2013.11 合田泰子
《合田泰子のワイン便り》
エルヴェ・ジェスタン来日
10月23日にエルヴェ・ジェスタンさんが来日されました。私たちにとって、待ちに待った、ジェスタンのシャンパーニュが11月末に入荷いたします。9月末にようやくリリースされましたシャンパーニュのお披露目のセミナーは、世界に先駆けての公式のデビューです。4泊5日の短い滞在でしたが、京都での小さな集まりを含めて、3回の催しをいたしました。すべての会が違う話題でしたが、参加者の方々とともにスタッフ一同も、ワイン・ビジネスに生きるものとして多くのことを学んだ4日間でした。ご出席いただきました方々には、心よりお礼申し上げます。
エルヴェから滞在中に聞いた話のなかで、特に私にとって興味深かったことは、セラーを設ける場所についてでした。
「断層の上、地下水脈がある場所は、セラーには適していない。日本には断層がそこらじゅうにありますが、このような場所では、地磁気の影響を受けるため発酵が理想的に進むことができません」。この発言は、エルヴェが大阪で講演した後、セミナーに出席された松瀬酒造の石田敬三さんからの個人的な質問に答えたときのことでした。石田さんは、大学時代からたくさんのヴァン・ナチュールを楽しみ、エルヴェについて書かれた記事(シャンパーニュの未来図/ワイナート2009年2月号)に大きな影響を受け、日本酒造りにその理念を生かすべく、奮闘中の方です。日本酒の醸造所内では古釘をぬき、古樽を用い、酵母や乳酸を加えずに、生酛を造っておられます。
その話を聞いていて即座に思ったのが、ジョージアのクヴェヴリ・ワイン。ジョージアを初めて訪れた時、地中に埋めたクヴェヴリ(甕)で育てられるジョージアのワインに接して私は、宇宙の原理と一体になったような、あたかも人智を超えたような崇高な味わいを感じました。遠い古代に、特別な感覚で選んで定められた場所で、カメを地中に埋めてワインを作った伝統が、いまなお息づいていることが大事だと思ったのです。ジョージアのニコロス・アンターゼ(通称ニキ)は、東京・大阪のジョージア・ワイン試飲会で、すべての人を驚きで魅了したワインの生産者ですが、彼から聞いた次の話もまた、そのことを確信させてくれました。 ニキは2012年まで知人のセラーを間借りして醸造していましたが、ソビエト時代に途絶えたアンターゼ家のワイン造りを復興すべく、セラーを新たに建てました。その際、どこに甕を埋めるかを決めるのに、祖父から聞いた言い伝えに従って、「牛を二日間放置し、牛が休む時に身体を横たえる場所」を甕を埋める場所に決めたとのことでした。
以上は、エルヴェに聞いたことのごく一部にかかわる話ですが、エルヴェが発見して確立した醸造法が、いつか多くの造り手の間に正しく広まってほしいと願わずにおれません。
フランス出張
10月14日から1週間の日程でフランスに出張しました。お聞き及びのように、今年のヨーロッパはオーストリア、ドイツの一部を除くと天候に恵まれませんでした。ドメーヌ・アリス・エ・オリヴィエ・ド・ムールでは、十分な量のヴァンダンジュ・マスケ用の有機栽培のブドウをシャブリで購入できなかったため、アルデッシュでヴィオニエを購入しました。有機栽培でないブドウで醸造するよりは、他の地域の友人が造ったブドウを醸造することを選んだのです。
フランソワ・グリニャンは、昨年、ヴィルボワの村の中にある新しいセラーに引っ越しました。以前から使用している小さなセラーは、今後はビン詰めしたワインのストック場所とし、醸造は新しいセラーでおこないます。ヴィルボワは、リヨンの東60km、標高250mにある小さな村です。村の中には、昔からの建物以外は見当たらず、小路の奥にある、新しいセラーも、250年前の建物。
フィリップ・ジャンボンから譲り受けた大きなフードルの発酵槽、昔からこのセラーにある垂直式のプレスがあり、セラーは広くなって作業もしやすくなりました。グリニャンのワインが今後ますます純粋でかつ落ちついた深い味わいになってゆくと思うと、本当にうれしくなりました。今なお醸造中の2011年と2012年をテイスティングしましたが、サヴォワ・ワインの軽やかさだけでなく長い醸造時間を経てこそ得られる、奥深い味わいがありました。
古い建物での醸造といえば、イヴォン・メトラ2012年も、コンクリートの旧セラーでビン詰めしたものと、引っ越した築300年を超えるセラーとは、イヴォンのような名人でさえ、まったく異なった次元のワインになったと私は思っています。今後は、イヴォンが探しに探した古い農家で、素晴らしいワインが生まれてゆくでしょう。セラーが呼吸することの重要さを改めて、考えた出張でした。
クロード・ブルギニョン講演会
10月30日は、土壌微生物学の世界的権威である クロード・ブルギニョン氏の講演会が、弊社主催で開かれます。土壌内の生物学的多様性を復元することを目的とした研究室を立ち上げ、ロマネ・コンティ、ジャーク・セロス、オーゾンヌといったフランスの重要なドメーヌのコンサルタントをされています。弊社より「ワイン造りにおける土壌と栽培家の役割」について、お話しいただきたい依頼いたしましたが、どのようなお話しがうかがえますか、楽しみです。
ラファエル・バルトゥッチの写真
プレス直後の果汁を計るラファエル・バルトゥッチ、山の頂にある畑から、チャーミングな味わいの極致ともいうべき、ラファエルならではのビュジェ・セルドンが生まれます。
合田 泰子