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ジョージア

ジョージアワインに開眼して

  
クヴェヴリを開ける
 「さぁー、あけるぞ」という様子で、ズボンの裾をたくしあげ、素足になって作業開始。覆った土を掘り返し、クヴェヴリの上を密閉している粘土を静かに取り除く。粘土の下から、木の蓋の中央部をふさいでいるブドウの葉を取り除き、その穴から手をいれて二つに分かれる木の蓋をあけると、クヴェヴリの縁が現われ、泉に水が湛えられているように、ワインが顔をだす。試飲が終わったら、またすべて逆の順序でもって、クヴェヴリを密閉。造り手はまるで森の中でダンスを踊る小人のように、笑顔で粘土を踏み固めた。「あー、このように育てるから、特別な味が感じられるのだ」と心から感動した瞬間でした。

未知の世界がはじまる
 2012年11月、はるばるジョージアの首都トビリシに早朝4時に到着。夜明け前の街の風景に、近年の紛争に明け暮れたこの国の労苦を強く感じました。イスタンブルを超え、ここはヨーロッパでなく東欧に来たという思いとともに、未知にひとしいジョージアのワインとその造り手たちのありように、期待と不安がないませになっていました。が、カメ造りワインの実像に触れて、あたかも人智を超えたような崇高な味わいを感じ、新しい味わいの世界が開けたことを実感しました。長年、ヨーロッパでアンフォラ造りのワインを味わって、「なにか違う」と思い続けた謎が、ようやく解けたように思いました。

クヴェヴリが育む文化
 ジョージアではクヴェヴリはまさに母胎であり、「ワインを造る」といわずに「ワインを育てる」と表現します。「ワイン造り揺籃の地」ジョージアでは、過去からずっと途切れることなく、様々な侵略やイスラムの支配にも屈せず、自宅内または畑のそばの地中に埋められたクヴェヴリで、ワインが育てられてきました。彼らにとって、「わが家のワイン」はつねに、喜びの源泉であり、抵抗の拠り所なのでした。ポリフォニーの歌声とともに、自作したワインでもって延々と乾杯を続け、聖なるものと人生をことほいだのです。文字どおり大地とともに生きてきたワインですが、いつの時代にも村に「名人」と呼ばれる家があり、その優れた伝統が今日まで引き継がれ、私たちの目にもとまったのです。

大地のエネルギーこもる深遠な味わい
 かくして遠路をいとわず、第一便が入荷。社内の初テイスティングは、期待と緊張の一瞬。だがひとたび味わえば、内にこもるエネルギーが、大らかで様々な表情を見せるニュアンスをまとめあげて、身体に沁み入るよう。クヴェウリの中で大地とともに息づいてきたワインだけにしか表すことのできない深遠な味わいは、まさしく「美味な百薬の長」を思わせました。
                                          2014年9月 合田泰子



【生きている伝統、ジョージアの大地に根ざしたクヴェヴリ・ワイン。ラシーヌから。】

ワイン観を覆す最古で最新のワイン
 どんなワインについても当てはまる、共通の評価尺度があるでしょうか? 世界各地の伝統が育んだワインのクオリティを、現代のファインワイン観で捉えられるでしょうか? ジョージア(グルジア)に息づく上質なクヴェヴリ・ワインを味わうと、日常出会うワインとの根本的な違いに気づき、このような疑問がわいてきます。
ちなみに、ジョージアワインの理解が深い名文家アンドリュー・ジェフォード氏は、ワインは基本の5タイプ(白・赤・ロゼ・スパークリング・酒精強化)だけかと問いかけ、ジョージアのクヴェヴリで造られた数少ない白ワインの味わいは、「第6のジャンル」に属すとしています。
最上のクヴェヴリ・ワインには、古風で単純な美味しさの域をこえた、大地の奥底から伝わる深い温もりが感じられます。固有品種に由来する素朴な持ち味と、土地のエネルギーを体現したワインは、未知の迫力で飲み手の全身に働きかけてきます。
ナチュラルなワインをとり巻く人々の関心と共感を呼ぶジョージアワインは、最古にして最新であるという「近代の逆説」なのです。

なぜ、アンフォラか?
 パリやロンドンなどヨーロッパの中心都市でいま、ジョージアの伝統的なクヴェヴリ(アンフォラ、素焼きの壺)製ワインが注目されています。なぜでしょうか。ナチュラルなワイン造りの動きが深化定着するにつれて、ワイン造りの現状に飽き足らない造り手たちは、まずアンフォラという容器に注目し、試み始めました。素材と形状がもたらす無二の味わいが、アンフォラ製ワインに感じとられたからです。

なぜ、ジョージアか?
 が、彼らの関心はジョスコ・グラヴネルのように、アンフォラを地中に埋めるジョージア流の用い方にまで達しました。ジョージアが世界最古のワイン産地であるかどうかはともかく、確実にヨーロッパワインの源流にあるとすれば、ワインのあり方を根本から問い直そうとする意欲的な生産者は、ジョージアの地に魅かれざるをえません。その地と、そこに生きる人々の生活情景と精神のエネルギーとが、戦乱や異民族支配に耐えながら8000年に及ぶワインの歴史を支えているのです。

なぜ、地中に埋めっ放しにするのか?
 ジョージアでは今日に至るまで、クヴェヴリの中での発酵と熟成は、ほとんど自然まかせ。だから近代醸造学とは相いれず、アンコントローラブル(制御不能)の極致です。しかし、地中にアンフォラを埋めておけば、液温が恒常に保たれやすい利点があり(カヘティで12-14℃)、あるいは大地の気がワインに働きかけるのかもしれません。
とはいえアンフォラは、細菌がたやすく侵入増殖し、異臭や雑味を発しがち。ジョージアならば、だれでもどこでも上質なクヴェヴリ・ワインが造れるわけではありません。技法が単純なだけに、環境条件と人間的な条件―特別な注意力・感性・想像力―なしに、現代に通用する洗練されたワインを創り出すことは難しいでしょう。伝統を守る優れたクヴェヴリ・ワインは、ジョージアでも例外的な存在なのです。

ジョージアに学ぶこと
 自然環境が決定的な役割をはたすジョージアでは、ワイナリー(マラーニ)を設ける場所の選び方ひとつにも、古人の叡智が潜んでいます。このような文化をふくめた栽培醸造環境の全体が、ジョージア固有の「テロワール」であり、テロワールは輸出できません。ジョージアの風土と、現代まで途切れず造られ続けられながら深化洗練されてきた、ジョージアのワイン造りの伝統とを抜きにして、クヴェヴリ・ワインを語り、技法だけを真似ても、意味がありません。

なぜ、ラシーヌから?
 クオリティワインを求めるラシーヌの旅は、ジョージアのクヴェヴリ・ワインにたどり着きました。個性的で温容を湛える深遠な味わいと、ワインの本質に迫りワインとはなにかを考えさせるワインこそ、ラシーヌが求めるものです。
私たちは、たがいに生産方法と酒質を精査しあうクヴェヴリ・ワイン協会のメンバー十数名を中心に、ワインの味わいだけによって生産者を選び、毎年クヴェヴリ内の状態をチェックして輸入アイテムを決定し、定法どおり慎重に輸送しています。生産者チームの絶大なご協力のもと、このようなプロセスを経ることによってはじめて、歴史と伝統の色濃い独特な味わいが姿を現すのです。
ナチュラルな造りのオレンジワインには慣れている日本の愛好家の方々も、新しい天体に触れて地平が広がる思いをされるのではないでしょうか。
                                         2014年9月 塚原正章

   
       
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