合田 玲英のフィールド・ノート

2013.10    合田玲英

~南フランスより~

 9月に入り、各地で収穫が始まりました。今年は、寒い春が長く続いた影響で、どこでも例年より、ほぼ2週間程、収穫が遅れています。南仏の様子を紹介いたします。 南仏でもスペイン国境に接するコート・カタランでは、例年よりも遅いながらも、訪れた9月の最初の週にはどこも、収穫は半分以上終わっていました。2013年はグルナッシュの収量がとても少なく、ドメーヌ・ゴビーでは、去年の半分以下だそうです。寒かったけれども、雨はむしろ少なかったそうで、収量の減少は、病気のせいではなく、受粉期の寒さのために受粉がうまくいかず、実がならなかったのが原因だと言っていました(日本語で「花振るい」というそうです)。グルナッシュ以外の品種は収量も例年通り、品質もとても良いと、どこのワイナリーでも聞きました。


《 アンフォン・ソヴァージュ 》
 9月5日の昼ごろ、ドメーヌのある、フィトゥーに着きました。 午前中の収穫が終わったところで、トラクターから、ブドウを積んだ箱をセラーに入れているところでした。収穫はほぼ終わって いたようで、熟すのが遅いカリニャン種の収穫を一週間後に 3日間ほど行えば、今年の収穫はすべて終わりです。セラーの中に入ると、発酵する果汁の匂いに全身が包まれてしまいました。




 ブドウは一晩セラーの温度まで冷やされてから、仕込まれます。写真のブドウはムルヴェードル種。手摘みで収穫された果房は とても綺麗です。ニコラウスは、今年は特にムルヴェードル種の 出来が良いと喜んでおり、今度新しく来る400Lの大樽で熟成 させたいと言っていました。

 もともと建築家であったドイツ人のカロリーヌとニコラウスは、最初は避暑地として来ていた南仏にほれ込み、熟考の末、1999年に畑と庭付きの古い二階建ての家を買いました。その古い家の中はがらんどうで、長い間、人が住んでいなかったので手入れも全くされていませんでした。二人で少しずつ修繕し、一階をセラーに、二階を住居にし、2003年から醸造を始めました。畑を買った当初から有機農法による栽培に関心があり、現在はビオディナミ農法を実践しています。自然と人との調和を大事にする二人にとって、気持ちよく仕事をすることはとても重要で、当初は瓶詰めのために、大きな瓶詰め用トラックを呼んでいたけれども、時間とノルマを気にしてブドウに関わることをよしとせず、現在は小さな瓶詰め機で行っています。そんな彼らが、 今年はとても楽しい収穫が出来ていると言っていました。収穫期に出稼ぎに来る人は、専属で来ることもありますが、小さなワイナリーがある地域はその一帯の幾つかのワイナリーを回って、余り休みが出ないように収穫をしています。フィトゥーで唯一の自然派ワインを作っているアンファン・ソヴァージュにとって、収穫にどんな人が来るかはとても重要です。ワイナリーごとに、ブドウを摘みはじめる前に、どのようなブドウを摘む(摘まない)べきかを指示します。けれども聞く側に関心が無かったり、他のワイナリーで良しとされるやり方に慣れていたりすると、なかなか体が動かないものです。その点、今年収穫に来てくれたみんなは、質問をたくさんしてくれ、摘んだ先のセラーの仕事まで様子を覗きに来てくれるため、とても気分がいい、とニコラウスは嬉しそうでした。

 昼食の様子。去年、今年と二年続きで、イタリアから収穫に来ている。ミラノや、ヴェローナからも来ていて、意外でした。彼らも、他のワイナリーで働けば時間ばかりせかされ、機械のように働かせられるから、ここでの収穫は好きだと、今年もまた来てくれたそうです。

一日の作業の終わり。写真真ん中が、ニコラウス。右端がカロリーヌ。写真他は、庭の様子。


グルナッシュの果汁。まだ収穫から1週間経っていない微発砲、微アルコールのブドウジュース。

《 ドメーヌ・ゴビー 》
 40ha以上の畑を有する、ドメーヌ・ゴビー。その分、大人数でとりかかりますが、収穫には1か月近くかかります。訪問した9月6日には、こちらも収穫は4分の3以上終わっていて、カリニャン種を残すのみでした。畑の半分近くがグルナッシュ種であるゴビーにとって、収量は満足のいくものではありませんでしたが、品質に問題は全くなく、 美しい酸のあるブドウが取れ、ジェラールとリオネル親子が目指す、フィネスのあるワインに最高だと言っていました。畑は40ha以上ありますが、その倍以上の土地を環境保全のために買取り、森を残し、さらに新しく植林をしています。より高い標高の土地や畑を買い取り、他の畑から雨により、化学物質が流れ込むのを防いでいます。また風の強い南仏では、強風による乾燥からブドウの株を守るのがとても大切で、毎年500本の果物、アーモンド、オリーブの木を防風林として植えています。ドメーヌのあるカルス村でも、有機栽培をしている生産者は多くありませんが、 父親であるジェラールが20年前にブドウ栽培を始めてから、村の農薬に汚染された水源が人が飲むことが出来る基準値まで、汚染度が減ったと言っていました。

