『ラシーヌ便り』no. 31

2008.2.1  合田泰子

パリの話題

立春も間近ですが、この冬は寒さがこたえましたね。皆様お変わりございませんか。でも、寒いときには、ちゃんと寒くなければ、生態系が崩れ、農業にも影響がでますから、2008年は良いヴィンテッジになるのでは、と期待しています。
  さて、いつもお正月に私は、大阪生まれの父が大好きだった、母の里である高松のお雑煮をつくります。年始にオフィスに来られたお客様や社員には、「半ば強制的に」ご馳走させていただいております。高松の雑煮は、白味噌仕立てでも京都の白味噌ほど甘くありません。今年もお正月用に四国の味噌屋さんから、樽で8kgも買ってしまいました。オフィスでのお正月は、恒例の鍋。大阪の「地野菜とビオワイン」会員である松本さんから送っていただく、箕面の奥は高山産の水菜に、鱈と鴨を別々にあしらいました。
  自宅では、河内のレンコン、天王寺かぶらなどの煮物、丹波の黒豆、などを楽しみます。肌理細やかで、口当たりがやわらかく、風味がしっかりしたお野菜は、関西の味わいの懐の深さそのものです。
 あまり大阪自慢をすると、オフィスでしかられますが、「浪速の味」が私の郷愁のせいだけでなく、おいしいことは間違いありません。ワインのテロワールは、難解ですが、今年もお正月は、関西のテロワールを楽しみました。
 さて、今回の本文は、大阪ではなく、フランスとパリの話題をお届けします。

Ⅰ.ディーヴ・ブテイユ

 恒例の自然派グループのサロン「ディーヴ・ブテイユ」が2月11、12日の二日間、ブルターニュの海辺の街ドーヴィルで開かれます。日本でも、すっかりお馴染みになり、昨年は会場で多くの酒販店・レストラン関係の方々をお見かけしました。今年は日本からもっと多くの方々が訪ねられることと思います。弊社からも合田と若槻がまいりますので、会場でお見かけの際は、声をかけてください。
 ディーヴ・ブテイユは1999年に、醸造家カトリーヌ・ブルトンとジャーナリストのシルヴィー・オジュロという二人の女性が事務局となって、ロワールのサロンが始まる前日に、番外編としてブルグイユの洞窟のなかで催されたのです。そもそも《Dives Bouteille》とは、真正なワインの意味ですが、フランソワ・ラブレー言うところの「徳利大明神」にちなむものです。この会が始まると、アンジェリ/ボサール/ピュズラらをはじめとする全国の自然派の造り手が、ここに結集するようになりました。が、2007年に開催地はロワールから離れてル・アーヴルになり、それが今年はドーヴィルです。
 そのディーヴ・ブテイユから、一冊の本が送られてきました。写真家のフィリップ・クノが会場でとりためた写真に、シルヴィー・オジュロが文章を書き、自然派の造り手のラベルでお馴染みのミシェル・トルメーがエディトリアル・デザインを担当しました。題名は「Vin d’Yeux 目のワイン」《題名からして冗談で、同じ発音のvingt dieux (特に田舎で)ちくしょう、くそ(怒り) !にひっかけています》。また、この題名は、ミシェル・トルメーのリトグラフシリーズ(ラシーヌが販売中。卸価格63000円/6枚)の題名でもあります。

 フィリップはサロンの会場で、いつもいろいろな人に、両眼を描いたおもちゃのロイドメガネをかけさせ、写真をとって面白がっていたのですが、まさかこれが一冊の本になるとは思いもよりませんでした。表紙は、フランス人からみて、ハンサムの代表「マルセル・リショー」で、次のページにはヤン・ロエル。次々にサロンに出ている自然派の造り手たちと、パリのビストロなどの常連のヴィジターたちやカヴィストたちが、滑稽な姿で冗談まみれの紹介文とともに登場します。ちょっと、ご紹介しましょう。

 「この本を買おうとしているあなた、家に帰ると、きっと奥さんに怒られますよ。『いったい何でそんなくだらない本を買ったの?』と。それでは、奥さんを説得する方法をお教えしましょう。

