『ラシーヌ便り』no. 86

2012.12  合田泰子

《合田泰子のワイン便り》

 10月来、ローマン・ニエヴォドニツァンスキー(ファン・フォルクセン)、ミシェル・オーベリー(グラムノン)、ルーカ・フェラーリ(ボスカレッリ)と来日が続きました。今月は、12月9日のFestivinにあわせて、アリス・エ・オリヴィエ・ド・ムールのカップルが来日します。1998年からの日本市場へのご紹介ですから、早や14年になります。日本のマーケットは、彼らのワイン造りのデビュー時から、その成長とともにずっと歩んできました。ですから、彼らは日本にとても感謝しており、来日は長年の夢でした。大阪、福岡、東京で交流会を催しますので、ぜひご参加ください。無口で、誠実で、芯が強く、温かな夫妻の人柄に直接触れて、彼らのワインが一層深く理解される機会となれば幸いです。

 さて、私は、また旅の身の上で、シャンパーニュからブルゴーニュ、ラインガウを訪ねて、フランスに戻ってきましたが、明日からイタリアに移動します。そこで、今月のラシーヌ便りもまたフランスから書いています。

 ブノワ・アントの2011年のテイスティングのため、火曜日の朝ボーヌに入ったのですが、幸運にも歴史的なテイスティングの場に参加することができました。11月第3週週末にはボーヌで「栄光の三日間」が開かれますが、それに続く火曜日に毎年、私的に催されるワイン会があります。初めて参加したのですが、ジャーナリストや著名コレクター、造り手など、20人ほどの互いに親しい仲間たちの集まりでした。今年のテーマは、ル・ミュジニ/ドメーヌ・ジョゼフ・ドゥルーアンの1962年から2009年までのヴァーティカル・テイスティングでした。ジョゼフ・ドゥルーアンといえば、65haを超える畑を所有する巨大ネゴシアンで、量産ワイン生産者というイメージしか私は持っていませんでした。そのため全く味わったことがなかったのですが、予想外の素晴らしさにただただ驚き、あらためてブルゴーニュの歴史的なメゾンの誇りを感じました。

 ドメーヌ・ドゥルーアンのグラン・クリュは生産量が少なく、0.67haの畑から生まれるル・ミュジニは、毎年リリースされるや、瞬く間に長年のファンの間で完売するとか。いずれのヴィンテッジも、色調は淡く、あやういバランスの中にエキスがこもり、澄んだ味わいの奥に紛れもない偉大なクリュの格が上品に備わっていました。熟成とともにフィネスと同時に複雑さが現れ始めた2002年は官能的な美しさを湛え、2004年は病気の蔓延した困難なヴィンテッジにもかかわらず、高貴さと複雑で魅惑的な味わい、余韻の素晴らしい長さに圧倒されました。特に印象に残ったのは1989年と1985年。いずれもすべてが調和し、熟成の美しさに満ちていましたが、1964年は今なおエネルギーがこもり、余韻が素晴らしく長く、熟成感が全く酸化のニュアンスを感じさせない、見事なワインでした。そして、1962年は酸化熟成の香をはるかに超える存在の美しさと荘厳さを感じさせました。ここにブルゴーニュが過ごしてきた時が込められているのだ、という畏敬の念があふれでてきました。

 このような味わいに出会えたことを感謝するとともに、長年ワインの仕事に携わってきてもまだまだ知らないことの多いことを自覚し、何事も決めつけてはいけないと思った一日でした。それにしても、素晴らしいピノ・ノワールの優雅な味わいにひたった幸せな秋の午後でした。この貴重な経験をしっかりと記憶にとどめ、今後の新たな世代のブルゴーニュ・ワインと出会っていきたいと思います。

【参考】Le Musigny: Domaine Joseph Drouhin
 ジョゼフ・ドゥルーアンは、特級畑ル・ミュジニの北端にある0.67haの畑を所有する。1961年にほぼ一つにまとまった区画を購入し、1973年と1976年に植え替えられた。1990年から有機栽培に転換、現在はビオディナミで栽培されている。
この日のテイスティングリスト:
ル・ミュジニ 2009、2008、2007、2006《マグナム》、2005、 2004、2003、2002、2001、1999、1996、1995、1993、 1990、1989、1988、1985、1983、1978、1971、1964、1962


合田 泰子

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