『ラシーヌ便り』no. 61

2010.10  合田泰子

《合田泰子のワイン便り》

 9月4日、残暑厳しい東京を発ち、飛行機を降りるとパリはすっかり秋。行きかう人は、夏服の人もいれば、冬のいでたちの人もあり、様々な装いでした。猛暑の中から急に気温差が15度以上もあるところに来ましたから、体調を整えるのが大変です。ヨーロッパは9月初めでも、暖かいジャケットがいりますが、わかっているはずなのに、汗をかきながら荷造りすると、つい冬服を入れるのを忘れてしまいます。

収穫前のシャンパーニュは、天候と良い作柄に恵まれそうでしたが、私の帰国した直後の一週間余りのうちに一転して、カビとウドンコ病に見舞われ、厳しいトリエを迫られる年になったようです。ロワールのクルトワの話では「今日(9月24日)は大雨ですが、大変順調で、素晴らしい収穫だ」と明るい声が電話の向こうから聞こえてきました。

シャンパーニュでは、オリヴィエ・コランと時間をかけてゆっくりと話をしました。2004年の最初の収穫から、6度目の秋を迎え、セラーも畑も充実してきました。経験ある鋭い飲み手のシャンパーニュ観を変えるほど、2005年ヴィンテッジに新境地を開いたオリヴィエ。活き活きとした彼の表情を見ていると、これから生まれてくる作品への期待がますます膨らんできます。

 シャンパーニュから一路フリウリに入ると、秋は一層深まり、ブドウは最後の熟成を待っていました。雨がイタリアで一番多いこの地域では、研究所の指導でこの20年の間に広まった密植による問題が、造り手たちを悩ませています。いったん植えてしまったブドウを植え替えることは、10年、20年の時間を失うことです。でも、過ちがわかった時に、あらためていかなくては、将来にわたって問題を解決することができません。優れたワインを作ることは、本当に時間の積み上げです。



 *「ラシーヌのマーケットはまだまだ広がる」
先日、長男から聞いた話です。
ボルドーに住んだとき4歳だった長男は、いまや27歳で一児の父となりました。医学関係の仕事は、時間的にも大変厳しく、途中で続かなくなる人が多いことで有名な職場です。何とか2年目も半ばを過ぎ、来年4月からの所属先が決まったとのことで、ほっとしています。私自身も出張が多いため、ゆっくり会う機会もなかなかありませんが、時間をみつけて息子の家族に会えると、嬉しさもひとしおです。

子供たちがお酒を飲める年齢になると、私がル・テロワールとラシーヌで扱っていたワインが、当然のようにいつも食卓に並びました。息子たちはワインが大好きで、長男は友だちの集まりにも手頃なワイン

をよく持って行っていました。現在は、多忙をきわめる勤務のため、コンビニのお弁当などに手を出し、健康維持が心配されるような食生活に追い込まれています。たまの職場の集まりや、時間のあるときは、気分転換に「ちゃんと食事がしたい」と思うのも無理はありません。たまに上司に食事に連れて行っていただき、ワインをご馳走になる機会も多いようです。その時出てくるワインが、経験したことのないタイプのものばかりで、「僕には飲めない味のものだけど、飲まないわけにいかないので、いつも困ってしまう」とのこと。さぞかし、高価な有名銘柄をご馳走になっているのでしょうが、同情を禁じえません。特にラシーヌが輸入するワインに囲まれて、いわば純粋培養で育った長男には、全く異質な味わいと性格のワインがあることが驚異なのです。また、周りにいるワイン好きの方々が、ラシーヌが輸入しているようなタイプのワインを味わったことがない、という残念な事実を私に教えてくれました。

シャトー・ラトゥールの生産量が40万本、ラフィット25万本、マルゴーが40万本、シャンパーニュでは、ボランジェの生産量が約20万本、ドン・ペリニョンが500万本などという気の遠くなりそうなヴォリュームについて、多くの人は知りません。最先端の醸造テクニックを駆使し、コンピュータ管理のもとで醸造されているワインと、ブドウだけから生まれる少量生産のワインとは、別の思想に立った根本的に異なる存在です。「僕のまわりには、本当にワインが好きな人が多くいるけれど、彼らの間で、ラシーヌのワインを知らない人たちが、たくさんいるということだよ。だからラシーヌのワインのマーケットはもっと広がることができるよ」。息子の言葉に、まだまだ営業努力の足りないことを痛感し、反省するとともに、新たなマーケットがあることに希望を持ちました。


さて、すでにご存じのとおり、本年11月27日(土)に開かれるインポーター20社合同の「フェスティヴァン」は、一般の方々も参加していただける、自然なテイストのワインのお祭りです。初めての企画ゆえに、勝山晋作さんを中心に、わたしたちも何回もいっしょに会議を重ねています。新しく素晴らしい出会いを楽しんでいただけるよう、知恵を絞っているところです。たくさんの方々のご来場をお待ちしています。

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