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ドイツワイン通信Vol.75

ドイツのワインガイドについて

 ドイツのワイン業界では毎年11月は、新年度版のドイツワインガイドの評価が話題となる。ある意味醸造所の通知表みたいなもので、星の数が増えたり大賞に選ばれたりした生産者は喜びに顔を紅潮させて、出版記念パーティ兼表彰式で満面の笑顔で賞状を受け取って記念撮影に臨んだりして、年末の華やかさに彩りを添えている。

 最も代表的なのはゴー・ミヨのドイツワインガイド(Gault & Millau Weinguide Deutschland)だ。もともとレストランガイドから派生したガイドブックで、ドイツワインガイドがスタートしたのは1994年版が出版された1993年である。初版から2009年までジョエル・ペインとアーミン・ディールの二人が編集主幹を務めていたが、2010年に出版不況からワインを試飲に提出した醸造所に審査料とロゴの使用料を請求したことが反発を買って、エゴン・ミュラーを含む著名生産者達が連名でボイコットを表明し、一時は廃刊もささやかれた。結局アーミン・ディールが編集から退いて一件落着し、2011年版からはジョエル・ペインがひとりで編集主幹を務めていた。

・ゴー・ミヨのラインセンス移行と新たなワインガイドの創刊
 そして20177月、レストランガイドを含めたゴー・ミヨの出版ライセンスがそれまでのクリスチャン社からSZ社へ移ったのに伴い、ドイツワインガイドは全く新しい体制とスタッフでスタートすることになった。従来のジョエル・ペインを筆頭とするゴー・ミヨのドイツワインガイド制作チームは、2012年から副主幹だったカーステン・ヘンを共同主幹に昇格させてワイン専門誌「ヴィヌム」のドイツワインガイド(Vinum Weinguide Deutschland)として継続する。14名で各生産地域を担当する試飲チームも、バーデン担当の2名はゴー・ミヨに残り、数名の退任と新任を除けばほぼそのままヴィヌムに移籍した。編集も従前のクリスチャン社が行うので、2017年版までのゴー・ミヨのドイツワインガイドは、2018年版から「ヴィヌム」のドイツワインガイドとタイトルを変更して表紙も赤色になった以外、中身は一貫性を保っている。

 一方、ゼロからのスタートとなった2018年版ゴー・ミヨのドイツワインガイドは、編集主幹にブリッタ・ヴィーゲルマンが就任。2010年から3年間ワイン専門誌「ヴィヌム」-上述のジョエル・ペインらが看板を背負うことになったドイツワインガイドの母体-の編集長を務めていた。新たに編成された13名の試飲チームはソムリエの実務経験者が多い。だが、2017年まで24年間蓄積されたデータは全てヴィヌムのドイツワインガイドが確保したというから、ジョエル・ペインが主幹だった昨年版までと同様に1000軒を越える醸造所の紹介文を新たに書き下ろし、11000種類以上のワインを短期間に試飲評価して一冊の本にまとめ上げるのは相当大変な作業だったことだろう。醸造所の紹介ページにも心なしかやや空白が目立ち、業界のトレンドをまとめた巻頭のコラムも各生産地域の状況を要約した記事も、私見では「ヴィヌム」のガイドの方に啓発されることが多かった。また、新生ゴー・ミヨでは従来はトロッケンベーレンアウスレーゼなど極甘口にまれに出されることがあった100点満点を、辛口のリースリングとシュペートブルグンダーを含む5つのワインに気前よく与えて話題となり、これまでは得点だけだったワインの評価に試飲コメントが要所要所に追加されたものの、今後のさらなる向上が期待される。

・独立系ワインガイド「アイヒェルマン」
 主要なドイツワインガイドには実はもう一冊ある。通称「アイヒェルマン」と呼ばれている本で、2000年に2001年版が出てから毎年版を重ねている。編集主幹のゲアハルト・アイヒェルマンはもともと経営コンサルタントだったが、1997年にワイン本専門の出版社モンドを設立。アイヒェルマンのドイツワインガイドも自分の経営する出版社から出している。編集執筆は4名で13生産地域を手分けして行い、ワイン専門の写真家アンドレアス・デュルストの美しい作品が彩りを添えている。1200ページを超える大部のワインガイドで940生産者をカバーし10950アイテムを試飲評価しているが、「ゴー・ミヨ」「ヴィヌム」は各生産者のその年の出来映えをそれまでの実績と比較して評価するために、ワインの素性を明かして評価するのに対して、「アイヒェルマン」は先入観なしに公平に評価するため、ブラインドで試飲することを確か以前は高々と謳っていたはずなのだが、最新版には明記されていない。また、2009年にゴー・ミヨが審査料とロゴ使用料を徴収しようとして生産者の反発を買ったことは上記の通りで、その反省から両ガイドブックは生産者から審査料などは一切徴収しないが、アイヒェルマンは掲載にあたって一定の費用負担を求めていると、23年前にとある生産者から聞いた。そのため掲載されてもおかしくない、世評の高いいくつかの生産者は紹介されていない。しかしゴー・ミヨとヴィヌムよりも大判で分厚いのに価格は29.95Euroと競合よりも510Euroも安く、また私見では醸造所評価も無名生産者に弱冠手厚い傾向があり、独自の視点と情報を提供していて興味深い。