1)だって、今日は珍しくヌード写真じゃないだろう。ほら、彼らは目にまで服(=眼鏡)を着ているじゃないか。
2)そのうえ、ためになる本なんだよ。この本の中には、ブドウ栽培を通し、社会へメッセージを送っている、新しい道徳なんだ。着の身着のままのワイン!
3)第一、この本を読めば大変役立つ。各地のおいしいワイン選んで、理想的なセラーを作ることができるよ。それで友達とすてきなディナーを楽しめば、明るい未来「lendemains qui chantent」が待っているよ(注。これは、酔っ払いが歌を唄うことにひっかけている)。
4)2人~10人で、人物の職業を当っこして、ゲームができるしね。
5)そのうえ、お金をシマツできるかも。この本を持って、彼らを訪問すると、きっとワインをご馳走してもらえるさ。
6)最後に、フェア・トレードだもん。本が売れて著者達が儲けたら、著者達がたくさん飲む。そうすると、経済の一分野(=ワイン産業)がうるおうしね。」

という具合の、楽しい本です。
 造り手については、例えば、我らが「マルク・アンジェリ」については、ロンサールの詩をもじって、「マルク・アンジェリはアンジェの常識を覆している。低く剪定したブドウの樹から、美にあふれる白さをもつ実とロゼ・ワインがしたたり落ちる。朝になったら、かわいい人が咲いたかどうか、庭に飲みに行かなくては。」
 「かわいい人」とはバラroseをさすのですが、この場合はロゼ・ワインのことを言っています。ロンサールの詩では「バラの花を見に(voir)いこう」なのですが、voirをboireにひっかけて、飲みに行こうと洒落のめしています。また、このことから、マルクが作るワインの華「ロゼ・ダンジュール」の名が、ロンサールに詩われる「バラの花の一日の命」にこと寄せていることが、わかります。
 詩人のマルクには、格調高くロンサールの詩をもじった冗談を言っていますが、ほかの造り手や登場人物については、駄洒落の連発です。でも、ひっかける言葉や人物の名前が、柄が悪くて有名なコメンテイターや、コマーシャルソング、子供のテレビ番組だったり、辞書を引いても意味不明です。ついでながら、日本人では合田と塚原が、奇妙な眼鏡を掛けさせられたまま写っていますから、暇のある方は本書でご笑覧ください。著者から、日本でこの本が売れないかという問い合わせがありますが、どなたか興味のある方はいらっしゃいますか?

Ⅱ.パリの「ラシーヌ」

morethanorganic.com という、「有機栽培を超えるワイン」という名のサイトをご存知でしょうか。料理人であり、ロンドンで自然派ワインの輸入会社を運営するピエール・ジャンクゥによる、チャキチャキの「自然派ワイン」情報サイトです。イタリア生まれのピエールはスイスで育ち、2002年から2006年の間、オデオンで「クレムリ」という名のビストロ/ワイン・バーを開いていました。ピエールは、フランスの自然派ワイン界でも、極論者と見られています。というのは、彼はSO2非使用醸造ワインの造り手の熱狂的な応援者であり、妥協を許さないからです。「More than organic」は、彼の哲学と情熱とを表現したものです(なお塚原は、“Beyond Organic”という題のほうがふさわしいと、ピエールに提案しています)。クロード・クルトワへの賛歌としてジェラール・ギィとともに出版した「LE VIN DES POETES」に描かれる美しい絵が、ホームページ全体を飾っています。

 そのピエール・ジャンクゥが、2007年10月にパリのもっとも古いアーケド「パサージュ・デ・パノラマ」に、「ラシーヌ」という名のビストロ/ワインバー-を開きましたが、むろんラシーヌの支店ではありません。開店に当たって、日本の同名のインポーターに、「この名前を使っていいだろうね」という問い合わせがありましたが、私たちに異論があるわけがありません。早くも「Le Fooding Magazine」から、best cave a manger 2007に選ばれています。パリにお出かけの折には、ぜひともお訪ねください。

Racines(パリ)

8, Passage des Panoramas
01 40 13 06 41

レストランのホームページ

まだまだ寒さ厳しい毎日が続きますが、どうぞお元気でお過ごしください。3月のお便りで、出張報告をさせていただきます。

合田 泰子

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