『ラシーヌ便り』no. 76

2012.02  合田泰子

 

昨年秋、ドイツとオーストリアを再三にわたって訪問し、取引を決めてまいりました。いよいよ、その造り手たちのワインの船積みが始まりました。第一弾は、モーゼルの《クレメンス・ブッシュ》、オーストリア南部ズュートシュタイヤーマークの《セップ・ムスター》、ノイジードラーゼ=ヒューゲルラントの《ビルギット・ブラウンシュタイン》。どれをとっても、到着が待ち遠しいものばかりです。 今年の春から夏にかけて、新しいリースリングとフェルトリーナーの世界を、皆様にお届けいたします。 
 1月23日には、第一回ドイツワインのワークショップを開きました。「ドイツワインの現状と未来」について、ドイツワインの研究歴が長くて深い北嶋裕さんに、お話いただきました。特に、ドイツのブドウ栽培の気候環境のユニークさ、2003年のような酷暑の年にも、植物の生育期間を十分に完熟するまで待って収穫することから得られる特別な品質、それでも失われないミネラリティのメカニズムという話題には、大変興味を持ちました。 フランス、イタリアでも優れた造り手たちは、温暖化への対策をすでに何年も前から始めています。今後数年の間に温暖化(正確には構造的な「気候変化」climate change)対策への努力をしてきた人と、しない造り手の差が明確に出てくるでしょう。
 また、かねてからオセアニア訪問を予定していたクレメンス・ブッシュ氏から、日本寄航の提案を受けて、急遽2月2日オフィスにてセミナーを開催いたします。 今年のラシーヌは、自らも学びながら、ともに前進していきたいと思っています。

 

ドットーレ・ジュゼッペ・カッペッラーノ の バローロ・キナート
 2月になるとテオバルド・カッペッラーノのことが特に強く思い出されます。2009年2月19日、63歳でテオバルドは亡くなりました。今なお、テオバルドと交わした冗談まじりの楽しい会話と、その笑顔が忘れられません。テオバルドを初めて訪ねたのは、2005年の春でした。一口味わったとたん、温かくて複雑で、感覚と精神に働きかけるユニークな印象に驚き、たちまちカッペッラーノのすべてのワインの虜になってしまいました。カッペッラーノは、イタリアでは熱烈なファンを持っていますが、バローロ・キナートは特に広く愛されています。それは、カッペッラーノ家がバローロ・キナートの創始者であり、またそのキナートは、「リキュールの傑作」というべき作品だからです。キナートはアルド・コンテルノのように、自家消費用に作っている人はいても、商品として造っている造り手は少なく、名の知れた生産者はほとんどありません。なかでもカッペラーノのキナートは特別な存在です。それもそのはず、用いられているのは、正真正銘のカッペッラーノ製ネッビオーロ、つまり洗練された質のなかに、凄さを秘めている古典的なワインと、秘密のレシピーにもとづくハーブなのです。

 ワイナリーとしてのカッペッラーノ家の歴史は1870年に遡ります。1886年、ジョヴァンニが二代目を継ぎ、弟のジュゼッペは大学で薬学を学び、薬学の知識をワインに生かした製品開発をしました。非凡な薬剤師として能力を発揮し、グレープゼリーや薬用濃縮マストなどと共に、ジュゼッペがこの頃に考案した製品の一つが、イタリアワインの歴史に残るバローロ・キナート。「ワイン薬剤師」が生み出した伝説的なリキュール、バローロ・キナートは、ランゲ地方の貧しい農民たちから、滋養強壮によく効く唯一の家庭常備薬として長い間親しまれ続けてきました。
 ジュゼッペは1912年に急逝した兄の後を継ぎ、ワイナリーを発展させました。彼は、最良の畑のありかと、バローロ用ネッビオーロの栽培に意欲的な栽培家、また、微小気候の影響とブドウの品質について熟知していました。ジュゼッペの知識の深さは広く認められ、この地方のブドウの「父」と敬愛されました。1955年に亡くなった後、バローロ・キナートは時を経て、テオバルドの代になって再現され、優れた感覚によって仕上げられました。 
 テオバルドと知り合って間もない頃、トリノのチョコレート店では、「クリスマスにチョコレートとキナートとのセットがギフトに人気がある」と聞きおよびました。「濃密で味わい豊かなカッペッラーノのバローロ・キナートが入ったチョコレートが出来たら、どんなに素敵かしら」――と、想いを巡らせ、テオバルドに提案しました。ところが、「バローロ・キナートと組み合わせて、チョコレートを食べればいいじゃないか」と、笑い流されてしまいました。が、これがテオバルドらしいところで、よく考え直して自分が納得すると、逆に積極的に取り組むのが、テオバルド流なのです。テオバルドとアウグストのカッペッラーノ父子は、アオスタのチョコレート職人を口説き、根気よく何度も試行錯誤。苦節5年にして、テオバルトが亡くなったあと遺志をついだアウグストが、ようやく本物の《バローロ・キナート入りチョコレート》を完成させました。 きっと、天上のテオバルドも喜んでくれていると思います。

 

 

 今年のバレンタインデーには、《カッペッラーノ製バローロ・キナート入りチョコレート》とバローロ・キナートの小瓶(500ml)を是非おすすめください。 甘い恋に、苦さと切ない思いはつきもの。大切な気持ちを、甘さのなかに苦味を秘めた二様(ふたよう)のキナートに託して、プレゼントをしてはどうでしょう。一味違った、大人の女性からのプレゼントに最適だと思いませんか。

合田 泰子

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