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『ラシーヌ便り』no. 68

2011.6  合田泰子

《合田泰子のワイン便り》

 
ギリシャにおけるワイン造りのルネッサンス

―本格的なギリシャワインを味わい、ワインの淵源をたどる旅を楽しみませんか―

今春4月19日から30日まで、初めてギリシャの各地を訪ねて、ワイン造りの実態に触れることができました。畑とセラーをつぶさに見てまわり、私たちが紹介している各造り手の激務と情熱に感じ入り、ワインのレヴェルと個性に、 あらためて魅入られました。実は昨春、出張の予定を組んでいたのですが、ギリシャの金融危機と騒擾のためにやむをえず直前にキャンセルした事情があり、今年こそはと 思い立ってようやく実現しました。ギリシャのワイン生産地を歴訪するとなると、5つの主要生産地の移動距離だけでも1600kmにわたり、島から島を含む船と飛行機の移動を考えると10日以上の日程がかかる長旅なので、時間と体力と覚悟が必要なのです。最も印象に残ったことは、ギリシャの風土にはエネルギーがみなぎっていて、大いなる可能性が肌身を通して強く感じられたことです。



私の近年の素晴らしいギリシャ・ワインとの巡り会いは、旧知である『ルージュ・エ・ブラン誌』のフランソワ・モレルさんから、パリで開かれるギリシャ・ワインの会に誘っていただいたことでした。最初にサントリーニ島産のドメーヌ・ハツィダキス《キュヴェNO.15》を一口味わって、言葉を失いました。澄んだ味わいが深く、稀にみる上質な味わいのなかに固有品種の個性があふれるとともに、自然派ワインの美質を発揮していました。ワインの力量を察知するためには、事前の情報や批評家の「ワイン評価ポイント」など、まったくいらなくて、素心で眼の前のワインに立ち向かえばいいのです。これまで世界のワイン業界では、ほとんど馴染みのなかった本格的なギリシャワインが、日本に入ってくる道筋がこうして開けてきました。

以来2年がたち、ラシーヌがご紹介しているギリシャワインは、広くワイン界のエキスパートや練達した愛好家の方々から、ギリシャ(というよりも世界)のクオリティワインのトップ格にあるワインである、と理解・評価され始めています。ギリシャの風土と造り手の個性がこめられており、自然な味わいであるだけでなく、ワインとしても大変完成度の高い、優れたワインなのです。単にギリシャにもいいワインがあるというのにとどまらず、これまで未知であったが比類のないワインの世界があったという事実が、ワイン愛好家の心を打ったのです。

ワイン造りの古い歴史が保たれ、比類ないテロワールがあり、何よりもその可能性を最大限に引き出すべく、工夫と努力を惜しまない、純粋でひたむきな造り手がいれば、素晴らしいワインが生まれないわけはありません。フラン・ピエの樹を、労をいとわずゴブレやアンブリア(サントリーニ島での伝統的な低い渦巻状の仕立て方)で仕立て、野生酵母で発酵させ、醸造でふまれる一つ一つの過程は、近代醸造学のテクニックを使ったワイン造りとは異質の世界です。中でもブラディス・スクラヴォスとハリディモス・ハツィダキスの両名は、さらなる高みに向けて、進化しようとしている造り手です。

また、アテネ郊外のレストラン「ゲイセイス」では、ペロポネソス半島にある、ドメーヌ・パルパルシスの白ワインを飲みましたが、アルコールが高すぎず、チャーミングでありながら、格調高い特別な個性があり、感動しました。造り手の感覚の良さを感じずにおれません。ドメーヌ・パルパルシスは、風貌の堂々とした大農園主(ジェントルマン・ファーマー)ですが、紛れもなく上質なワインのあるべき姿を実現できる造り手です。

オリーヴの樹は樹齢が700年を超えるものが、決して特別な存在でもないかのように、ブドウ畑の脇にあります。ブドウの樹齢は驚くほど高く、生命力を育むエネルギーがギリシャの大地にあふれているので、農産物すべてにその力がこもっていると感じずにはおれません。ですから、料理もまた驚くべき水準と個性に満ち溢れる道理なのです。パリでも、時々ギリシャ料理を楽しんできましたが、本場にくると当然ながら、味わいの統一感が全く異なります。ビストロ(タベルナ)の地元料理は、しっとりとした趣にみちています。甘酸っぱい味付けと、野草や素晴らしい調味料としてのチーズなどの素材。ともかく、決して香りが強すぎることなく、やさしく勢いこもるお料理の数々に、わくわくしました。

 ギリシャワインを味わって、イタリア・ フランスから時代をさかのぼるワインの旅を 楽しみませんか。ヨーロッパのワインの源流の 《いま》に触れて、驚嘆されることでしょう。

来月は、ギリシャ滞在中に出会った、 郷土料理をご紹介したいと思います。

合田 泰子

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