『ラシーヌ便り』no. 90

2013.4  合田泰子

《合田泰子のワイン便り》

  2013年4月7日、ラシーヌは創立10周年を迎えます。次の10年に向けてさらに前進していくために、社内で様々な行事を企画し、部分的に実行中です。けれども全体企画がまだ開花しないまま、4月のヴィニタリーの出張が迫ってきました。 前進とは、会社の規模や売上が大きくなることではなく、【ワインについて新たな見方と考え方】ができるようになることです。このような新たな視点をもって、ワインに出会って味わい、新しい世界を共有していくことだと考えています。【造り手】については、毎年取引先をみなおし、これからも優れた新人を発掘できるよう努力してまいりたいと思います。ラシーヌ発足当初には、新たに取引を始める造り手の数には、上限があると思っていました。つまり、クオリティをおとさず妥協せずに、ご紹介させていただきたいと思える優れた造り手が、世界各地に少なからず潜んでいるとは、未熟にも想像していませんでした。が、結果的には、2011年からだけでも、フランス5人、イタリア6人、ドイツ8人、オーストリア6人の取引先が増えました。 しかも、各人ともいずれ劣らぬ素晴らしい造り手ぞろい。今後とも長く彼らとともに仕事をしていけることは大変幸せです。

 ラシーヌがご紹介するワインを長年お購めいただいている【お客様】には、無名の造り手を初回の入荷から、可能性を信じ、お取引いただきまして、心より感謝申し上げます。 これからもますます、わくわく楽しくなるようなワインから、じっくり感動する味わいまで、皆様とともに喜びを分かち合えるようなワインをご紹介続けられるよう努力してまいります。今後ともよろしくお願い申し上げます。

2) 本年の新しいご紹介・第四弾
《8000年のワイン造りの伝統の6名の継承者たち》(グルジアワイン)

1) Ramaz Nikoladze
(ラマス・ニコラズ)
Imereti
イメレティ地方
Nakhshirgele
ナフシルゲレ村
2) Didimi Maglakelidze
(ディディミ・マグラケリズ)
Imereti
イメレティ地方
Didimi
ディミ村
3) Gaioz Sopromadze
(ガイオス ソプロマズ)
Imereti
イメレティ地方
Baghdati
バグダティ村
4) Iago Bitarishvili
(イアゴ・ビタリシュヴィリ)
Kartli
カルトゥリ地方
Chardakhi
チャルダヒ村
5) Nikoloz Antadze
(ニコロス・アンターズ)
Kakheti
カヘティ地方
Tokhliauri
トフリアウリ村
6) Zurab Topuridze(ズラブ・トプリズ) Guria
グーリア地方
Dablatsikhe
ダブラツィヘ村

 2012年11月末に、初めてグルジアに行きました。遠い古代に、特別な感覚で選んで定められた場所で、カメを地中に埋めてワインを作った伝統が、いまなお息づいているのです。宇宙の原理と一体になったような伝統的なカメ造りワインには、あたかも人智を超えたような崇高な味わいを感じました。上記の造り手のワインが、4月中旬に入荷する予定です。ギリシャのさらに歴史をさかのぼるワインの原点、新たなワインの世界をお届けさせていただきます。

【経緯】 ニースに在住して国際的に活躍中の写真家、益子マイカさんと加藤敬子さんの二人組(keiko & maika)は、長らくヨーロッパのヴァン・ナチュールの造り手を訪ね、ポートレートを撮り続け、訪問記録をFacebookで発信されています。
  

 お二人は、昨年秋の《ラ・ルネッサンス・デ・アペラシオン東京》で、グルジアの作り手の代理人として出展され、そこでグルジアワインを数種類飲ませていただきました。それまでもヴィニタリーやラ・ルネッサンス・デ・アペラシオンなどでグルジアワインを試飲する機会はありましたが、今回紹介していただいたワインは格別な印象があり、そのあとすぐに、お二人の仲間に加わらせていただき、一緒にグルジアを訪問することにしました。治安は良いが、言葉が分からないと地方での移動が難しい交通事情の国では、二人の導きがなくては、訪問が不可能でした。グルジアでは、甕仕込みの伝統を護るべく、《Association Kvevri Wine クヴェウリ・ワイン協会》が組織され、首都Tbilisiトビリシ で、7人の出資者(自然派ワインの造り手)により、2011年5月に自然派ワインバーღvino Underground 《ღヴィノ・アンダーグラウンド》が開店しました。今回の訪問で感じた一番の大きなことは、甕仕込みをしたからといって、伝統の味わいが生まれるわけでないという、当たり前のことでした。ここにも国籍不明の、わけのわからないワインがたくさんありました。しかし、優れた造り手のワインは、深遠さと、巨大なエネルギーを感じました。長年、ヨーロッパでアンフォラ造りのワインを味わって、「何か違う」と思い続けた謎が、ようやく解けたように思います。