 公平を期するために言及するならば、ゴー・ミヨやヴィヌムにも評価されることを好まない生産者もいて、そうした生産者は優れたワインを造っていても試飲ワインを提供しないので掲載されない。最新版のヴィヌムのトレンドコラムのテーマ「オレンジワイン」でも垣間見えるように、目新しい手法に対しては批判的で、どちらも品種と産地の典型性を欠くワインに厳しいので、いわゆるナチュラルワインで一部に評価の高い生産者は基本的にいずれのガイドブックにも出てこない。オーディンスタール醸造所も以前はゴー・ミヨにサンプルを送っていたが不当に批判的な評価を掲載されたので、現在は試飲ワインを提出していない。リタ・ウント・ルドルフ・トロッセン、エンデルレ・ウント・モルも素晴らしい生産者であることは間違いないが、ガイドブックに掲載されること自体にそもそも意味を見出していないようだ。

・ザールの躍進
 さて、毎年話題になるのが各ガイドブックで選ばれる「今年の醸造家」や「ベストワイン」だが、特に注目を集めたのは「ヴィヌム」でのザール産リースリングの高評価だった。13ワイン生産地域の一つモーゼルの支流にすぎないザールのワインが「リースリング・トロッケン2016」「リースリング・ファインヘルブ2016」「リースリング・カビネット2016」「リースリング・シュペートレーゼ2016」と、個々のワインに与えられる10部門の賞のうち4部門を制覇。とりわけリースリング・トロッケン部門では、辛口を得意とするファルツやラインヘッセンを抑えてザールのファン・フォルクセンのシャルツホーフベルガー「P.」が1位に選ばれ、甘口のカビネット部門でもファン・フォルクセンのボックシュタイン・カビネットが居並ぶザール産やモーゼル産を制した(4位にもファン・フォルクセンのヴァヴェルナー・リッタープファードが入賞)。ファン・フォルクセンの醸造所評価はヴィヌムもゴー・ミヨもアイヒェルマンも揃って四つ星だが、新生ゴー・ミヨではファルツのバッサーマン・ヨーダン醸造所のグローセス・ゲヴェクスに100点を与えてリースリング・トロッケン部門の一位とし、カビネット部門とシュペートレーゼ部門では昨年のゴー・ミヨで醸造家大賞に選ばれたザールのツィリケン醸造所のワインを、それぞれ96点、99点でベストワインとしている(ちなみにヴィヌムではそれぞれ88点、92点)。

 この「ヴィヌム」のザールの高評価は何を意味するのか。理由の一つは天候が味方したことで、6月まで続いた大雨の後、7月から一転して10月の収穫期まで晴天が続き、モーゼルの一部では8月下旬にブドウが日焼けする被害が出たほどだった。そのためボトリティス(灰色黴)はほとんど発生せず、非常に健全に熟した収穫となったことから辛口の醸造に向く生産年となったという。モーゼルよりも標高が高く冷涼なザールでは、リースリングはよりゆっくりと成熟してアロマとエキストラクトを蓄積出来たことが、ワインの品質をさらに押し上げたものと思われる。

 もう一つの理由はアルコール濃度が低く繊細なワインへの傾倒である。2017年版のゴー・ミヨでジョエル・ペインが書いている様に(p. 26「軽さへの回帰」)、2006年産にはカビネットでアルコール濃度15.6%というワインが登場し、シュペートレーゼはもとよりアウスレーゼ、ベーレンアウスレーゼのようなスタイルでも、あえて格下げしてカビネットと名乗るワインが横行したが、近年は冷涼な産地ならではの軽さを意識したカビネットが一部で生産されるようになったのは喜ばしい、と述べている。そして2016年産はモーゼル産の辛口81アイテムが90点以上を獲得したが、その大半はアルコール濃度12%以下であったこともポジティヴに評価している(2018年版、p. 321p. 928)。

