『ラシーヌ便り』no. 48

2009.08.27  合田泰子

 地震と大雨にみまわれた、涼しい今年の夏。すでに農作物の被害が心配されています。農業に携わっておられる方々のご心労に、胸がいたみます。皆様いかがお過ごしでしょうか。

 いよいよ9月に入ります。ラシーヌでは恒例の8月末のシャンパーニュの試飲会に続き、各地での秋の試飲会の予定が盛りだくさんです。
 
 今年のシャンパーニュ・試飲会には、6人の造り手をご紹介させていただきました。
新しい生産者として、メニル村のジャン・ルイ・ヴェルニョンがポルトフォリオに加わり、ご紹介するRM の人数はすでに9名となりました。そこで、あえて各人の特徴を一行コメントのような短い言葉で表すとすれば、次のようになるでしょうか。皆様のご意見をお聞かせください。

シャンパーニュ生産者寸描

Jean-Louis Vergnon(ジャン・ルイ・ヴェルニョン)  メニルの正統派。コンスタンの参画で大変貌
Donon & Lepage(ドノン・エ・ルパージュ)  二人組みの新星。モダンなテロワール表現
Jose Michel & Fils(ジョゼ・ミシェル・エ・フィス)  練達した老大家ジョゼ。悠然たる伸びやかさ
Richard Cheurlin(リシャール・シュルラン)  オーブの大先達。至上のカリテ・プリ
Tarlant(タルラン)  タルランの12代目ブノワによる巧まざる美味
Alain Robert(アラン・ロベ-ル)  時間の芸術。不滅の名声
Jerome Prevost(ジェローム・プレヴォー)  「賢者の宝石」。テロワールの触媒
Vouette et Sorbee(ヴェット・エ・ソルベ)  土地の霊気と造り手の遊び心に満ちるワイン
Olivier Collin(オリヴィエ・コラン)  精妙な味覚と軽妙な精神の賜物

 優れたシャンパーニュは、デゴルジュマンをした後も、管理がよければ美しく熟成することができます。数年前にランスで買った「モエ・エ・シャンドン・マグナム/1961」 は素晴らしい味わいでした。

 農薬や化学肥料が蔓延する前は、洗練の差はあっても、いいシャンパーニュが作られていたのですね。30年余りの空白を経て、シャンパーニュ地方は有機栽培を実践する造り手が次々に登場しています。味わいが澄んでいて上品で、まさしくシャンパーニュならではの気品ある作品が続々と生まれています。 以前、「テロワールという言葉が、今ほど真実味を帯びてシャンパーニュの味わいに出ていることは、これまでになかったのではないでしょうか」とお話しましたが、アンセルム・セロスを筆頭に、好きなシャンパーニュがたくさんあって、よい時代にワインを味わうことができて、本当に幸せだと思います。 力が備わったシャンパーニュを長く寝かせ、数年先を楽しまれてはいかがでしょうか。

 常にきっちり熟成してから市場に登場する偉大なシャンパーニュ「アラン・ロベール」は、今では「レゼルヴ」と「トラディション」という2種類のマグナムしかリリースされません。ですから、簡単に楽しむことができなくなってしまいました。が、それだけでなく、例のこととはいえ、将来のリリース予定がますます掴めなくなってしまいました。ことによったら、あと数年で販売が終了し、栄光あるドメーヌの歴史に幕がおりかねない気配です。「私はシャンパーニュのロマネ・コンティになりたい」とアランから聞いたことがありますが、時間をかけた伝統的な造りをするための生産コストを償えるほどの価格でもって、販売することはできなかったのかもしれません。アラン・ロベールその人が、現状と将来の計画について口を鎖している以上、ドメーヌはいよいよ神秘のヴェールに包まれている、といっても過言ではありません。いわば、アラン・ロベールは、「生きている伝説」になりつつあるのです。その意味でも、今年ご案内させていただいています1989年と1990年は、マグナムだからこそ味わえる、「至上のシャンパーニュ」であるだけでなく、生き残っている文化遺産なのです。

 夏から秋にかけて、個性豊かなシャンパーニュとともに、爽やかなひと時をお過ごしください。

 まだまだ残暑が厳しい毎日ですが、私は新顔ヴェルニョンのプルミエ・クリュを楽しんで、十分に休養をとり、秋に向けてエネルギーをためたいと思っています。皆様もどうぞお疲れが出ませんように。 

合田 泰子

▲ページのトップへ

トップ > ライブラリー > 合田泰子のラシーヌ便りno 48