Tito’s Adega
ティトズ・アデガ
造り手: |
Tito Silva ティト・シルヴァ |
国・地域: |
Ilha do Pico ポルトガル / アソーレス諸島 / ピコ島 |
主要な使用品種: |
ヴェルデーリョ(Verdelho) テランテス・ド・ピコ(Terrantez do Pico) |
ホームページ: | http://www.acercadosfrades.pt/ |
ワイナリー詳細: | ダウンロード(PDF) |
取扱いワイン詳細: | ダウンロード(PDF) |
ティトズ・アデガについて
ピコ島でも修道士たちは数々のエピソードを残していった。最も有名なものの中には以下のようなものもある。ある修道士がピコ島に到着し既にいた島民に耕作地を要求した際に、「これだけの広さがあれば十分だ」牛一頭分のなめし皮を差し出した。島民の了承を受けると、修道士たちはその牛の皮を細長く切り、長いひも状にし、それで囲えるだけの20aの耕作地を手にした、というものである。ティトズ・アデガ(=ティトのブドウ園)の生産するワインのブランド名:A Cerca dos Fradesとはこの逸話に由来する。醸造所の設立者であるティト・シルヴァにとって、祖父が所有していたブドウ畑での家族総出での収穫の光景は大切な原風景であり、2015年からその畑の修復に着手した。テランテシュ・ド・ピコ、アリント・ドシュ・アソーレス、ヴェルデーリョのピコ島の地品種を選び、畑を再整備して3ha植樹。醸造家にはアソーレス諸島の複数の島でのワイン造りに関わり、アソーレス諸島ワイン委員会の会長の職にも着いていたパウロ・マシャドが担当。ワイン造りの面でも、政策面でもアソーレス諸島のワイン文化の再興に努めた人物で、ピコ島ワインの復興の多くの局面に関わってきた。古い石垣の畑を再興しての栽培なのでブドウの樹齢は若いが、それを補って余りある畑のポテンシャルを、シンプルな醸造で忠実にワインに表している。
ピコ島について
ピコ島に行くと石壁(クライシュ)の入り組む海辺のブドウ畑の姿に圧倒される。石壁の長さは合計8万km、地球二周分の長さがあると言われ、2004年に「ピコ島のブドウ畑文化の景観」(987haの畑)がユネスコ世界遺産に登録された。しかし歴史を紐解くと、島外からのベト病やフィロキセラ禍の伝来により、20世紀初めにはピコ島のワイン産業は風前の灯だった。1949年に協同組合が設立はブドウ栽培文化の復活の第一歩と言うことができるだろうが島全体として大きくワイン生産量が増えたわけではない。しかしそれに合わせて行政が支援策を打ち出したことにより、島外からのワイン技術者の注目を集めるようになり、次第に生産量は増えていく。2011年時点で20万Lのワインが生産され、それ以降も着実に生産量は増加。2014年にはアントニオ・マンサニータを含む有志達によりアソーレス・ワイン・カンパニーが設立。その後も島内外からのピコ・ワインへの機運は高まりつづけ、2022年時点で70万Lの生産量となっている。 現在ピコ島には1000ha弱のブドウ畑が生産体制にあるそうで、さらに2000haの耕作放棄された畑が残っている。品種の多くはアリント・ドシュ・アソーレスが植えられており、よりマイナー品種であるヴェルデーリョやテランテシュなどの地品種の再興の動きも見られる。2010年代前半にはポルトガルワインの文脈にはついぞ見かけられなかったピコ島のワインだが、2020年代に入りその特異な歴史とワインに光が再び当たり始めた。
アソーレス諸島について
9つの島からなる北大西洋の火山島。1720年のピコ島、1957年のファイアル島での噴火が記録されている。14~15世紀頃に発見されたとされ、ブドウも同時期に栽培が開始された。アンドレ・ジュリアン(フランス人の最初のワインライター)の1812年の報告によると、9つの島から合わせて1340万Lのワインが生産され多くが輸出されていたという。多くのワイン産地同様、ベト病やフィロキセラ禍が島へと伝わり、諸島全体からブドウ畑が消えた。アメリカ台木を利用してのブドウ栽培はその後も続けられ、現在最もブドウ栽培が盛んなピコ島(2番目に大きな島)には1000ha弱のブドウ畑がある。ブドウ品種の多くはアリント・ドス・アソーレスが植えられており、よりマイナーなヴェルデーリョやテランテスなどの地品種の再興の動きも見られる。 最大の島はサン・ミゲル島で、人口の約半分の13万人が住んでいる。各島にそれぞれの特色はあるが、最大の産業は酪農であり諸島の総面積の半分が牧草地たちとなっている。その他トウモロコシやパイナップルの栽培も盛んだが、近年は観光業が島民の生活を大きく変えている。ワイン産業はピコ島が主要ではあるものの、テルセイラ島、グラシオーザ島、ファイアル島、サン・ミゲル島、などでもブドウ栽培はされており、諸島全体で2023年時点36のワイナリーがある。
ポルトガルについて
ポルトガルは大西洋、山脈や河川により地理的に隣国スペインから隔てられ、1986年にEUに加盟するまでは政治的にも孤立していた。そのため長い間イギリス向きに出荷されてきた、ポートワインやマデイラ酒を除くと、ポルトガルワインへの関心は市場でも高いとは言えなかった。しかしそれゆえ隠れたブドウ栽培地域や地品種の古樹が数多く残り、それらの要素への関心が世界的に高まる中で、2010年代頃からダイナミックな変化が起こっている。 ポルトガルが広くない国土にもかかわらず、多様な地形と土壌、ワイン文化を持つことは、ポートワインとヴィーニョ・ヴェルデという性質が相反するまったく別種のワインが、しかも隣接する地域から生産されることからも、良くわかる。それらの下地と、海外などで経験を積んだ若い造り手たちの熱意が、現在のポルトガルワインの原動力となっていると言えるだろう。 とかく情報過多に陥りがちな現在、ポルトガルには魚介類を使った素朴な料理が多く、その料理と合わせて飲まれてきたポルトガルワインは、一般に気取った味わいを感じさせないので、難しく考えずに飲んでいただきたい。