 グルジアの甕仕込みワインは、スローフードのプレジディオ(保護しなければならないもの)に認定されています。 http://www.slowfoodfoundation.com/pagine/eng/presidi/dettaglio_presidi.lasso?-id=1412
なお、彼女たちのグルジアワインについての著作(訪問記録ならびに写真集)が近々出版される予定です。これまでヴェールに包まれていたグルジアワインの世界が、たぐいのない芸術的な写真となって、目の前に現れます。出版を楽しみに待ちたいと思います。

エッセイ 【夢か幻か:春一番 ある夜のできごと】It Happened One Night.
 3月9日土曜の夜のことです。 いつものように、夕飯にワインを飲み始めました。 その日のワインは、レ・コステ/ジャン=マルコ・アントゥヌッツィのカルボ2006。 亜硫酸をまったく使わずに仕上げられるジャン・マルコのワインは、自然な醸造の極致ともいうべきワイン。当たれば凄いけれど、機嫌が悪い時も多い。この日のカルボは、素直で美しい果実味があふれ、タニンもなめらかに溶け込み、澄んだ余韻が長く、稀にみる極上の味わいでした。帰国中の次男・玲英(れい)と思わず顔を見合わせ、「今日のレ・コステ、すごーくおいしいね」と話しました。しばらくして部屋の隅においてあった、3週間前に開けてわずかに残っていた、レ・オリヴェ/ジュゼッペ・ラット2003 を彼が持ってきました。抜栓したときは、かすかなブショネのため最後まで味がのびず、それでも熟成によりさまざまな要素が表れて、欠点をカバーしている程度の味わいでした。 3週間も前にあけた、ブショネのワインで、わずかに残っているだけでしたから、私はまったく期待をしなかったのですが、長年ジュゼッペ・ラットの名前を何度も私から聞かされて尊敬していた次男は、3週間前にわずかに味わい残してあったボトルを取り置いていました。 「とてもきれいな香りがするよ」、「うん?素晴らしい味だよ」 と、目を輝かせて嬉しそうに話す玲英からグラスをもらって、驚いたのなんの。「いったい何がおきたのか?」 そのあとは家中にあった、同じように調子が悪くて残っていたワインを次々に飲んでみました。圧巻は、グルジアのワインでした。2010 Chkaveri チュハベリ /Zurab Topuridze ズラブ・トプリズ 深いロゼ色のワインは、3週間前に飲んだときの、厳しい渋さがなく、舌にしみいるような優しく、かつ生命にあふれる味わいでした。

    

 この夜にあじわったすべてのワインは調和がとれ、まるで命が復活したかのようで、これまで未知だった活き活きとした躍動感を感じました。 その後も当夜は引き続き、気になる難しそうなワインを数本あけましたが、気持ちは高揚して、興奮の渦のなかと言えばオーバーですが、石清水でのど潤おすかのようにワインを楽しみました。 冷静な判断ではなかったかもしれませんが、これほどワインをおいしく味わったことはないと思ったほどでした。 翌日、ビオ・カレンダー、暦、天文学現象などを調べてみました。3月1日に春一番が吹き、気温があがり、その後いったん気温が下がり、5日から気温が徐々に上がり始め、9日の最高気温は22度、10日は25度まで上昇しました。 暦では、3月5~9日までの啓蟄の最後の日で、ビオ・カレンダーでは根っこの日、月は甲戌 。「陽気地中にうごき、ちぢまる虫、穴をひらき出ればなり」とされる啓蟄は、柳の若芽が芽吹き、ふきのとうの花が咲くころ。まさに、春の息吹が、様々な命のあるものを目覚めさせ、自然な醸造で造られるワインにもこのような現象がおきたのでしょうか。2013年3月9日、この日を忘れることはないでしょう。来年の3月は「春一番ワインナイト」を一緒に楽しみませんか?

3月上旬の天候と月齢


合田 泰子

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