 そしてもう一つの理由は、生産地域モーゼル全体で高品質な辛口が増えてきたが、その中でもとりわけザール地区に勢いがあるためだ。モーゼルの生産地域の現状紹介では以下のように述べている。「オックフェン村でのローマン・ニエヴォドニツァンスキーや、ゼーリヒ村でのマルクス・モリトールのプロジェクトは、ザールに大きな変化が生まれつつあることを示している(訳註:オックフェン村もゼーリヒ村もザール川沿いにあり、この二つの醸造所がそれぞれの村でブドウ畑の復興プロジェクトに取り組んでいる)。特に今年は試飲の最終段階で、この地区の多くの生産者が大幅に品質を向上させて新たな星を獲得した」(p. 313)。ベストワインの辛口リースリング部門では、ラインヘッセンの辛口がシャルツホーフベルガー「P.」と同点の97点、次点が96点でファルツとラインヘッセンの辛口で定評のある生産者から3アイテムが並んでいる。わずか1点差をつけて、さらにその中からあえてファン・フォルクセンのワインをベストとして選んだのには、現在最も勢いのある地区で、その地区全体を牽引している生産者という背景を考慮したものと思われる。

 とはいえ、ガイドブックはあくまでもガイド、つまり案内役にすぎない。しかしまた、ドイツのワイン業界のプロフェッショナル達の経験と知見が集約された優れた作品でもある。そして、いずれもドイツ語で書かれ、ドイツで出版されていることから明らかなように、ドイツ国内に向けた情報であり、日本の嗜好や需要にそのまま通用するとは限らない。しかし少なくとも、それぞれの生産者がドイツではどのような立ち位置でどう評価されているのかは、日本でドイツワインの流通販売に携わるなら知っておいたほうが良いと思う。

 以下に三つのガイドブックの概要と、現在ラシーヌ()で扱いのある生産者とワインの評価を挙げておきます。ご参考になれば幸いです。

・各ガイドブックの評価基準

 

ヴィヌム

ゴー・ミヨ

アイヒェルマン

醸造所評価

★★★★★ 最高評価、国際的にもトップクラ ス。

★★★★ ドイツの最上の醸造所の一つで、 国際的にも評価されている。 ★★★ とても良い醸造所で、素晴らしい ワインにしばしば出会う。
★★
高水準な良い醸造所。

★ 長年安定して良いワインを造っ てきた信頼出来る醸造所。

☆ その他のおすすめできる醸造所 で今後注目に値する。

*(☆半分) もうひと息でランクアップする 醸造所。

★★★★★ ワールドクラス。常に「抜きん出 た」「唯一無二の」ワインを生産し ている。

★★★★ ドイツのトップクラスの醸造所で 「見事な」ワインが大半。
★★★ 「非常に良い」の上の方に属する ワインを造っている。
★★ 良い。安定して「良い」か「非常に 良い」ワインを生産。
★ がんばっている。安定して「良い」 の評価。向上の見込みあり。

