『ラシーヌ便り』no. 46

2009.06.25  合田泰子

《合田泰子のワイン便り》

 6月は、サルヴォ・フォーティが来日し、東京でセミナーと小さな集まりをいたしました。このたびの通訳は、イタリアのワイン専門誌『エスプレッソ』の審査員をされている、宮嶋勲さんにお願いしました。宮嶋さんは、1980年代前半にローマで学んだ後、日本とイタリアをつなぐ国際的なワイン・ジャーナリストとして活躍されています。この20年余りのイタリアワイン界の過去・現在を経験し、『今おきていることを』正確にとらえ、ご自分の意見を述べられる方です。サルヴォの滞在中、宮嶋さんは次のようにおっしゃっていました。「今回のサルヴォの来日は、とても貴重な出来事であったと思います。特に、今非常に浅薄なエトナブームに火が着き、濃厚なインターナショナル・スタイルのワインが売れなくなった生産者が、『より自然でフレッシュなイメージがあるから』という理由だけで、エトナに進出してきています。そのような状況のなかで、サルヴォのように本物のエトナワインを守る人がいることは大いなる救いですし、本物のワインがどんどん日本で紹介されることは非常に重要だと思います」。私たちもエトナとそのワイン、その伝統を守り拡げようとするサルヴォをつうじて、根本的なことをあらためて学んだ気がします。長らくワインを仕事として、たくさんの造り手とそのワインに出会ってきました。その時々で、自分にとって最善の努力をしてきたと思っていましたが、サルヴォのワインを通して、どれほど表面的にしかワインをとらえていなかったかを省み、ワインにとってなにが本当に大切かを見直すことができたと思います。やわらかなテクスチュア、心地よく美しい果実味、高貴で繊細かつ魅力的な味わい、時とともに妖艶なまでに表情を変える充実した酒質の高さ――こういった味わいの奥に、エトナの風土、造り手のぶれない生き方、考え方、深さを感じます。

 サルヴォのセミナーの内容につきましては、後ほど、テープおこしをし、ホームページにご案内させていただきます。サルヴォは昨年、自伝的な小説『火の山』を出版しました。そのなかで、エトナ周辺のブドウ畑・ワイン・文化について、思いのたけを語っています。翻訳ができしだいご案内させていただきます。3-40年前、というとそう遠くない昔のようですが、サルヴォによって回想されるシチリアの田舎の生活や時代は、私には古い映画のワンシーンのように浮かんできます。パルメント(エトナ固有の醸造施設)でおじいさんの醸造を手伝ったり、地元の仲買人とトラックに乗りエトナのワイン農家をまわるサルヴォ少年の姿が、映画「ニュー・シネマ・パラダイス」の主人公トトと重なってしまいます。宮嶋さんにサルヴォについてのレポートを書いていただきましたので、ぜひ、ホームページでお読みください。

 なお、ホームページにご案内中の資料の補足として、現在のチーム・イ・ヴィニェーリと今後の計画について、少しだけご紹介します。

1)チームイ・ヴィニェーリについて
 現在イ・ヴィニェーリは、5つのワイナリーの栽培を担当していて、これからさらに2つのワイナリーが増える予定です。

* 現在、イ・ヴィニェーリが栽培を担当しているワイナリー :
ヴィヌペトラ      (エトナ)   入荷済み
イル・カンタンテ    (エトナ)   入荷済み
カンティーネ・エドメ  (エトナ)   2010年より入荷
ファットリエ・ロメオ・デル・カステッロ(エトナ/ランダッツォ)?  2011年より入荷
アズィエンダ・ダイーノ (カルタジローネ:コルク樫の森がある保護地区に隣接する畑、
品種はネロ・ダーヴォラ)                       2011年以降入荷予定
テヌータ・ディ・カステッラーロ(リーパリ、品種はマルヴァジーア) 2010年より入荷

* 新たにイ・ヴィニェーリが栽培担当を予定しているワイナリー :
フラッパート (ノートの南、干潟自然保護区の中、品種はネロ・ダーヴォラ)
サヴィーノ 
フェルナンデス(パンテッレリーア) 2010年よりイ・ヴィニェーリのグループとなる 

