合田 玲英のフィールド・ノート

2013.12    合田玲英

1.《 ワインの造り手 》

 ワイナリーが稼業の家の次男であるアレッサンドロは、ヴィニ・ディ・ルーチェ(Vini di Luce)というコンサルタント会社を立ち上げ、2010年前後からワイナリーのコンサルタント業を始めました。そして、ただ醸造コンサルタントをするというだけではなく、「畑の管理から販売先を選ぶことまで全てやってこそ初めて、完全なコンサルタントと言える。醸造のみのコンサルタントですますことは不可能だ」という信念に則り、南北イタリアを畑の中から、事務所や倉庫まで飛び回っています。エリチーナのコンサルタントもしていますが、距離もあるので、彼が思うようなコンサルタント業務が完全に出来ている訳ではないそうです。

 アレッサンドロがコンサルティングするワイナリーの畑では、〝太陽光と炭素による農法″が行われます。この農法は「森は人間の介入なしに、光と炭素の恩恵のみで成長している」という、多くの研究者が調和のとれた自然環境を観察することで得られた結果と知識に基づいています(ヴィニ・ディ・ルーチェHP引用)。そしてその考えは、畑の中から、醸造、倉庫での保管、販売にまで適用され、実践されます。倉庫管理であれば、自然界で一年中一定の気温であることはあり得ない、とし、季節で管理温度を変え、販売先も他の自然派生産者同様、理解ある売り先を探し、紹介しています。そして、アレッサンドロがコンサルタントを務めたワイナリーのワインのラベルには、その証として「土地の情報とエネルギー」を表すマークが印刷されます。

 窒素と炭素の違いについても、説明してくれました。窒素は原子の大きさが炭素よりも大きく、窒素化合物などの、分子の大きさが大きいほど、その分子同士の隙間に、水が入り込み、水と一緒にカビや病原菌が入り込むのだそうです。一方炭素は、原子の大きさが窒素よりも小さく、大きな分子の隙間を埋める形で吸収され、結果、病気に強いブドウを成らせることが出来るそうです。



 生産者によりますが、ブドウ畑のそばにはよく、生ごみや、選定した枝を破砕したもの、ブドウを絞った後の残り、などなどを一か所にまとめておいて、発酵させているコンポスト(腐葉土)があります。Vini di Luceでは、コンサルティング先であるワイナリーの畑の近くで、そのコンポストを作っています。周囲の景観管理のために切り落とされた木などの植物由来のものを破砕し、山を作り水をかけて発酵を促し、だんだんと小さく粉砕していく作業を繰り返します。そして一年半後には上質な、植物由来のみのコンポストが出来上がります。



 このコンポストの他に、コンサルタントを始めたばかりの畑の転換期に、ある微生物を培養させたコンポストを畑に撒きます。この微生物はイタリアのヴァレ・ ド・アオストの研究機関が発見したもので、有機系の農薬の分解を促進し、化学物質の影響の減少を速めてくれるというものです。他にも、ビオロジックの農法でない、他の生産者の畑と隣接している畑にもこの微生物を撒いて、化学物質の影響を減らすことができます。

この木の根元の白いタンクで、培養されています。


 病気対策には銅の他に、6から9種類ほどの草花を、熱すぎない温度(2種類あるのですが、1つは40度、もう1つは密閉したタンクを直射日光による熱のみ で温める)で煮出して、それを散布します。今年、2013年は雨の多い年でしたが、例年より少し多い程度の銅の散布量で済んでいます。





2.《 ヴァレンティーナ・クービ 》

2010年からアレッサンドロがコンサルタントを始めた、ヴァルポリチェッラのワイナリー。





7月頃の写真。



こちらの2枚の写真は同じ畑の、左が7月、右が収穫前。この畑は、樹齢3年で、2013年にアレッサンドロが初めてヴァレンティーナ・クービに来た時に、彼のやり方で植えた畑です。樹齢3年とは思えないような、実の成り方。

パッシメント中のブドウの品質チェック。

 コンサルタントといっても指示を出しっぱなしではなく、任せられるところは任せ、細かい重要な作業は全てアレッサンドロ自身でやっています。

3.《 プロセッコ 》

 トレヴィーゾ県で、プロセッコを生産するヴァルドッビアーディネとコネリアーノ付近の生産者の様子をご紹介します。両都市は緩やかな丘の上に位置し、間には小さな平野があり、川が流れています。

 写真はヴァルドッビアーディネのものですが、一面畑という訳ではなく、有名生産地にもかかわらず、畑の間に林がたくさん残っていて、初めて来たときは緑の多さと濃さにびっくりしました。平野ではないということもあり機械化がされにくかった、という理由があるようです。特にヴァルドッビアーディネは勾配が急で、畑の上には常に広い森があり、畑の環境はとてもいいと感じました。