*(ブドウの葉) その他のおすすめ醸造所。84 点以 上のワインが多い。

房印は黒と赤があり、赤は同じ星 の数の中の上位グループに属する ことを示す。

★★★★★ ワールドクラス。国際的なトップ 生産者。

★★★★
素晴らしい生産者。
★★★
非常に良い生産者。

★★ 良い生産者。

★ 平均以上のワインをつくる信頼 出来る生産者。

☆ ★の後にある白い☆で、もう一息 で上のランクに上昇出来そうな 状態を意味する。

ワインの評価

100 完璧。希にしか与えられない。

95-99 抜きんでたワインで、やはり希に しかない。

90-94 長期熟成能力のある素晴らしい 品質のワイン。

85-89 非常に良いワインで熟成で向上 することが多い。しばしばコスト パフォーマンスに優れている。

80-84 良好な品質。お買い得ワインも多 い。

75-79 日常消費向けの並酒。

99-100:唯一無二。 これ以上優れたワインは出来な い。数十年は熟成するワールドク ラスの品質。

95-98:抜きん出ている。最高度の 調和、独自製、多様性、フィネスと エレガンスを有する非凡なワイ ン。熟成向き。

90-94:素晴らしい。とても複雑で 深みがあり、典型性を明確に有し 優れた熟成能力のある印象的なワ イン。

86-89:非常に良い。表現力と個性、 熟成能力を有するとても良いワイ ン。

84-85:良い。バランスの良い、品 種の個性が出たワイン。平均以上 の品質。

95-100 見事、ワールドクラス

90-94 素晴らしい

85-89 とても良い

80-84 良い

75-79 平均的

70-74 平均以下

60-69 明らかな欠陥あり

50-59 全くの不出来

初版

1994 年版

2018 年版

2001 年版

編集主幹

ジョエル・ペイン、カーステン・ ヘン

ブリッタ・ヴィーゲルマン
ゲアハルト・アイヒェルマン

試飲チーム

18人

13人

4人

試飲方法

オープン(ベストワインを決める 最終ラウンドではブラインド)

記載なし。恐らくオープン。

ブラインド?(以前はブラインド との記載があったが最新版には なし)

 

・ラシーヌ()で扱いのある醸造所とワインの評価(201712月現在)

(1) ヴァイサー・キュンストラー

 

ヴィヌム

ゴー・ミヨ

アイヒェルマン

醸造所

★★★★

★★★★

記載なし

Wolfer Sonnenlay Riesling Kabinett trocken 2016

86

87

——

 

(2) A. J. アダム

 

ヴィヌム

ゴー・ミヨ

アイヒェルマン

醸造所

★★★*

★★★

★★★★

Riesling trocken 2016

——

——

86

Dhroner Riesling trocken 2016

——

87 (註 1)

88

Hofberg Riesling trocken 2016

86

85 (註 1)

90

Goldtröpfchen Riesling trocken 2016

87

89

90

Hofberg Riesling Eiswein 2016

93

95

92+

1:誤植でワイン名が入れ替わっている可能性あり。

 

(3) ファン・フォルクセン

 

ヴィヌム

ゴー・ミヨ

アイヒェルマン

醸造所

★★★★

★★★★

★★★★

Riesling VV 2016 (註 2)

(trocken 85 )

(feinherb 85)

(86)

Schiefer Riesling 2016

87

——

85

Saar Riesling 2016

88

88

86

Alte Reben Riesling 2016

90

90

89

Volz Riesling 2016

93

92

91

Scharzhofberger Riesling 2016

94

94

91

Scharzhofberger Pergentsknopp Riesling 2016

97 (ベスト辛口リー スリング)

93

92

Altenberg Alte Reben Riesling 2016

92

91

90

2:ヴィヌムはtrockenAlc. 12%と記載しており、ゴー・ミヨはfeinherbAlc. 11.5%、アイヒェルマンは単にAlc. 12%と記載している。ラシーヌ()の扱っているVVはデータシートには残糖14g/ℓ、エティケットにはtrockenfeinherbの表記はなくAlc. 12%とある。醸造所に確認したところ、VVという名のワインは一種類のみとのこと。

 

(4) エファ・フリッケ

 

ヴィヌム

ゴー・ミヨ

アイヒェルマン

醸造所

★★★

★★★

記載なし

Rheingau Riesling 2016

86

84

——

Mellifluous Elements Riesling 2016
85 (feinherb)
87 (feinherb)

——

Lorcher Riesling trocken 2016

87

86

——

Lorchhäuser Seligmacher Riesling 2016
91 (feinherb)
90 (feinherb)

——

Lorcher Schlossberg Riesling 2016
91 (feinherb)
89 (feinherb)

——

Lorcher Krone Riesling trocken 2016

91

91

——

 

(5) ロレンツ

 

ヴィヌム

ゴー・ミヨ

アイヒェルマン

醸造所

★★

Riesling 2016

84

85

85

 

(6) リンクリン

 

ヴィヌム

ゴー・ミヨ

アイヒェルマン

醸造所

記載なし

*

記載なし

Müller-Thurgau low sulfer 2016

—–

—–

 

 

オーディンスタール、リタ・ウント・ルドルフ・トロッセン、エンデルレ・ウント・モルはいずれのガイドブックにも記載なし。

(以上)

 

北嶋 裕 氏 プロフィール: 
ワインライター。1998年渡独、トリーア在住。2005年からヴィノテーク誌にドイツを主に現地取材レポートを寄稿するほか、ブログ「モーゼルだより」 (http://plaza.rakuten.co.jp/mosel2002/)などでワイン事情を伝えている。
2010年トリーア大学中世史学科で論 文「中世後期北ドイツ都市におけるワインの社会的機能について」で博士号を取得。国際ワイン&スピリッツ・ジャーナリスト&ライター協会(FIJEV)会員。

 
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