2013.3 合田玲英
《 ナウサ 》
先月号に引き続き、ギリシャ便りです。まず、ギリシャの北部、ナウサに行った時のことを紹介します。
訪れたのは2013年2月の初めで、ヨーロッパの地中海沿岸では雨のシーズン。北ギリシャはとりわけ雨の多い地域で、滞在していた期間中ほぼ雨でした。平地が多く、一昔前は一面ブドウ畑だったよしで、各地を訪れる度に同じことを繰り返すようですが、ここでもブドウ畑はどんどん耕作放棄され、引き抜かれてしまっています。
当地では、桃を始めとする果物の栽培が盛んで、ざっとバスの中から眺めると、ブドウ畑よりも桃園のほうが多いように見受けました。リゾート地のようにホテルになるよりはましだと言う人もいますが、やはり古樹を引き抜いてしまうのは もったいないことです。それでも、ギリシャ最大のワインメーカーはナウサにあります。
《 ドメーヌ・ダラマラス 》
ここは5代前から続くワイナリーで、現在の当主ヤニス、妻のカテリーナ、息子のコスティスと親戚とで経営しています。ギリシャは1970年代前後に約5年間続いた軍事独裁政権時代に、大量の若者が国外へ出て行ってしまいました。ヤニスもまたその1人で、窮屈な生活を強いられるギリシャを去り、国外で生活していたそうです。軍事政権が崩壊したあと実家に戻ったヤニスは、家業のワイン造りを手伝い始めました。醸造の勉強などしたことはないのですが、手伝いながらおのずと、ブドウ栽培と醸造にのめりこんでいったのです。
26歳の息子コスティスは、ブルゴーニュの醸造学校を卒業したあと、ボルドーや南仏のワイナリーで経験を積み、2年ほど前から本格的に家で ワイン造りを手伝い始めました。手伝いと言っても、畑の管理とセラーの管理まで 任されています。幼いころから祖父(ヤニスの父)と一緒に畑にいるのが好きで、両親に強制されることなく、自然とワイン造りの道に入ったとか。ヤニスもそんな息子を信頼しています。コスティスは当地で、ワインに限らず様々な 食品の造り手と積極的に交流しています。特に若い生産者と協力しあい、彼らとのつながりを大事にし、自然な食品作りを目指す仲間を増やそうとしています。しかし、それぞれに事情があるので、いきなり方向転換は難しそうです。頑固な生産者と造り方を変えたい跡継ぎのあいだでの親子話は、よく耳にしました。
ドメーヌの畑は山間部にあり、自根ブドウの畑もいくつか持っています。積極的に新しい畑も植えていますが、その場合は接木されたブドウの
ようです。畑には草花が一面に広がり、木や森が散在し、小さな谷には小川が流れ、とても豊かな土地でした。畑のある山間部は北方2000m 弱の山に連なっています。山から平地方向に吹く涼風のおかげで、ブドウにとても爽やかな酸味が備わるのです。この地方の赤ブドウはクシノマヴロという品種で、「黒い酸味」という意味です。本来は山間部での
栽培が適した品種なのですが、作業を楽にするためによく平地で栽培されているようです。
写真は、ドメーヌ・ダラマラスの樹齢60年のクシノマヴロ。
以前、畑の手入れをしていた親戚の叔父さんは、ブドウの樹が可哀想なあまり思い切った剪定ができなかったので、ブドウの株は3~4メートルに達しています。そのため、出来るブドウは良くないことが多く、全てボックスワインになってしまっています。
《 倉庫の移転 》 見聞記
その後、日本に一時帰国して、ラシーヌのワイン倉庫の移転を手伝いました。また、ワインの物的移動がひとまず終わったあとも、出荷や在庫チェックのために何度も足を運びました。引っ越しの時期については、ワインが熱で少しでもやられてしまわないように、冬である必要があったと、作業が終わってみて痛感しています。倉庫のある場所はどちらも海辺の開けたところで、風がとても強く、1日中作業に立ち合ってチェックするのは、とても大変でした。
新しい倉庫は、とても広いスペースのなかに、広い通路を設け、整然とパレットが並んでいます。よりよい環境を保つために、冷暖房が完備した機能的で大掛かりな空調施設と加湿器(逆浸透膜を通した純水による噴霧)も新調してくださったことを、ワイン造りの一端に携わっている人間として、とても感謝しています。14度という温度設定、風量を調節して空気を循環させて全体にまんべんなく定温が保たれる設備、自然の岩のセラーのようだとは言わないまでも、心地よい空間になっているのです。出荷用の作業台もまた、広くスペースをとり、何回もリストと現物の数をチェックする、
シンプルですがミスのないようなシステムがあり、倉庫の作業員の方々もチームワークが良く、きびきびと作業をしていました。
また、毎日ワインを出荷する際に、実際にボトルを手に取る作業員の方が、扱っているワインのことに興味を持って、扱って下さっているのに、とても感動しました。チェックをしながら、濁った白ワインを手にして「こんな白ワインが問題なく売れるんだ」と驚き、そこから何故こういうワインを生産者が造り、どれだけの注意を払ってインポーターが日本まで輸送をしてくるかという事に、耳を傾けてくれました。こういう熱心な方たちが実地に作業をして下さると、日常の細かな気づかないようなことが違ってきて、それがワインの品質と味わいに現れ出てくるのではないか、と思います。
引っ越しだけでなく、新倉庫に到着したリーファー・コンテナの 開梱と積み下ろし(デバン作業)にも、初めて立ち会わせてもらいました。ヨーロッパで醸されたワインがはるばる日本に来て、どのような作業を経てお客様まで届くのかを、一通り見ることが出来ました。コンテナからの積み下ろしも、もちろん空調の効いた専用の場所でおこなわれ、温度管理の効いたコンテナを開けても外気温にさらされることが無いように、細心の配慮がされています。コンテナの積載内容によっては、積み下ろしに2時間近くかかるので、夏には特に重要な工程ですね。
合田 玲英(ごうだ れい)プロフィール:
1986年生まれ。東京都出身。
《2007年、2009年》
フランスの造り手(ドメーヌ・レオン・バラル)で
収穫
《2009年秋~2012年2月》
レオン・バラルのもとで生活
《2012年現在》
ギリシャ・ケファロニア島の造り手(ドメーヌ・スクラヴォス)のもとで生活中
《2013年現在》一時帰国中