合田 玲英のフィールド・ノート

2013.6    合田玲英

《 ピアチェンツァ春の試飲会 》

 4月27、28、29日にわたって、ミラノの南東の町ピアチェンツァで試飲会がありました。会の名前は、[ ソルジェンテ・デル・ヴィーノ ] ―ワインの源泉、と訳せばいいでしょうか。主に、北~中部イタリアの生産者が参加し、他にもイタリア国外から何軒か加わり、合わせて100軒以上の生産者が出展していました。会は、毎年春に開催されていて、自然派ワインの造り手のみで構成されています。主催者のパオロさんとは話せなかったのですが、ホームページや生産者の方々から聞いたところによると、彼はワインの流通の仕事をしつつ、ワインを愛する者の一人として、インターネットや試飲会の開催を通じて、ワインの世界を知ってもらおうとしているのです。

この試飲会では、たくさんの若い生産者の方々がいて驚きました。代々ワイン造りをしていた家系の人や、アメリカやヨーロッパから集まった男女6~7人のグループが小さな村に住みつき、牧畜とサラミやチーズなども作りつつ、ワイワイと醸造をしている人たちなどがいます。醸造学校を卒業後、ささやかなブドウ畑を入手して、ワイン生産を始めたというカップルもいました。年齢は30歳前後、まだワイナリーを始めて5年前後という生産者たちが、魅力的なワインを造っていて、僕自身も勇気づけられました。

《 Il vino naturale esiste e si fa nella vigna  “自然なワインは畑で造られる” 》

 これは、ソルジェンテ・デル・ヴィーノで配られたパンフレットに印刷されていましたが、フランスのInstitut Francais du Vinというサイトに掲載されています。何が書かれているかというと、左のボトルから順番に、[ 従来のワイン、有機ワイン、デメテル(バイオダイナミック認証機関)認証ワイン、自然派ワイン ] とあり、それぞれ “ブドウのほかに、ワインのボトルの中に入れてもいいもの” が書かれています。使用していい化学物質だけでなく、醸造方法まで法律、各認証機関によって細かく規定されています。一番右の自然派(ヴィーノ・ナトゥラーレ:ヴァン・ナチュレール)に関しては、中身は生産者次第で、認証機関はありません。

 有機ワインでは、たくさんの物質使用が許可されています。バイオダイナミック認証機関のデメテルの規定では、ベントナイト(ワインの濁りを除去するために使われる)など4つまでに絞られています。添加可能物質のほかに自然発酵や、ろ過についても明記されていて、自然派ワインでは亜硫酸の添加と自然発酵のみが明記されています。

 以前、収穫の時期に、従来のワイン造りをしているワイナリーで数日手伝いをさせてもらったことがありました。そのワイナリーはその年が初醸造で、醸造責任者(エノロゴ)を一人雇っていました。赤ブドウを収穫して仕込んだのですが、初日にマセレーション(果皮浸透)の段階で、果皮の成分がより抽出されやすくなる粉を入れました。翌日、翌々日と櫂入れ(ピジャージュ)をしました。本来櫂入れは、タンクの中で浮いてくるブドウの果皮を果汁の中に沈めこませる、とても大変な力仕事なのですが、翌日からもう、何回も櫂入れを仕切ったように、ただ液体を混ぜているだけのような感触でした。その後、そこに酵母などを入れ、ワインを発酵させたのですが、そのときは少し醸造が上手くいかず、醸造後に強い動物臭が出てしまいました。しかし、銅の粉末をいれ、ポンプで果汁を銅の管を通すことで臭いが消え去り、とてもクリアな香りになりました。一連の作業を見て単純に、『やっぱり効くんだなぁ。』と感じました。

《 続・メンティ・ジョヴァンニ訪問記 》



 前回の訪問から約3週間後の再訪。たった何週間かで随分とブドウの芽が育っていました。収穫の時期と同じくらいに、楽しい季節です。この日も前回と同じようにバイオダイナミック農法の500番調合剤の散布をしました。イギリス人の全くワインを知らない友達も一緒に来てくれたのですが、ステーファノは作業の合間に彼に熱心に作業の意味を説明していました。友達がなぜ自然な農法にこだわるのかと聞くと、ステーファノはこう返しました。

「工業的な大量生産ワインを造ろうとすると、化学肥料の散布が不可欠になる。高品質ワインを造ろうと思ったら、やっぱり化学肥料を使用してもいいけれど、自然由来のものだけでワインを造ることもできる。僕は、自然由来のものだけの方が好きだから、そうしている。」

 今年は異常なほど雨が多いらしく、畑での作業が思うようにできません。ヴェローナの町にいても週の半分が雨でまだまだ朝夕は冷えこみます。例年は、4月以降、雨が降ることは稀だそうですが、メンティのあるガンベラーラでは5月の第3週末だけで、1月一杯分の雨が降ったそうです。

 5月と6月は、葉や未熟な果実への病気の対策として、銅剤の散布が、有機農法やビオロジック農法で認められています。けれどもメンティでは、初期はプロポリス由来の調合剤の散布に留め、少しでも銅剤を使う機会を減らしています。土中の過剰な水分の対策として、石英の結晶から作るバイオダイナミックの調合剤501番を撒くそうです。これもぜひ、手伝いにいきたいと思います。

 前回来た時に、葉がすべて落ち、枯れてしまったと思われていた、植木鉢のみかんの木。前回余った500番調合剤(根や土に働きかける)を撒くと、葉が出て花まで咲いたと、ステーファノがびっくりしていました。

《 ビチェンツァ試飲会 》

 5月19日、ビチェンツァから少し北の村にて、[ VIeNI in Villa ] という試飲会がありました。小さな試飲会で生産者も出展20社ほど、北イタリアとスロヴェニアからのみ。お客さんは地元の家族連れや、会場が綺麗な場所なので、ピクニックを兼ねて来ている人もいました。主催者の方は小さな卸業者で、大きな試飲会が出来ないので、1年ごとに半数の出展社(10社)を入れ替えて、毎年20社で試飲会を開いています。1社につき2年間だけ出展してもらう計算です。小さいけれど、知っている人だけの閉じた会ではなくて、「どこから来たの?」と、お客さん同士でも気楽に話しかけあえる試飲会です。こういう小さな試飲会が、今の時期はしょっちゅう方々で開かれているらしく、一般の人もたくさん参加しているのが素晴らしいなと来るたびに思います。今回はメンティのステーファノに教えてもらいましたが、ネットでも告知している場合が多いので、もしフランス、イタリアに旅行に行かれることがあったら、行ってみてはどうでしょうか。大規模な試飲会よりも、こうした小さい試飲会のほうが、分かりやすくて楽しいし、つかれません。また、おいしいサラミやハムや蜂蜜なども見つかりやすいです。

合田 玲英(ごうだ れい)プロフィール:
1986年生まれ。東京都出身。

《2007年、2009年》
フランスの造り手(ドメーヌ・レオン・バラル)で
収穫
《2009年秋~2012年2月》
レオン・バラルのもとで生活
《2012年現在》
ギリシャ・ケファロニア島の造り手(ドメーヌ・スクラヴォス)のもとで生活中
《2013年現在》イタリア在住

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