ムルヴェードル種の収穫の様子。写真に写っている以上の、たくさんの人で収穫をしている。

ブドウはセラーに運ばれ、機械での選別をした後で除梗せずに、すぐにタンクに入れられる。

グルナッシュ種のピジャージュの様子、収穫からまだ間もないので、まだブドウの上に立てる。






セラーの様子。225Lの樽はなく、大きな樽か、セメントでの発酵をしている。
三角錐のタンクは実験的に作ってみた、黄金比の300Lのセメントタンク。

《 ドメーヌ・ペシゴ 》
 ドメーヌ・ペシゴのシルヴァンは、1997年から醸造をしていたカルカッソンヌ近くの町、ロラギュエルから100㎞近く離れた、トゥールーズの南の町まで 引っ越している最中です。所有していた13haの畑は知り合いの生産者に全て売ってしまい、新しい土地で醸造をすべく準備中で、来年新しくブドウを植えるそうです。今のところ引っ越しが終わるまでは、プリムールのみ醸造しています。父親もワインを作っていて、シルヴァンも学校で近代醸造を学び、2000年までは旧来型ワインを作っていたけれど、質の良いブドウを求め、そのブドウを最大限表現できるワインを求めていく内に、畑での農薬の散布を辞めてビオディナミ農法に切り替え、亜硫酸の使用も辞めていきました。

 
 シルヴァンは、最初は寡黙な人なのかと思っていましたが、テイスティングが始まると話は止まらず、ワインへの情熱が感じられました。意見を交わす中 で、仮説が思い浮かぶと、じゃあ調べてみよう、と次から次に、ボトルを開けてくれました。

 古い樽からのワインも幾つか味見をさせてくれました。その中では、2004年なのは確かなのだが、品種が何なのか分からない、と言っていた樽からのワインが驚くほど素晴らしかった。その樽は、最初の何年間は補酒をしていたそうですが、思うような熟成の仕方をせず、その後も引っ越し等々で忙しくなったため、ほったらかしていたそうです。

 それでも何か月かに一回は試飲をしていたのですが、どうにもよくならず、これは捨ててしまうしかないかと思っていたところ、今年の春に飲んでみると劇的に変わっていて、シルヴァンもびっくりしたそう。いい味も悪い味も全部あるけどそれが、絶妙なバランスにあって、揮発酸も強くて酸化もしているけれど、ミネラルが豊かで、2004年とは思えないほど、活き活きとした味わいでした。何より、何杯でも飲みたいと思える魅力がありました。彼のワインは飲みにくいワインでも、どこか綺麗で、新鮮だと思えるところがあります。僕は彼のプリムールを飲んだことがないけれど、どんな風に仕上げるのかとても楽しみです。

 亜硫酸に関しても、彼はどんなワインでも根気よく待てば、美味しいと思える瞬間が来る。亜硫酸を少しでも加えてしまうと、早く飲めるように仕上げられても失う部分が大きい。例えるなら、植物の根の大きな下に伸びる主根だけあって、そこから横へと伸びてくる小さな根をバッサリ切り捨ててしまうようなもので、ただただ残念だ。と言っていました。




プリムールを醸造するためのブドウは、現在は友人のティエリーの畑となっていて、有機栽培の畑のものを使います。



 テイスティングが長引いてしまったので、畑についたときには日が暮れはじめていました。今年は例年よりも2週間以上収穫が遅れていて、まだプリムール用の収穫が始まっておらず、どの品種でプリムールを作るかまだ決まっていない、とのことでした。受粉期の寒さのせいで、寒さに弱いグルナッシュは収量が半分近くになってしまったけれども、ブドウの出来は満足のいくものだと言っていました。畑はもう収穫前なので、ほとんど手入れはしないので、草が生え放題になっています。


 ブドウの状態をチェックする、シルヴァンとティエリー。




ティエリーの飼っている羊



合田 玲英(ごうだ れい)プロフィール:
1986年生まれ。東京都出身。

《2007年、2009年》
フランスの造り手(ドメーヌ・レオン・バラル)で
収穫
《2009年秋~2012年2月》
レオン・バラルのもとで生活
《2012年現在》
ギリシャ・ケファロニア島の造り手(ドメーヌ・スクラヴォス)のもとで生活中
《2013年現在》イタリア在住

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