『ラシーヌ便り』no. 79

2012.05  合田泰子

 

 

 今年の東京の桜は色が深く、とてもきれいでした。桜のころはヴィニタリーでヴェローナに出張のため、日本の春を楽しむことができないのですが、今年はヴィニタリー終わってからの開花でした。朝早く、事務所のある四ツ谷から半蔵門を抜け、イギリス大使館から千鳥ヶ淵を散歩しました。一方、ヨーロッパの桜は白に近く、説明されなければ桜と気づきません。シャンパーニュのジェローム・プレヴォーから畑の桜の花の写真が届きました。この写真の翌日、ランスは氷点下の気温に見舞われ、畑は霜に覆われたとか。

 

千鳥ヶ淵の桜

ジェローム・プレヴォーの畑の桜


 先月に続き、今月もヨーロッパを移動中です。今回は4月16日、シャトー・アヴィゼ(ジャック・セロスの新しいセラー)で開かれた第1回Trait-D-Union(トレ・デュニオン)に行ってきました。すでにRM界の重鎮となった、Jaques Selosse, Jerome Prevost, Larmandier Bernier、Roger Coulon, Egly-Ouriet、Jacqueson が、それぞれの最新作と、再発酵前のヴァン・クレールを披露しました。また同日エペルネで、第4回Terre et Vin(テール・エ・ヴァン)が開かれ、17名の若い世代を中心とするRMの最新作が紹介されました。この二つの試飲会を当然ながら関係者は皆掛け持ちでまわりますが、いずれも大変レベルの高い会でした。若いシャンパーニュの比較は、それぞれのボトルの実力が明白に表れます。若い世代の造り手にとっては、互いに研鑽しあう機会であり、またマーケットに対して近作の意見を聞き、グループ全体の活動を広めることができます。テール・エ・ヴァンでは参加メンバーの質が高いので、年々参加者が増えています。

 

シャンパーニュについてのジャーナリズムの第一人者マイケル エドワード
/セロスでの試飲会にて

 

 4月上旬、フランスでは大変暖かな日が続き、発芽が始まっていましたが、15日に突然気温が下がり、ロワールでは氷点下6度までさがり、大きな霜害に見舞われたと聞いています。毎日寒さに脅かされ、シャンパーニュの街を震えながら歩きました。
 シャンパーニュからリュクセンブルグを経て、ドイツへ。皮切りのモーゼルでは、A.J.アダムで2011年ヴィンテッジを試飲したほか、3軒を訪れたのち、ラインガウ・ファルツ・バーデンの各地を経て、フランスはアルザスに戻り、今日はイタリアにいます。気候は温暖な陽気と澄んだ青空へと一変し、ヨーロッパ北部の人たちがイタリアにあこがれる気持ちが、身にしみて分かるような気がします。

 

A.J.Adam 2011 7月入荷予定

 

 さて、いよいよ今月は、ドイツ・オーストリア第1回試飲会を、東京と大阪で催すことになりました。モーゼルなど急峻な斜面の畑で栽培され、野生酵母で発酵されるドライなリースリングは、50年以上前のこの地に伝わるリースリングの味わいでした。戦後、アメリカ市場だけでなくドイツ国内での甘口ワインの需要が高まり、残念なことにこの数十年の間、添加物まみれの低質な甘口ワインが量産され、「ドイツワイン=甘口」というイメージが定着してしまいました。ドイツのワイン産地を繰り返し訪ねて、改めて確認したことは、≪有機農法で栽培していても、野生酵母での発酵、発酵前のSO2の非使用はごくわずかの造り手に限られていて、皆無に近い≫という現実でした。が、そのような状況のなかでも、新しい世代が数十年前の高貴なリースリングの味わいを再現し始めています。冷涼な地で、弱く長い日差しのもとゆっくりと熟成したリースリングから生れる味わい、とりわけ自根ブドウから造られるワインには、気高く荘厳な世界が広がり、私にとって初めての感動でした。

モーゼルで初めて出会った酸化防止剤ゼロのリースリング。
9月下旬ビン詰めですが、どのように仕上がるか楽しみです。

 

 今年のラシーヌは、ドライなリースリングの味わいの新しい世界をお届けします。是非とも試飲会にお越しくださり、ドイツワインの清新な味わいに触れ、感動をともにされるよう願っています。

 


 合田 泰子

 

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