合田 玲英のフィールド・ノート

2012.01    合田玲英

《 ケファロニア島 ワイン事情(1) / 余計な手間について 》 

 ワイン関係の認証機関は、どこの国にもたくさんありますが、認証を得ると作業が増えるというのも、おかしな話だと思います。例えば、スクラヴォス・ワイナリーでは、ブドウ品種のロボラとマスカットにおいて、ケファロニアの固有品種だという認証のために、左の写真のようにカプセルの中に紙を 入れなければいけないのですが、これがとても手間。畑での作業とセラー での醸造の作業は、いくら大変なもでも喜んでやります。ですが、ワインの味と関係のない、場合によっては悪さをする、この一手間はなんなのだと 思わずにはいられません。ラベルに小さなマークを印刷すれば済む話だと思うのですが。日本向けのカプセル無し、ラベルが表一枚のみのボトル、RougeとBlancの輸出用のパレットづくりは、みんなで嬉々としてやりました。

 また、ビオロジックやビオディナミの認証をとると、輸出する際にも、さらにたくさんの手続きが増えます。

《 ケファロニア島 ワイン事情(2) / 澱の問題 》 
 前号の最後に、わずかな澱のために、ボトルからボックスワインへ詰めなおさなければならなかった作業のことを書きました。澱の出たボトルを開ける作業をする前に、ボトルを輸出できないのかと尋ねました。安いボックスワインに仕立て直して島内で売るよりも、ボトルで輸出した方がいいのではないか、と思ったのです。返ってきた答えは、もちろん出来るけれども、輸出にかかる手配や経費を考えると、やる意味が無いとのこと。

 場所が変われば、人も変わり、ワインに対する認識も変わります。去年までいたフランスでは、やはりワインに対する、特に自然派ワインに対する理解が、より進んでいたと思います。スクラヴォス・ワイナリーの当主エヴリヴィアディス(以下愛称、ヴラディス)は、日本において、彼のヌーヴォーのような、また、他に日本で飲まれている、時に濁っている、澱もガスもあるワインが受け入れられていることに驚いていました。

 また、前号の中の一文で、「周りに気が狂ったと言われながらも、自然な農法をしてきた畑で」と、書きました。あっさりと書いてしまいましたが、澱の出たワインを引き取りに行った時の話です。このワインは欠陥品だと言い張る相手に、ヴラディスは一生懸命「澱はブドウ由来の成分だ」と説明しました。しかし、相手はまったく聞く耳を持たず、まるで粗悪品を売りつけているかのような目で、僕らを見ていました。引き下がるしかないけれど、とっても悔しい。帰りの車の中で、よっぽど悪口でも言おうかと思ったけれども、ヴラディスと二人で「残念だね」とこぼすのみでした。

 ヴラディスも話していましたが、ワインだけでなく食品すべてに関して同じようなことが、起こっているので、そう簡単にはこれらの問題はなくなりません。ですが、このような努力を続ける生産者を、日本にワインを輸入することで、支えられたら、そしてワインに懸ける情熱を正しく伝えられたら、と思います。

《 ケファロニア島 ワイン事情(3) / 観光地である制約 》
 現在滞在中のケファロニア島は観光地で、スクラヴォス・ワイナリーで生産するワインも、島内での消費がほとんど。レストランやバーで出すワインは、きれいであることが大前提で、味に対する意識や関心はありません。ギリシャ国内にも自然派ワイン専門の販売店やワインバーは無いそうです。そうすると、前号の最後に記したように、わずかな澱のためにボトルを開けボックスワインへ移すはめになります。なにも、澱が入っているから、濁っているから、自然でおいしいと、言うつもりはありませんし、生産者も自然派を大前提としながら、嗜好品としてのワインの美しさとを両立させようとしています。だけれども、澱があったっていいじゃない、と言いたくなるのです。

 そういえば、以前アルザスのコルマールでワインを造っている友人を訪ねた時のこと。彼とは、互いにレオン・バラルで研修をしていた時に知り合いました。今まだ20代で、祖父の代から続くワイナリーで、ワインを造っています。

 家業としてホテル経営もしており、アルザス風の古い美しい街並みの中で、ひときわ大きな家の地下で醸造をしているのですが、彼もまた造りたいワインが造れないとくやしそうにしていました。周辺のワイナリーと異なるワインを造ると、アペラシオンの許可が下りず、観光客が買い手の大半を占める場合、あまり、まわりから外れたことは出来ないそうです。

自然派ワインを支えるものは?
 それでも、フランスは少し大きな町になれば、自然派ワインバーが簡単に見つかります。もちろん日本にもたくさんの自然派ワインが輸入され、そういうワインを好んで置いてくれるお店があるので、お客さんから苦情や質問があれば、生産者に代わって説明できる人がいることは、とってもありがたいことだと思います。何よりの助けです。レオン・バラルでは、ワイナリーでの直販をしていません。なぜならば、彼がワインを造り始めた90年代前半、まだワインを売るのが難しかったときに、近くの町にある自然派ワインバーが彼のワインを気に入り、積極的に買ってくれたことに、とても感謝している。だから、もし彼が直販をすると、誰もそのお店へ彼のワインを買いに行かなくなるから、だそうです。その自然派ワインバーが初期に助けてくれたおかげで、周辺のワイナリーが慣行農法や近代的な醸造をする中でも、自分の信じるやり方を続けてこられたと言っていました。

《ケファロニア島の冬》
 観光業が盛んなこの島は、夏はヨーロッパ中から観光客が訪れて、真夜中まで人が絶えません。島内の町と町を結ぶフェリーも、夏は30分ごとに出ています。が、一転冬になると、フェリーも1時間に1本、週末の夜に広場へ出ても人影がほとんど見当たりません。また、今年は11月の下旬から1か月間弱も雨が降り続け、日もほとんど見えませんでした。そのせいなのか、さらに街中で人影を見かけませんでした。クリスマス前の現在は少し賑やかですが、それでもやっぱり雨が多い。ギリシャではクリスマスよりも新年の方が大切で、プレゼントをあげるとしたら、1月1日が一般的だそうです。

 ワイナリーではセラーでの作業が少しだけで、本来ならばオリーブ狩りをするはずなのですが、降り続く雨のせいで思うように進みません。なお、上の写真は、一瞬見えた晴れ間の青空です。畑は、セラーの周りにある、スクラヴォスの赤ワイン《 オルジオン 》に仕込まれる、マヴロダフニの畑です。草が一面に生い茂っています。

合田 玲英(ごうだ れい)プロフィール:
1986年生まれ。東京都出身。

《2007年、2009年》
フランスの造り手(ドメーヌ・レオン・バラル)で
収穫
《2009年秋~2012年2月》
レオン・バラルのもとで生活
《2012年現在》
ギリシャ・ケファロニア島の造り手(ドメーヌ・スクラヴォス)のもとで生活中

▲ページのトップへ

トップ > ライブラリー > 塚原正章の連載コラム vol.61