2009.09.25 合田泰子
《合田泰子のワイン便り》
今月は、あまり快くない話題ですが、おつきあいください。
先週、さるワインバーでのできごとです。かなりお酒の入った様子の40-50代の男性が4名入ってきて、にぎやかに話していました。おつまみを3品だけで、各自スパークリングを飲んで、その後ワインを2本楽しむうちに、4人の声はいっそう大きくなり、はた迷惑になっていきました。店内には、他に4人づれの男性、女性を含む3人連れ、カウンターに3名がいて、新たに3名の男性が入ってきました。最後に入ってきた3名は、いったん席についたものの、隣の大声が気にさわったようで、注文もせずすぐに出て行ってしまいました。一瞬、件の4人の声は、トーンダウンしましたが、しばらくしてまたぞろ大きくなったのです。
女性の店主が、「申し訳ありませんが、もう少し静かにお願いできませんでしょうか。」と言ったところ、件の4人が「じゃあ、帰るよ。」とお勘定を払ったので、出て行くのかと思われました。が、少したって「責任者を呼んでもらえる?」と言いだしました。この女性が店主とわかるや、「うるさいと思うなら、なぜ、もっと早くに言わない。なら、ワインを2本も飲まないで、さっさと帰ったのに。」と言い出し、10分ほど店主が詫びても引き下がる様子はない。
その間にカウンターに座っていた一人の客が、「あなたたちのために、僕も、他の人も迷惑している。」と、店主に味方しました。その男性と4人組が喧嘩になりそうな雰囲気になったこともあり、「これ以上お話をしても仕方ないので、警察を呼ぶより他はないですね。」と言う店主に、「呼ぶなら呼べば」ということになりました。ところが、なんと警官が4人、その後も2人増えて、計6人の警官がやってきました。私は帰ろうかとも思いましたが、このようなとき警察はどんな対応をするのか興味もあり、様子を見ていました。4名は、社長を含む同じ会社の社員で、一番ひどい酔っ払いが警官にからみ、次に社長が「自分たちは何も悪くないのに、なぜ、このような目にあわないといけないのか。」と、延々と2時間に及ぶくどい話と抗議をしました。
その間に他の客は帰ってしまいましたが、警官は器物破損や暴力がないかぎり、名前を聞くこともなく、出て行くことを促すこともなく、相手がただ静かになって出て行くのを待つだけ。酔っ払い連中は、だんだん冷静になってくると不利な状況に気づいたようですが、いかに自分が悪くないか、不当な仕打ちを受けているかと身を護るために、どんどんさかのぼって話を作り変えて、事実に反した論理を組み立て、店と警察に抗議を続けるのです。自己中心そのものの振る舞いでした。
最後まで店に対して、「謝れ」とどなる4人に、店主が「本当に申し訳ありませんでした。」と頭を下げても収まらず、執拗なからみがまた始まりました。「このような事態だから、私一人の手に負えないので、警察に来てもらわなければなかったのです。そのことのどこが悪いのですか。私にこの事態が解決できたのでしょうか。」と店主はきっぱりと言い切りました。店主が折れないことと、警察に抗議しても聞いてもらえず、ようやくあきらめた4名は、12時過ぎにようやく店を出て行きました。
そのすぐ後に店主から聞いたことですが、最近お勘定をする段になってから店への不満を述べる客が増えてきたそうです。日常のストレスが多いためか、このような酔っ払いが増えてきたが、店側が折れてお代を返せばすぐに帰るケースが多いとか。ワインの店でこういうことですから、日本酒やビールが中心の店ではもっとこうした出来事が多いのでしょうか。お店の方の毅然たる姿勢に、心のなかでおもわず拍手をし、シャンパーニュを注文してしまいました。
とてもおかしかったのは、その2時間の間、酔っ払いが何度も、「ワインと料理がおいしく、楽しかったのに。」と言ったことです。そのワインは、カーザ・フラッシのモンサネーゼ2004と、デイのロッソ・ディ・モンテプルチアーノ2006でした。とてもいいスタンダードワインをせっかく楽しんだはずなのに、もったいないことでした。
ところで、先週ヨーロッパ出張から帰ってきましたが、出張先のいろいろなところで、アメリカ市場の状況を耳にしました。スイス、ルクセンブルグ、ベルギーなどは好調のようですが、アメリカ市場に輸出の比重が高い造り手は大変です。しかし、志の高い造り手は、輸出ブローカーの力などあてにせず、独自のマーケット作りに努めたり、あるいは、アメリカ市場の嗜好にあわせることなく、真に高いクオリティを目指す必要性を強く感じている、と聞きました。また、シャンパーニュの生産調整の話題も深刻です。10年に一度と言われる、2009年度のグレイト・ヴィンテッジに、収穫の何割かを破棄しなければいけない栽培家を思うと、心が痛みます。世界的な不況が長引けば、世界のマーケット地図もかなり変わっていくことでしょう。が、このような状況にめげない生産者に喝采するとともに、私たちも状況に追随しない仕事をしなければならない、と思っています。
合田 泰子