 両都市の丁度間で少し北にある、《 トレヴィジオール 》の畑です。セラーはヴァルドッビアーディネの町中にあります。訪問した日は当主のパオロはいなかったのですが、息子さんが案内をしてくれました。この一つの畑で10ヘクタールほどありますが、林で囲まれていて、完全に隔離されていました。畑の管理は、病気対策のため必要に応じて、一般の農薬を使います。


写真右はパオロの叔父さん。プロセッコが発明された時から、この畑のすぐ横の家に住んでいるそうです。










現在のトレヴィジオールのラベルも、その昔、トレヴィジオールが泡のプロセッコを売っていた時のものですが、 こちらは本当の本当に、最初のデザインのラベルだそうです。瓶に印刷されています。



こちらもヴァルドッビアーディネの《 アゴスティネット 》のダニエル。訪問したのは10月の中頃ですが、もう、少しずつ選定を始めているそうです。腰にある、木の枝の束は、サリーチェと呼ばれる木のもので、緑色で柔らかいうちは柔軟性があり、乾くと固くなる、便利な植物です。南はナポリの方まで畑の中で使われているのを見ました。







写真右半分、家が建っているところまでが、アゴスティネット所有の畑です。 樹齢はどれも100歳近いものばかりだそうです。

畑も勿論古く、グイヨ用の針金には第一次大戦中に使われた、有刺鉄線の針を取ったものが使われている個所も。


 コネリアーノの北のはずれに位置する《 ボルゴ・アンティコ 》。1973年に父親が始めたワイナリーをレオナルドは継ぎました。コネリアーノにはイタリアで一番古いワイン醸造の学校があり、レオナルドそこでエノロジーを学んだのち、1995年からワイン造りに本格的に参加しましたが、幼いころから父親と畑に入るのが大好きだったそうです。

 果汁、もしくは発酵が終わりワインとなった液体がチューブを通るときは、常に二酸化炭素をタンクやチューブに注入しながら作業をしていて、酸化ということに最大限の注意を払っていました。収穫をするときも、大きなトラクターでまとめてブドウを取りに行くのではなく、小さめのバギー2台で7分半おきに畑とセラーを行き来しての収穫だそうです。



畑はほぼ全て、ワイナリーの周りにあります。単純なことだけれど、どの生産者のところに行っても、セラーと畑と、家が近い事の大切さを説かれます。

4.《 カー・デイ・ザーゴ 》

 最後に初めてご紹介するプロセッコの生産者です。ヴァルドッビアーディネの丘にあり、アゴスティネットともすぐ近くのワイナリーです。1929年からワイン醸造をしていて、当初から完全に無農薬でブドウ栽培をしているので、その畑には化学肥料が撒かれたことが一度もありません。

 写真左、クリスティアンは醸造学校を卒業後、すぐに家業を継ぎました。まだ27歳という若さですが、自分の育った土地のことを良く知っていて、グレラという品種をとってもよく分かっています。そして、ヴァルドッビアーディネがこんな素晴らしい環境を持っていながら、皆が化学薬品で畑の管理をするのをとても憂いていました。

 グレラはとても樹勢が強く、すぐに枝が伸び放題になってしまい、手入れが難しいそうです。でもあえて枝の先を切らないで放っておいてあるそうです。他の畑の 枝の先を切り落とした枝をよく見ると、切られたところから、それ以上の勢いで枝が伸びているのを、見せてくれました。その代り、枝は整理してブドウが陰にならないように配慮し、房の周りの葉を北側だけ落とします。普通、果実を熟れさそうと葉を落とす時は両面を落としますが、「プロセッコには偉大なワインのような熟成感はいらない。最低限の熟成感でいいから、爽やかさが必要だ」とクリスティアン。



去年のコンポストだそうです。
掘り返すとミミズがうじゃうじゃ出てきます。








  雹避けのお守り。











 発酵はセメントタンクで行い、二次発酵はメトード・シャルマ方式ではなく、瓶内二次発酵です。二次発酵用の糖分は、収穫したブドウをパッシメントして、その果汁を瓶詰時に入れます。2013年はパッシメントの小屋が改装中だそうで、乾燥ブドウが得られなかったのですが、2012年に瓶内二次発酵用に絞った果汁を発酵させ、ドルチェとして保存していたものを、二次発酵用の糖分として使うそうです。



合田 玲英(ごうだ れい)プロフィール:
1986年生まれ。東京都出身。

《2007年、2009年》
フランスの造り手(ドメーヌ・レオン・バラル)で
収穫
《2009年秋~2012年2月》
レオン・バラルのもとで生活
《2012年現在》
ギリシャ・ケファロニア島の造り手(ドメーヌ・スクラヴォス)のもとで生活中
《2013年現在》イタリア在住

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