『ラシーヌ便り』no. 94

2013.8  合田泰子

《合田泰子のワイン便り》

続 / 再び、グルジア、でなく、ジョージアへ

ジョージア訪問記(6月) 続き

 繰り返しになりますが、2012年11月のとある機会に、チュハベリ・ロゼ/イベリエリ・マラニ2011を味わい、その 可能性と個性にうたれ、すぐにジョージア行きを決めました。緊急に設けた旅程の中で、ジョージア滞在はわずか 36時間。短い滞在時間で何ができるか、と黒海周辺の地図をながめながら考えました。ワインバー「グヴィーノ・アンダーグラウンド」には、伝統的な醸造で造られた十数人の造り手のワインをテイスティングできるということは事前に分かっていました。が、すべてを飲むわけにはいかず、あらかじめ目安をつけておく必要があるので、このたびは訪問をしない塚原と、情報をいろいろと検索してみました。独特の人間鑑定術を有する塚原が「きっと、この人物だな」と、最も気になった人がラマズ・ニコラゼでした。


*ラマズ・ニコラゼ《ジョージア・クヴェヴリ・ワインのキーマン》

ラマズ・ニコラゼ(39歳)は、マネジャーとしてワインバー「グヴィーノ・アンダーグラウンド」を運営しています。彼はソリコ・ツァイシュヴィ(Soliko Tsaishvi/アワ・ワイン・ワイナリー)と共に、2010年にクヴェヴリ(甕)・ワイン協会を設立しました。


 右腕ともいうべき、数学教師の妻/ネスタン・クラヴィシュヴィリ、二人の子供たちとともに首都トビリシに住みながら、週に何往復もマラニ(ワイナリーのこと)がある故郷ナフシルゲレ村(トビリシから西に200数十km)を行き来する生活をしています。ワイン&フードと旅を愛する、責任感が強い、一見ゲバラ風の顔つきなのですが、とても笑顔のチャーミングな素敵な人です。真に伝統的なクヴェヴリ醸造を未来に遺すために、献身的に活動する様子からは、心底楽しくてしかたないという印象を受けます。

 6月初旬の訪問では、故郷イメリティ地方のメンバー5名のマラニを案内していただきました。いずれのマラニも、畑、といってもせいぜい0.3から0.5アールほどの畑が家を囲み、畑の傍ら、または離れの建物の中に、5つほどのクヴェヴリが埋められていました。ジョージアでは、「ワインを造る」と言わず、「ワインを育てる」と表現します。クヴェヴリはまさに母胎であり、「ワイン造り揺籃の地」ジョージアでは、過去からずっと途切れることなく、様々な侵略やイスラムの支配の時代にも自宅内または畑のそばにある甕で当たり前のように、地中に埋めたクヴェヴリでワインが育てられてきたのです。
 野外にあるラマズのクヴェヴリから、試飲をさせていただきました。「さぁー、あけるぞ」という様子で、ズボンの裾をたくしあげ、素足になって、作業開始です。覆った土を掘り返し、クヴェヴリの上を密閉している粘土を静かに取り除きます。粘土の下から、木の蓋の中央部をふさいでいるブドウの葉を取り除き、その穴から手をいれて二つに分かれる木の蓋をあけると、クヴェヴリの縁が現われ、泉に水が湛えられているように、ワインが顔をだします。

試飲が終わったら、またすべて逆の順序でもって、クヴェヴリを密閉します。蓋の上にブドウの葉と、その上に粘土をのせて踏み固めるのですが、その時のラマズの様子が、まるで森の中でダンスを踊る小人のように見えました。「あー、このように育てるから、特別な味が感じられるのだ」と心から感動した瞬間でした。

*ラマズ・ニコラゼ家のマラニ

 「ニコラゼ家のマラニ」は西ジョージアのイメレティ地方にあるナフシルゲレ村にあります。標高150メートルで、亜熱帯湿潤気候。5月末に訪問したときも、気温は30度を超えていました。ブドウ畑と屋外にあるイメレティ地方の典型的なマラニは、20世紀初頭にラマズの曽祖父のミナ・ニコラゼ氏が造りました。当時のマラニ、ブドウ畑とその他の所有地の総面積は10haもありました。ソビエト(ロシア)がジョージアを併合した時に、ミナ・ニコラゼが所有した土地のほとんどが没収され、0.8haだけが残されました。現在の畑は、その残された0.8haだけで、土壌は粘土質で重く、「ツィツカ」と「ツォリコウリ」という2種の品種が栽培されています。生産量は年にわずか1500~2000本。

 ツィツカは、ジョージア西部最古の品種の一つ。フリーランのみでクヴェヴリで醸造される白ワインですが、酸味があざやかで、活き活きとした味わい。軽いワインと思われているようですが、名人の造る熟成したツィツカは、素晴らしいらしい。

 ツォリコウリは、栽培面積が多く、ボディがありイメレティ地方を代表する品種。晩熟で、美しい黄金色に輝く白ワイン。果皮と果梗と共に醸造され、2ヶ月から6ヶ月後に果皮と果梗を取り除いてから別のクヴェヴリに移し、翌年の春に瓶詰されます。偉大な熟成力が備わる西部ジョージアの重要品種です。

