合田 玲英のフィールド・ノート

2013.5    合田玲英

 《 まえがき 》
 いつもお読みいただきありがとうございます。4月からイタリアのヴェネト州、ヴェローナに滞在しています。これからもより深く、ワイン生産者の考え、生活、栽培と醸造の実態をお伝えできたらと思います。よろしくお願いします。

《 ヴェローナの試飲会 》
 4月7~10日にかけて、ヴェローナでは、ヴィニタリー、ヴィニ・ヴェーリ、ヴィッラ・ファヴォリータという3つの大きな 試飲会がありました。今回どれも初めての体験だったのですが、ヴィニタリーはその規模の大きさに驚きました。 話に聞いているだけだと実感がわきませんでしたが、移動がとにかく大変で、走って移動をしないと、生産者の方々と話す時間がありません。その点、ヴィニ・ヴェーリとヴィッラ・ファヴォリータは、規模は小さいものの、それでも 各150社ほどのワイナリーが集まり、お客さんもたくさん来ていました。またヴィニタリーでは、VIVITという小さな コーナーがあります。大企業ではなく、少量生産のワイナリー、が、テイスティングをさせてくれますが、一番活気があったように思われます。場所が狭いからというのも理由でしょうが、入場制限をしていました。

こちらは、ヴィッラ・ファヴォリータ会場。

この3つの大きな試飲会と、もう1つ、クリスチャン・ パターテというワインブローカーが別会場で営んでいる、小さな試飲会にも行きました。ラシーヌが扱っている ワインだと、ミアーニやトレヴィジオールを扱っています。個人的にはこの小さな試飲会がとても勉強になりました。扱っているワインのどれもとても品質が高かったです。もちろんブローカーの試飲会なので、違うワイナリーのものを何種類も飲ませてくれたのですが、クリスチャンの味の好みと方向性が明確に感じられました。それを伝えると、とても喜んでくれて、隣り合った畑の違う生産者のボトル、同じ醸造者の畑の違うボトルなど、細かく説明をしながら、惜しみなく、彼の知っていることを教え てくれました。畑の作業から醸造のことまで、何を聞いても淀みなく答えてくれ、生産者の代わりに各ワインの 素晴らしさを伝えようという情熱を感じました。

《 メンティ・ジョヴァンニ 》
 ガンベッラーラにて約100年、4世代前からワイン造りをしているメンティ家。現在は6ha弱の畑を家族3人で 管理し、ワインを醸造しています。息子のステーファノは30過ぎとまだまだ若く、畑やセラーの仕事以外にも試飲会に行ったり、インターネット上で情報を発信したりと、精力的に活動しています。ステーファノの不在時でも、まだまだお父さんが健在なので、安心して訪ねることができます。ヴェローナから東に約40㎞と近いこともあり、さっそく手伝わせてもらいに行きました。

 写真は、収穫後約半年間干されていた、白品種のガルガーネガ。築400年の3階建ての小屋の3階で、ブドウを陰干しします。 窓は虫や鳥除けの網を張るのみで冬中開けっ放し。冷暖房での温度、湿度管理などはしません。

 ブドウの房は、一つ一つ紐に 括られていて、天井に打った釘からぶら下がっています。ブドウの陰干しに、木箱を使っている人もいますが、紐上にしてつるすと、状態の悪い粒が勝手に落ちていくので、自然に選別されるそうです。木箱を用いて干したばあい、例えばカビの生えた部分があると周りの健全な部分までカビが広がってしまいます。紐式は、手間はかかるけれど、収穫後から圧搾までブドウを最高の状態で保存できる方法なのだとか。 干した後は重さが半分以下になるそうで、今回の作業中ですら結構重く感じましたが、ブドウの束を下ろすのでは なく、持ち上げて釘に引っ掛けるのは苦労しそうです。1つのブドウの束から、ほぼボトル1本弱の果汁が得られる計算です。

 小屋の3階から地下2階にあたるセラー(実際、セラーは斜面にあるので、地下ではない)までは、一本太い管が通っていて、その管に干したブドウを放り込むと、圧搾機まで一直線。ブドウを括っている紐は、ちゃんと搾り切れるようにハサミを4か所ほど入れますが、一緒に圧搾機へ。植物繊維の紐なので、搾った後も搾り粕と一緒にしておけば、土に返ってしまいます。通常、収穫直後のブドウは1~2時間かけて搾りますが、乾燥させたブドウは約10時間、一晩中かけて搾ります。

