2009.02.25 合田泰子
《合田泰子のワイン便り》
恒例の「サロン」(テーマ別のワイン集合展示会)が続き、1・2月は出張に明け暮れています。
厳しい寒さと春のような暖かい日が交互に訪れるため、急激な気温の変化に体調の管理がむずかしいですね。フランスでは今年かなり気温が低く、シャンパーニュでは1月の朝晩は氷点下の冷え込みでした。この夏は、また暑くなるだろうという予想です。ラ・ルネッサンス・デ・ザペラシオンは1400名を超える来場者がある賑わいぶりでした。
さて今回は、プレヴォー宅でおこなわれた、歴史的なヴァーティカル・テイスティングの模様と詳細を、お伝えいたします。
ジェローム・プレヴォー10年の歩み
1月29日にジェローム・プレヴォーの自宅で、10年の歩みを確認する試飲会が行われました。出席者は、ジェローム&アニエスのプレヴォー夫妻、ワイン評論家のミシェル・ベタンヌと、合田・塚原の5名。 そもそも、この会に呼んでいただいたのは、私たちがジェロームに、次のような問いかけをしたためです。
「日本では、ジェロームのシャンパーニュは入荷する絶対量が少ないので、レア・アイテムとして扱われています。そのため、本当に楽しんで飲むというより、まず飲んでみたいという好奇心の対象になってしまい、本来の味わいが正しく理解されていないと思われます。私たちは今まで味わい続けてきた結論として、デゴルジュマンから2年近くたったとき、あなたのシャンパーニュには調和とまとまりが生まれ、異なったステージに達すると思っています。そこで、そのような味わいに到達した姿を知ってもらいたいので、リリースを一年遅くしたいと考えています。あなたは、どう思われますか?」
この考え方にジェロームも大賛成です。「今度、ミシェル・ベタンヌを自宅に招いて、私のシャンパーニュは、デゴルジュマン後、時間がたって味わいが完成することを確認してもらう会をすることにした。君たちも、おいでよ。」と誘っていただきました。
北フランスの朝は8時になってもまだ空が暗く、一日が遅くゆっくりと始まります。耳の感覚がなくなるほど空気は冷えきり、草の上を踏むと凍った植物がガサガサと音をたてます。午前10時半にジェロームの家に集まり、まず畑を見たあと小さなセラーに行きました。「本当にあなたは、シャンパーニュのガレジストだね。」 と、ミシェル・ベタンヌ。 ふたたび家のなかに戻って、いよいよテイスティングの始まりです。
2008年のヴァン・クレール(まだ醸造中の樽サンプル)から始め、シャンパーニュは2007年から1998年までさかのぼりました。 テイスティングしながらミシェル・ベタンヌは、記憶の引き出しを造作なく次々と開きます。ヴィンテッジ、品種の個性、村ごとの特徴、他の作り手の話など、言葉は止まることがありません。そういえば、マット・クレーマーやロバート・パーカーと同席したときも、彼らが注がれたグラスを目の前にして、過去のヴィンテッジとアペラシオンの特徴を見事に整理して語ったのに驚いたことを、ふと思い出しました。
大変興味深かったのは、2007年に作ったロゼ。赤ワインを10~11%ブレンドしたもので、ベタンヌ氏いわく、「セニエ式のロゼは早飲みに仕上げる方法で、味わいが単調になる。それに比べるとブレンドして作るロゼには、まず優れた赤ワインが必要だ。シャンパーニュでは赤ワインの醸造は難しく、また費用もかかるけれども、上出来の赤ワインを作ることができれば、セニエで作るより高貴なシャンパーニュになる。」
赤ワイン好きのジェロームは、10年も考えたあげくにロゼ用の赤ワインを作りだしました。まるで子供のように、毎晩赤ワインの樽の様子を見にいって、楽しみながらワインを作ったそうです。「セニエのロゼが流行っていることに苛々しています。表現力に富んだ赤ワインと白ワインを造り、2つをブレンドするほうが、セニエ式ロゼよりもいっそう表現力に富むと思います。」 とジェロームは話しています。
2002年のテイスティングでは、「この年はムニエがクラシックな年だった。酸がおとなしく、パンの香りが控えめだ。エペルネ周辺のムニエ――、そう、ジョゼ・ミシェルのムニエに似ているね。」と、ベタンヌ氏。活気があり、美しくまとまり、かすかなノワゼットのタッチがあり、静かな深さをたたえ、時をへて仕上がった偉大な調和を感じました。
ファースト・ヴィンテッジの1998年も、2001年のような難しい年も、ジェロームのシャンパーニュは複雑な香りをもった軽やかな味わいに成長していました。「経験のないヴィニュロンが、ここまで仕上げられたとは、じつに素晴らしい。」、とベタンヌ氏も驚いていました。しかし、もっと驚いたことは、この数年の作における目を見張るばかりのジェロームの成長ぶりです。それ以前の各ヴィンテッジは、ビン熟により美しく熟成していました。けれども、時間をかけて成長した味わいのレベルにもまして、近年産の若いシャンパーニュの完成度が圧倒的に高くて、一同を驚かせました。
10年の歩みを振り返ることは、ジェロームの向上の跡を確認する試飲となりました。毎年の仕事の思い出が記憶となり、経験を重ねることで、「考える人」ジェローム・プレヴォーの作品が、年を追うごとに完成度を高めてきたのです。
あらためて、最初の年から彼と歩んできた幸せを感謝するとともに、彼のシャンパーニュを、私たちとともに励まし、育ててくださった日本のマーケットの方々に、深く感謝いたします。今年度リリースされるモノアネ(内容は2006年ヴィンテッジ)は、昨年の12月にデゴルジュマンされました。弊社では、1年おいて、2010年の春に船積みする予定ですので、今年度の入荷はありません。辛抱しながら、どうぞ楽しみにお待ちください。
合田 泰子