2008.7.31 合田泰子
《合田泰子のワイン便り》
梅雨明けとともに、厳しい暑さが続いています。お変わりございませんか。ゆっくりと避暑にといきたいところですが、7月19日のつかの間の連休は、オフィスの試飲ルームで、クーラーをつけて音楽を聴きながら過ごしました。 体調がよいと微風もまた心地よいのですが、疲れがたまっていると暑さがこたえますね。
ご承知のように、昨年から少しばかり社員の出入りがあって、新人たちが仲間入りしました。こちらも気持ちを新たに張り切って、明るく積極的なオフィスづくりに努めています。日々の仕事に加え、毎月のように催しがあり、小さな社内でもなかなかコミュニケーションをとることが難しいのですが、「社員一人一人が、プロのワイン・ビジネスができるように」という目標に向かい、工夫しながら仕事ができることはとても幸せなことだと思います。
1.社内トピックス: 研修試飲会の実施
本年5月から、新人の社内研修の一環として、試飲によるワイン勉強会を定期的に続けています。
1.南イタリアの赤ワイン品種
2.ドルチェット種
3.北イタリアの赤ワイン品種
4.ネッビオーロ種
5.ガルガーネガ種
6.バルベーラ種
7.サンジョヴェーゼ種
という具合に、テーマに基づいて、ラシーヌで扱っているワインと、その地域を代表する他の造り手のワインも含めての水平試飲です。問題は、ショップで購入した場合のコンディション不良があまりにも多くて、教材にならないことです。この点に具体的に触れることは、大変デリケートな問題も含み難しいのですが、コンディションを維持・管理するための最善の努力は当然のことと思います。 弊社のワインにも「ブショネ」トラブルは避けようがありません。ブショネについての対策は業界をあげての大きなテーマです。
試飲により得られる重要な経験は、扱い先の造り手の技量差が明確に見えることです。それぞれがレベルの高いワインなのですが、好みの差ではなく、実力の差が歴然と理解できます。実力の差に加えて、個性と洗練、カリテ・プリの点からみてみると、相対評価ができます。また、アペラシオンを超えて、価格帯とクオリティの相対評価により、マイナー・アペラシオンで実力のあるワインの価値を再認識できます。私自身にとってももちろん、社員全員にとってワインの経験を身につける大変いい機会になっています。 試飲会のよりよい運営方法や、お客様へのご案内に役立てて行きたいと思います。
2.ワインのパッケージについて
生産者からの出荷に際し、横箱をたて箱に変更する準備を始めました。輸送中の破損事故は、ダンボールに横詰め(平積)されているワインに多発しております。12本詰めのカートンの場合、縦詰めのカートンでは通常立てたビンが12本入っていますが、横詰めのカートンでは、横に寝かせたビンが6本づつ2段で入っているもの、と横に4本づつ3段入っている箱の2タイプがあります。そこで、同じトラックで、縦詰めのカートンと横詰めの両方の箱を輸送するとき、横詰めのカートンでのみ、破損事故が発生しやすいことから、明らかに詰め方とパッケージの形が事故の原因であると断定できます。
そもそも変えざるをえなくなったのは、従来のヤマト運輸の営業所から、配送運賃の値上げと同時に次のような通達があったためです。
「今後、横詰めの配送は受け付けず、たて箱のみを受け付けます。破損の代金補償はしません」という大変厳しい内容です。原因は、あるインポーターが破損代金請求の際に、正しい価格を請求せずに高額な請求をしたことが何度も重なり、ヤマト側でネットで商品検索をしたところ、虚偽の請求が発覚したことです。ガソリンの高騰により、運送会社もコスト高に苦しんでいるときに、一部の商道徳の欠如したインポーターにより、正直にビジネスをしている他社がこのような迷惑をこうむることは、許しがたいことです。が、破損の要因を減らす努力はしなければなりません。リファーシステム・ジャパンさんによる配送は、大変丁寧に扱っていただいているので、破損はほとんど起きませんが、リファーシステムの配送地域外では、宅配便を使わなければなりません。
すでに東京に入庫しているワインのすべての箱を交換することは、無駄なことと思います。しかし、破損代替のできないワインや高額品については、7月より寺田倉庫の専用箱に詰め替えて出荷を始めています。造り手のロゴが入っていない真っ白の箱が到着して、驚いておられる方も多いようです。横詰めしたワインを、縦詰めのカートンに移し変えるには、別途、縦詰め用のカートン代と、詰め替え作業に要する費用料を、さらに負担しなければならなくなりました。そのため、造り手全員に対して事情を説明し、パッケージの変更を求めました。 おおむね変更に応じていただける旨の返事がきていますが、なかには「長期間ビンをたてておくとコルクが乾燥し、コルク臭が生じるおそれがある」と言う造り手もいます。
マット・クレイマーの『ワインがわかる』(塚原正章・阿部秀司訳/白水社刊)によれば、《英国のロング・アシュトン研究所が、水平に寝かせたものと直立のまま貯蔵したものとを比較した実験によると、二年経過した後ですら、扱いを異にする両ワインの間にはただ一点を除き「なんら目に付く差異を生じない」ことがわかった。直立させてあったビンのコルクは、抜栓にえらく骨が折れるのである。水平に寝かせたビンが35ポンドの力ですむのにひきかえ、数百ポンドもの力を要したという。(……)発泡性ワインについては、コルクを上にした姿勢では、「いかれたコルク(萎縮して弾力性を失ったコルクで、すっかり瓶首の形に変形してしまったもの)の発生が劇的なまでに減少し、通常のコルクを抜いた後にみられる『マッシュルーム』型も格好良くなり、外観が向上した」とある。》 とのことです。立てて保存することにより、味わいにはどうやら問題はないようですが、抜栓に力がいるようなので、長期保存の場合は水平に保存をしたほうがよさそうです。
3.新着ワインのご案内
ドメーヌ・ルジューヌが初めて入荷いたします。18世紀から続くポマール村の造り手で、以前は三共化学工業によって輸入されていました。今年のグラン・ジュール・ブルゴーニュの際に試飲し、優しくて丁寧な味わいのなかに、正統派ブルゴーニュの姿を感じとれました。日本のインポーターを探しておられるとうかがい、今回の入荷となりました。しばらく日本市場に品切れしていましたので、古くからのファンの方からは、待ち望まれていたというお話をいただいています。除こうせず、大樽発酵、垂直型プレスによる搾汁・・・・と古典的な醸造方法で造られています。高い樹齢、低収量のブドウから生まれるワインは、昨今の瑞々しくて均整のとれたスタイルとは反対に、色調は淡く、ややタニックで、奥のほうからゆっくりと果実感が立ちのぼり、なつかしいブルゴーニュの味わいを思い起こさせてくれます。当主のフランソワ・ジュリアン・ド・ポムロールさんは、誠実そのもので温厚なお人柄ですが、長らくリセ・ヴィティコール・ド・ボーヌ(醸造学校)で醸造の教鞭をとっていました。科学的な視点とともに、強い信念を秘めた方です。 ワインは、価格も控えめで、ユーロ高、ブルゴーニュ・ワインの高騰のご時世になんとも貴重な存在です。多くの方々に、愛されるよう願ってやみません。
暑さ厳しい毎日が続きますが、どうぞお疲れがでませんようにお元気でお過ごしください。
合田 泰子