 実は、スローフード運動を日本に紹介した島村奈津さんが、2002年にSOTOKOTO誌にジョージアの訪問記事を書かれました。幸いその時の訪問記録を、日経BPで読むことができます。この中に登場するラマジという青年が、11年前の《われらがラマズ・ニコラゼ》なのです。SOTOKOTOには、2002年当時、イタリアワイン特集などで、お世話になりましたが、その頃に、ラマズのワインが紹介されていたのですね。近ごろ、ジョージアのクヴェヴリ・ワインが国際的に注目されるようになりましたが、十年以上も前に日本に紹介の労をとった、島村さんという先駆者がいらっしゃったことに、あらためて敬意を表したいと思います。

http://trendy.nikkeibp.co.jp/lc/eco_shimamura/080327_georgia/
http://trendy.nikkeibp.co.jp/lc/eco_shimamura/080415_wine/

*クヴェヴリ・ワイン協会

クヴェヴリ・ワイン協会Qvevri Wine Association は、ラマズと“Our Wine”のソリコ・ツァイシュヴィリSoliko Tsaishviliによって、2010年に設立されました。公式には2010年ですが、実際には二人組は2008年から活動を始めていました。ラマズが代表を務めています。

ロシアからの独立後、ジョージアでは海外資本によって大規模なワイナリーが相次いで創立されました。が、新造の「甕ワイン」は、宣伝文句である「数千年のワインの歴史をたたえる甕仕込みワイン」とは、まるっきりかけ離れた味わいです。そのことに、昔から密かに伝統を守り続けてきた、抵抗精神旺盛な少数の生産者たちは、大きな危機を感じました。かくして、強い意志のもとに《 Qvevri Wine Association クヴェヴリ・ワイン協会》が組織されたのです。ラシーヌが独自に選んでご紹介する10人(うち5人のワインが入荷済み)の造り手は、この会の重要なメンバーです。グルジアの甕仕込みワインは、スローフードのプレジディオ(保護しなければならないもの)に認定されています。

http://www.slowfoodfoundation.com/pagine/eng/presidi/dettaglio_presidi.lasso?-id=1412

[Imereti イメレティ地方]  Ramaz Nikoladze- Nikoladzeebis Marani、Gaioz Sopromadze、Gogita Makaridze Amiran Vepkhvadze、Archil Guniava、Didimi Maglakelidze
[Kartl カルトゥリ地方]  Iago Bitarishvili
[Kakheti カヘティ地方]  Soliko Tsaishvili、Nika Bakhia、Nikoloz Antadze、Kakha Berishvili、Alex Tsikhelishvili

マニフェスト  クヴェヴリ・ワイン協会 副代表 Soliko Tsaishvi 

 私たち、「クヴェヴリ・ワイン協会(※1)」のメンバーは、この協会に自発的に参加し、その行動規則を採用している。それは、以下のような理由のためである。
 私たちは、クヴェヴリによるワイン醸造という伝統を尊重し、大切にし、次世代へと守り継ぐ。クヴェヴリによるワイン醸造は、数千年も続いており、人類の農業活動における重要な偉業のひとつとして認められているのである。

 クヴェヴリによるワイン醸造のうちには、創造性が深く根付いていると考える。そのため、ブドウ栽培・ワイン醸造分野の危機を乗り越えられるだろうと信じている。

 クヴェヴリによるワイン醸造とその醸造環境とは、互いにごく密接した概念であり、それだけでなく、 どちらか一方が欠けていれば互いに存在できないような、相互の関連のうちにあると考えている。したがって次のことに同意する。ブドウ畑とその環境に対して与える脅威を最小限に抑えること。ブドウ畑の生物多様性を追求すること。強烈で体系的な薬品処置や、除草剤、化学肥料の使用は避けること。大型機械を使った栽培は可能な限り減らし、収穫期にブドウ摘み取り機を使用しないこと。

 クヴェヴリで発酵、熟成させたワインは、ブドウ品種やテロワールの特性を表すものでなければならないというのが私たちの信条。そのため、ワインの発酵/マセレーション過程における介入を最小限にすることには賛成である。これは、ワインの性質に変化をもたらすような薬品や醸造方法は使わないことを意味する。たとえば、選抜酵母・酸・酵素・タンニン・エキス、清澄剤、逆浸透圧法、加糖、加熱方式、亜硫酸をワインの発酵およびマセレーションの過程で使用しない。(亜硫酸は、熟成中のみ、あるいはビン詰め前に、少量だけ投与することがある。)そして、ワイン醸造のすべての過程において精密ろ過用フィルター器を使用しない。(ビン詰め前の経度なフィルター処理は認める。)

 私たちの目標は、まず次世代に健全で、生き生きとし、肥沃なブドウ畑を残すこと。さらに同世代に、ワインの味わいや風味を楽しむ機会を与えること。それから自然だけが与えることのできる生き生きとしたエネルギーを得ることである。

