2011.5 合田泰子
《合田泰子のワイン便り》
東日本大震災に巻き込まれ、戸惑いと悲しみの中にあるすべての方々のために、お祈り申し上げます。
4月も終わり、大震災から1カ月以上がたちました。海外にいることが多いので、日本の状況から遠い気持ちになりがちなのですが、先日テレビで見た放送には心を打たれました。香川県の高校の先生を定年まで勤め上げられた64歳の方が、南気仙沼へ学校の泥かきのボランティアに行ってらっしゃる話でした。高校の陸上部のTシャツを着たその方が、「私はボランティアに来ているのではありません。被災した家族のためだと思って、来ているのです。もし、子供や孫が被災地で困っていると思ったら、どんなことをしても来るでしょう? 被災地の方に迷惑をかけないように、車に必要なものを積んで、3日かけて来ました。まだまだ、元気ですから。」とおっしゃっておられました。
ヨーロッパの造り手たちから、支援の申し出をいただき、ワイン寄付と義援金の連絡が届きはじめています。チャリティー・イベントのお知らせは、来週にもホームページでお知らせできる予定です。チャリティーの会ごとに、被災地で活動されている方の気持ちと同じ心で参加させていただきたいと思います。
4月17日にシャンパーニュに入り、19日からギリシャに来ています。復活祭が例年よりも2-3週間遅く、春の訪れが遅い、と3月の出張の折に聞いてはいたのですが、4月下旬とは思えない寒さにであって震え上がっています。パリを7時20分の便で発ち、アテネまで2時間20分。1時間の時差があるのは、東の国からなのですね。街で見かける犬が、どれも無防備な姿で、だらっと寝そべっているのがおかしくて、たまりません。
パルテノン神殿や考古学博物館を背景に、緊張感なく眠っている様子に、ギリシャの犬民性を感じるなどと言ったら、泰然自若とした犬に失礼でしょうか?どちらにしても、ちゃんと座るか、歩いている犬が目に入らないのです。
パリでも、時々ギリシャ料理を楽しんできましたが、本場にくると当然ながら、味わいの統一感が全く異なります。ビストロ(タベルナ)の地元料理は、しっとりとした趣にみちています。甘酸っぱい味付けと、野草や素晴らしい調味料としてのチーズなどの素材。ともかく、決して香りが強すぎることなく、やさしく勢いこもるお料理の数々に、わくわくします。
アテネに一泊して、昨晩クレタ島のシティアにつきました。 2009年6月からギリシャワインの輸入を始めましたが、まだまだ発見がありそうです。アテネ郊外のレストラン、「ゲイセイス」で、ペロポネソス半島にある、パルパルシスの白ワインを飲みましたが、アルコールが高すぎず、チャーミングでありながら、格調高い特別な個性があり、感動しました。造り手の感覚の良さを感じずにおれません。
シティアは、クレタ島の空港ヘラクレオンから150kmの地にあり、赤ワインの産地です。地中海、アドリア海、アフリカに面したリビア海流の3方に囲まれた、海辺の街ですが、魚よりも羊、山羊、うさぎなどの肉料理が好まれています。年間400万人もの人が訪れる、一大観光地であるため、重要と供給のバランスから、魚の値段がキロ当たり20ユーロから70ユーロもするそうです。地元の人によれば、地中海北部に比べ、塩分が強く、魚の風味が深いということですが、平均月収が1,000ユーロですから、魚を食べることはむずかしいとのことです。それに、ここは赤ワインの産地ですから、肉料理に慣れているのでしょうか。クレタ島は、はちみつ、ドライフルーツ、山羊や羊などのチーズ、オリーヴオイルが特産品ですが、味わったことのないような豊かなフレーヴァーは「素晴らしい」の一言です。各地でチーズ作りが盛んなギリシャでも、クレタ島のチーズは格別らしく、アテネに持っていったら、もうその風味は失せてしまうのだそうです。
6時過ぎにクレタからサントリーニ島へ。きのうの時ならぬ冬空から、春の陽光に恵まれ、2時間の船旅です。船酔いしそうなほど揺れがひどく、お便りはこれで失礼します。
合田 泰子