*(参考)サルヴォが醸造コンサルタントをしているワイナリー :
ヴィニ・ビオンディ、ベナンティ、グルフィ、アズィエンダ・ラ・ローザ

2)イ・ヴィニェーリのマークに関して
 イ・ヴィニェーリのマークは、ともにアルベレッロで栽培を行う、エトナ人のシンボルであり、誇りです。次のリリースからは、このマークを浮き彫りにデザインしたボトルが、共通して用いられます。アルベレッロで栽培を行い、伝統に基づいたワイン造りをおこなった場合に限り、このボトルにワインを入れることができるのです。費用はかかってしまいますが、このボトルは、サルヴォ自身の存在や考え、その他様々なものごとを守ってくれるのです。

3)エトナにおける、アルベレッロの栽培に関して:サルヴォ談(詳細はホームページを参照ください)
 「アルベレッロは、今となっては非常に難しい栽培方法です。仮に、イタリア本土から栽培家が来たとしても、できないでしょう。なぜならば経験が必要だからです。 イ・ヴィニエーリが栽培を担当しているワイナリーも、単独ではアルベレッロでの栽培を行うことができません」。

《スパッリエーラとペルゴラ、アルベレッロについて》
 以前エトナでは、ブドウは全てアルベレッロ(一株仕立て)で栽培されていましたが、今ではスパッリエーラ(垣根仕立て)がほとんどです。スパッリエーラは、機械が畑に入るため、樹列間を広く取る必要があります。そのため、植樹密度が下がり、面積あたりの収量をアルベレッロと同一にしようとすれば、樹1本あたりの収量が大きくなります。結果、質の高いブドウは得られません。ただし、スパッリエーラで質の高いブドウが得られないというわけではありません。例えば、ブルゴーニュでは、畑にあわせて機械を改良し、ブドウの樹の列の上をまたいで通る、背の高い機械を導入することによって、樹列間隔を狭め、密植度を上げました。しかし、エトナでは、畑がブドウにあわせたため、スパッリエーラでは密植度が低いのです。土壌に石が多いエトナの畑では、ブルゴーニュ式の機械は背が高くて不安定なので、非実用的です。 ペルゴラ(棚仕立て)では、高さ約2メートルのところに棚を築きます。樹と樹の間隔が3メートルほどですから、1haあたりの植樹本数は1,000本にしかなりません。ブドウの葉は陽光をたっぷり浴びることができますが、仮に1haあたりの収量が40,000kgだとすると、1本の樹から収穫するブドウは40kgで、これは大量生産のための栽培方法です。

 一方アルベレッロでは、1本1本の樹が独立し、機械も用いないため植樹密度が高くなります。(樹列間隔は1mで、1haあたりの植樹密度は10,000本。)

 エトナで、ネレッロ・マスカレーゼをアルベレッロで栽培することには、いくつもの利点があります。ネレッロ・マスカレーゼにはアルベレッロでの栽培が適し、質の高いブドウが得られることを、試験栽培によって確かめました。

 次に、エトナでは、樹をさえぎるものが360度ないため、風通しがよく、病気になりにくい事実があります。3つ目として、アルベレッロで栽培されているブドウの樹は、土壌を酷使しません。自分が必要なものだけを、必要な分だけ土壌から吸収するのです。土壌やその地域の環境と調和し、樹にも多くのストレスをかけないため、バランスをとりながらの継続的な栽培が可能です。そのため、ブドウの樹の樹齢もあがります。

 4つ目、アルベレッロで栽培されているブドウ畑では、1本の樹ごとに向き合って作業を行わなければならないため、各々の樹と対話しながら、1本1本の樹に適した作業ができます。機械だったら、音楽を聴きながら作業はスピーディーに進められますが、機械は、畑の土を固めてしまいます。

 アルベレッロでの栽培では、年間、200日もの作業が必要です。ちなみに、スパッリエーラでは、年間50~60日です。私たちは、1haあたり2人の栽培家をおいていて、十分に手入れを行うことができています。人数不足なので長い日数が必要なのではありません。質の高いブドウを得ようとした結果なのです。アルベレッロでは1人で1日あたり400~500本の樹の手入れが可能ですが、機械では、数千本から数万本が可能です。アルベレッロは、手間と時間と労力、そして経験が必要な栽培方法なのです。


 さて、7月もコンテナが3本到着いたします。数の限られたものもたくさんありますので、リストの隅々までチェックされるようお勧めいたします。

  本格的な暑さに向かいますが、どうぞお元気でお過ごしください。

合田 泰子

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