2008.11.27 合田泰子
シャンパーニュ、ピエモンテとシチリアをまわり、11月23日に帰国しました。ヨーロッパはすっかり冬の装いでしたが、東京も寒いですね。
おかげさまで、今年もヌーヴォーは大変ご好評いただきました。ありがとうございました。アンドレア・カレクの「ア・トワ・ヌ」はいかがでしたでしょうか。2009年ヌーヴォーをどのような方針で進めるか、今後一年かけて皆様のご意見を伺いながらすすめたいと思います。
今月は、2008年度 「最優秀 環境志向栽培家 賞」を授かったサルヴォ・フォーティと私について、お話しようと思います。
「エトナ人」サルヴォ・フォーティがつくる「イル・カンタンテ」
全員がワイン・ビジネスのプロフェッショナルになる目標をもち、夢をもってとりくんでいます。どのような時であろうと、常に明るく、エネルギーにあふれ、創造性と和をモットーに、社員一同努力してまいりたいと存じます。 温かく厳しいご指導をたまわりますよう、お願いいたします。
数ある造り手のなかでも、サルヴォほど「ワインは人である」という言葉を感じさせてくれる存在はいません。今回エトナをたずねて、あらためてその印象を深めました。2007年3月のお便りで「エトナ人のエトナ人によるエトナの大地のためのエトナワイン」と、サルヴォのことをご紹介しました。
彼の理念はコンサルタントとしてのベナンティの仕事の中にも表現されてきましたが、自作するヴィヌペトラは2haに満たない畑ですから、毎年日本に届く数も限られています。そのため、いまだにサルヴォの素晴らしさをご存知ない方が多いのは仕方ありません。サルヴォは2001年から「チーム・イ・ヴィニェーリ」として22人の仲間を募り、ヴィヌペトラ以外にもモザイク状に広がるエトナの最上の畑から少しづつ畑を再興してきました。いよいよそのワインが今年リリースとなり、チーム・イ・ヴィニェーリの作品の全容が少しずつ姿を現し始めます。
サルヴォは、2008年ガンベロロッソで「最優秀 環境志向栽培家 賞」を受賞しました。その記事のなかで、サルヴォは次のように紹介されています。
アルベレッロの詩人
[ 「エトナでワインをつくることは、他のところでワインをつくることとは異なる。
並外れてワインに適した昔ながらの大地であり、険しく以前はないがしろにされていたが、
穢れなき自然な環境を保っている、国立公園でもある。真実のワインを造りたければ、
自然環境と歴史、そしてそこに住む人々に対して、尊敬の念を抱かなくてはならない。
少しでも彼を知っているのならば、かくも突発的だったこの受賞でも驚くことはあるまい。
むしろ、こう質問するのではなかろうか。「なぜ、今になって?」 ]
サルヴォの歩みは1980年代にはじまり、ベナンティでもって名声を築き上げました。かつては1リットルあたりわずか数百リラで流通していたエトナ・ロッソが、今日ではトスカーナや他の地域からの資本が流入して数多のカンティーナが作られ、隆盛するきっかけとなりました。しかし、それでも、古典的なエトナのアルベレッロ(ゴブレ)による栽培で造る生産者は数人どまりです。アルベレッロで栽培するのは経験が必要で、教科書通りにいかない上に、手間も数倍かかり、収量がギュイヨ方式の半分以下だからです。
サルヴォの作る白ワインは、華やかさと、気品を備えた稀有な味わいであり、また野卑になりがちなネロ・ダーヴォラ(パキーノ産)さえも、コート・ド・ニュイの極上の造り手を思いおこさせてくれます。 南の土地でありながら標高1000メートルを超える冷涼な環境で、樹齢百年をこえる畑が今も生きているエトナは、最上のテロワールを備えながら今日までその表現者がいなかったため、その真価が知られていなかったのです。この地で、今初めてサルヴォ・フォーティという誠実で、深い信頼で人とのつながりを大切にし、類まれな才能と感覚の持ち主である表現者の登場により、姿を現すことができました。
エトナの人々にとって、エトナ山は母のような存在です。あえていえば、裾野に広がるブドウ畑を含めてエトナ全体が、まるで母体のような巨大なエネルギー体なのかもしれません。優れたワインは、優れたテロワールが優れた作り手の手によってワインの中に映し出された作品である、ということはいつもお話しているとおりです。が、サルヴォのワインはそれ以上の何かを感じさせてくれます。単に優れたワインという以上に心に響いてくる味わいがあります。彼は口癖のように、「エトナ」、「エトナ」、「エトナ」と話します。「私が造っているのではない。エトナが偉大なのだ」と。エトナを中心とした巨大なエネルギーをもつ生命体のようなエトナの空間に深い畏敬の念をもち、エネルギーを感じ、共感しワインを造りだしているのだと思います。
サルヴォは、このたびのガンベロロッソの受賞を素直に大変喜んでいました。「厳しい環境でブドウ栽培をする多くの仲間を勇気付けてくれたから」です。
心の広いサルヴォの活動は、志を分かち合う仲間を広げつつあります。シンプリー・レッドのリーダーであるミック・ハックネルは、ランダッツォの一角に畑を買い求め、栽培と醸造をチーム・イ・ヴィニェーリに託しました。 通常、コンサルタントやネゴシアンが造るワインには、最上のクオリティが伴うことはほとんどありません。が、例外があるのです。サルヴォの計画は、トスカーナにおける、ジュリオ・ガンベッリを思い起こさせてくれます。歌手ミック・ハックネルが有する畑から産するワインのブランド名は、「イル・カンタンテ」(歌手)と名づけられました。ビン詰め後4年の熟成を経て、ようやく2008年7月からリリースされました。日本では2009年春からのご案内となります。
ぜひ、お楽しみにしていてください。
合田 泰子