*Natural Wine bar & shop "ღVINO Underground"
グヴィーノ・アンダーグランド  首都トビリシ
15 G. Tabidze Str. 0105 Tbilisi, Georgia


2012年5月17日に、7名の仲間とクヴェヴリ・ワインを広めるために設立されたワインバーであり、ワインショップ(ラマズがマネジャーとして運営しています。)

 メンバー//Nikoladzeebis Marani、Chveni Gvino- Our Wine、Nikoloz Antadze Winery、 Jackelli Organic Wines and vineyard、Winery Nika- Nika Bakhia 、Kakha Berishvili's Winery、Phesant’s Tears

*合田泰子 とジョージアワインの出会い [ 日録風に ] 

2010年6月 ボルドーにて。ルネッサンス・デ・アペラシオンで、「アワ・ワイン」を試飲。
(2011年、2012年、2013年「ヴィニ・ヴェリ」にて「アワ・ワイン」を試飲。)

2012年11月13日   ニース在住の写真家 Keiko & Maikaさんに、ズラブとイアゴのワインを試飲させていただく。

2012年11月22日   Keiko & Maikaさんにご案内いただいて、ジョージア初訪問。
イアゴ・ワインズ(イアゴ・ビタリシュヴィリ)訪問。
グヴィーノ・アンダーグランドにて、ラマズとズラブ・トプリゼに会い、彼らのワインをテイスティングする。運よくトビリシに来ていたガイオス・ソプロマゼに会い、ワインをテイスティングする。

2012年11月23日   グリアのイベリエリ・マラニ(ズラブ・トプリゼ)を訪問。

2013年1月28日   パリのシャトーブリアンにて、クヴェヴリ・ワイン協会の試飲会。
ニコロス・アンターゼ(通称ニキ)他、5名に会う。ニキのワインの仕入れを決める。

2013年6月2日         二回目のジョージア訪問。ズラブを再訪。

2013年6月3日         ラマズの案内で、ディディミ、ガイオス、ラマズのマラニを訪問。

2013年6月4日         Amiran Vepkhvadze, Archil Guniava, 他3つのマラニを訪問。

2013年6月5日       イアゴを再訪 アンダーグラウンドにてZaza Darsavelidzeに会う。
Alex Tsikhelishvili のワインをテイスティング。

《この秋の入荷予定》

以下の生産者の各2012年ヴィンテッジです。
Ramaz Nikoladze、Didimi Maglakelidze、Gaiozx Sopromadze、Amiran Vepkhvadze、Archil Guniava、Zurab Topuridze、Iago Bitarishvili、Nikoloz Antadze、Zaza Darsavelidze

なお、2013年ヴィンテッジより、新たにイメリティ地方の素晴らしい造り手のワインが入荷します。

*ラマズによるクヴェヴリ醸造の世界無形遺産登録運動について

 ラマズが起草した、志の高い運動の宣言文を紹介して、今月のジョージア ワインについての報告を終わらせていただきます。


UNESCO Intangible Heritage Committee,
Ministry of Culture and Monument Protection of Georgia,
National Agency for Cultural Heritage Preservation of Georgia.

 We, the founders and members of the “Qvevri Wine Association”, are one of the initiators of proclaiming the nomination of “Ancient Georgian Traditional Method of Qvevri Wine Making” as an element of the UNESCO world Intangible Heritage.
 「私たち、クヴェヴリ・ワイン協会の創設者とメンバーは、「古代から伝わるジョージアの伝統的なクヴェヴリ醸造」をユネスコの世界無形遺産として推薦することを宣言する主唱者の一人です。

 The aim of our Association is the maintenance and popularization of Qvevri and Qvevri wine making culture; we believe that the satisfaction of our initiative will encourage us to better carrying out our mission and give the possibility to make our activity more efficient.
 私たちの協会の目的は、クヴェヴリとクヴェヴリ醸造の文化を維持し、広めることです。私たちは協会の自発的で積極的な活動がもたらす充実した喜びによって、さらにその使命をよりよく遂行させ、活動をより効率的にできると信じています。

 On behalf of the “Qvevri Wine Association “, the 11 minor marani members of the Association from Kartli, Kakheti and Imereti regions, that represent the best defenders and bearers of the abovementioned culture, address UNESCO to proclaim “Ancient Georgian Traditional Method of Qvevri Qine Making “ as an element of the World Intangible Hertage.
 クヴェヴリ・ワイン協会を代表して、この文化の最もふさわしい擁護者かつ担い手である、カルトリ、カヘティとイベリティ地方の11人の小さなマラニ(醸造所)は、「古代から伝わるグルジアの伝統的なクヴェヴリ醸造」をユネスコに対し、世界無形遺産として宣言するよう、ここに進言します。」

Ramaz Nikoladze
NPLE “Qvevri Wine Association”
App.12, building 35, block 3, Digomi Masiv
Tel: 551 944 841, 593 944 841
e-mail.: georgianslowfood@yahoo.com
https://www.facebook.com/qvevri.wine

 

合田 泰子

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