率を求めるのではなくて、求める表情と表現を実現できる手法と場を探し、つくり続けていきたい」
 作り手が人生を賭けて作るワインは、ジル・アゾーニのワインのように、たとえお手頃な価格のワインであっても、活き活きとした表情があり、単調さとは無縁です。一方大量生産のワインは欠点はなくても、単調で無表情で感動をもたらしません。

「ユニオン:小さいブランドが合併しあうことは、一つの未来のかたち。大きいブランドが買いとっても、そのフィロソフィーが受けつがれなければ、売れる物質を追いかけるために、ブランド力が弱まり、その買い手はブランドを買いとったメリットを結果的に享受できない。そうではなくて、ものをつくるもの同士がそれぞれのものを作りながら、共通した顧客と感覚と趣味嗜好によって結びつけば、それぞれの技術を合算して、ソフト販路を共有して企業の力をつけていくことができる。やりたい物づくりを続けている者同士がより効率的に進むためのM&A。」
 ラシーヌの未来と「インポーターの在り方」について考えるとき、私たちも優れた醸造から生まれる強い個性をもつワインを探し続け、ポルトフォリオの充実に努力していきたいと思います。

対談の様子。30 名を越すお客様に来ていただきました。ありがとうございました。

 

 
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