『ラシーヌ便り』no. 55

2010.03.25  合田泰子

《合田泰子のワイン便り》

 桜の便りが届く頃となりました。今年のヴィニタリーは4月8日からと、例年より遅いため、私にとっては、十数年ぶりの東京の桜です。久しぶりの日本の春を楽しみたいと思っています。

 季節は春がきましたが、経済は困難な時が続いています。業界内外の様々なニュースを耳にするにつれ、変わらず一つの仕事を続けていくことの喜びと難しさを、ふたつながら感じずにはおれません。 ラシーヌにとっても、2009年度は厳しい一年でした。困難も少なからずありましたが、前進しつつ嬉しいことにも出会いました。新しく紹介させていただくワインが、お客様に喜んでいただけた時ほど、嬉しいことはありません。どのようなときも、地道に積み重ねていくことの大切さを痛切に感じます。

『東西の美味について』
仕事がら、様々な美味に出会う機会があります。素性が正しく、季節の新鮮な素材でもって作られた料理は、家庭料理、郷土料理、洗練された技の尽くされた料理を問わず、幸せと驚きで満たしてくれます。

 イタリア、フランスは言うまでもなく、スペインの山の料理、海の料理、ギリシャ料理、知らない味わいに出会うにつけて、地方の文化を知る興味がどんどんと膨らんできます。

 私自身、ビールや日本酒も含めワイン以外のアルコールが全く飲めないので、和食や中華料理の時もワインをいただきます。海外から造り手が来日したとき、造り手たちは日本の食を味わって、大変喜んで帰っていきます。その際、様々なお酒を試してみますが、塩辛や魚卵の粕漬け、くさやなどは日本酒をおいての相性は無理でしょうが、自然派の優れたシャンパーニュや白ワインが抜群の出会いを見せてくれることはいうまでもありません。

 様々な場面で、ワインを楽しむなかで、素材が正しく勢いのこもった料理には、モダンな醸造法で作られた、やや表面的なワインは、合わないことに気づきました。まるで、料理がこういうワインを拒絶しているかのようです。もちろん、味の好みは人様々ですから、あくまでも個人的な意見です。

 最近、潮州、杭州、広東の料理を楽しむ機会があり、新たな味覚の世界が広がりました。一般に味は、足し算をすればするほど味がにごってきますが、味わいが澄んでいて同時に複雑な上湯をベースに仕上げられている料理は、いずれも熱気と勢いがこもり、食べ手に迫ってくるかのようです。次のようにあわせて味わいましたが、特筆すべきは、ピータンとハツィダキス/アシリティコ・セレクショネ・ド・ミロス2008の組み合わせ。黄身の部分がとろーっとした極上のピータンは、どきどきするほどなまめかしく、樹齢100年を越えるブドウから造られる深遠な味わいのミロスは、陶然とするような余韻の中で素晴らしい調和を見せてくれました。

 また、レ・ドゥエ・テッレ/サクリサッシ・ビアンコはオールマイティーに力を発揮し、食事全体の高貴さを高めてくれました。なお、参考までに私が試みた、さまざまなお料理とラシーヌの取扱いワインとの絶妙な組合せを、ご披露いたします。


トウミョウ、ヒユ菜、チョイサムなどの炒め物など: クロ・デュ・チュ=ブッフ/ビュイッソン・プイーユ

馬欄頭と押豆腐の和え物や、川エビの炒め物など: ドノン・エ・ルパージュ/シャンパーニュ・ロゼ

浮き袋、黄ニラ、貝柱のスープ、皮付き豚の焼き物: ジェローム・プレヴォー/シャンパーニュ

極上のピータン: ユリス・コラン/シャンパーニュ、ハジダキス/キュヴェ・ミロス

ガチョウのロースト、鳩の煮込み: シュレール/ゲビュルツトラミネール・ビルドストゥックル・リゼルヴァ

数々の点心、ウチワ海老の炒め煮: エマニュエル・ブロシェ/シャンパーニュ・ロゼ

魚の蒸し物: クルトワ/プリュム・ダンジュ、アリス・エ・オリヴィエ・ドゥ・ムール/シャブリ

鶏、大根、湯葉の煮込み: マルク・アンジェリ/アンジュ・ブラン・フシャルド、ロゼ

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