 果汁は甘みが凝縮されていますが、複雑な味わい。作業中に飲むと力が湧いてきます。こうして得られた果汁は、甘口のレチョット、ヴィンサントもしくは、スプマンテの瓶内二次発酵用に足されます。今回イタリアに来るまで、アマローネやレチョット等の、長期間乾燥させたブドウを搾って 造るワインを知りませんでした。思いもよらず、こんな季節にブドウの果実に触れられる作業が出来て感激でした。そういえば、以前、青森の 無農薬のリンゴ農家/木村秋則さんの本を読んだときに、木村さんのリンゴは長い間置いておいてもそうそう腐らないと、写真付きで説明がありました。その時は半信半疑でしたが、実際に収穫直後からのブドウが品質の変化はあれども、劣化することなく状態を保っているから驚きです。

《 ビオディナミ農法初体験 》
 メンティ・ジョヴァンニ(以下、メンティ)では、2010年からビオディナミ農法を実践しています。10年前にニコラ・ジョリーが一度ガンベッラーラでセミナーを行ったのですが、ステーファノがまだ若く、知識が足りないと感じていたので、すぐには試さなかったそうです。ただ、関心は強くもっていたので、本を何冊か読み、ビオディナミの実践者にも話を聞き、ようやく2010年から実験的に開始したのです。

 メンティのいくつかのボトルには、スクリュー・キャップが使われていますが、これの採用にあたっても、同じワインをコルク栓とスクリュー・キャップのボトルに詰め、期間を開けて何度も試飲して、比べてから決めたそうです。ビオディナミ農法の試験中も、色々な種類のものを試したといっていました。今でもまだまだ手探り状態だとも言っていましたが、いくつかの調合剤を試した時に、明らかな違いを“すぐに”(ステーファノは“すぐに”と言ったあと、半年後くらいにと言い直していました)実感できたので、このやり方で進んでいこうと決めたのです。また、試す中でまったく効果がないと感じられても、素材は全て化学薬品ではないので、安心して試すことが出来ると言っていました。

 この日は調合剤の500番の散布でした。500番は牛の糞を、牛の角に詰めて1年以上土の中で寝かせたものです。触るととてもきめ細かい土という感じで、匂いも濃い土の香りでした。それを、人肌に温めたお湯90Lに、寝かせた牛の糞300gを入れ、1時間かき混ぜます。かき混ぜ方も決められていて、大きくすばやく回し、容器の中で大きな渦が出来たら逆回り。という作業を1時間。今回はステーファノと僕で、交代々々やりましたが、それでも大変な作業でした。出来上がった散布液は油のように少しヌルヌルしていました。500番は植物の根を活性化させるためだそうです。

 写真では樽を使っていますが、樽である必要はありません。水は水道水ではだめで、湧水が一番良く、最低でも雨水の使用が必要。メンティでは飲料水にもなる湧水が湧いているので、それを使用しています。そして1時間かき混ぜ終わってからが、時間の勝負です。何故かというと、この散布液の効力が1時間半なのだからだそうです。よって、一度に大量に作って取っておくことができません。すぐに散布にかかり、1時間半かけて約3ha分まきます。時間が来ると余った散布液は、捨てるしかなくなってしまいますが、捨てる前に触ってみると、シャバシャバの普通の水でした。

 大きなワイナリーでビオディナミの認証を取っているところはどうやっているのだろうかと、不思議に思いましたが、大きな容器で温度管理もしっかりし、調合剤の混ぜ方も全てプログラム可能なミキサーがあると聞きました。ビオディナミの調合液の散布を専門で請け負う業者で、調合から、トラクターでの散布まですべてやってくれるそうです。

(写真左) 散布液をまくステーファノ。 畑の仕立ては、ペルゴラ仕立てと呼ばれるもので、株の上方、左右に針金が張ってあり、そこに枝を這わせています。やはり雨の多い地域はブドウの背も高いです。


合田 玲英(ごうだ れい)プロフィール:
1986年生まれ。東京都出身。

《2007年、2009年》
フランスの造り手(ドメーヌ・レオン・バラル)で
収穫
《2009年秋~2012年2月》
レオン・バラルのもとで生活
《2012年現在》
ギリシャ・ケファロニア島の造り手(ドメーヌ・スクラヴォス)のもとで生活中
《2013年現在》一時帰国中

▲ページのトップへ

トップ > ライブラリー > 合田 玲英のフィールドノート vol.7