2007.11.30 合田泰子
12月に入り、さらにお忙しい毎日をお過ごしのことと思います。 まず、始めにヴィヌメンティスのヌーヴォーをお買い上げいただきましたお客様には、大変なご迷惑をおかけし申し訳ありませんでした。あらためて、心よりお詫び申し上げます。理由は、どうあれご案内と異なったワインをお届けすることになり、一年の最繁忙期に多大なご迷惑をおかけすることになってしまいました。 その後もヤン・ロエルと話をしましたが、ヤン・ロエルから「畑の変更につき連絡しなかったことは本当に申し訳なかったが、2007年は本当に難しい年だった。どうにか、少しでもいいものを仕上げるのに必死だったので、ラシーヌとのコミュニケーションがおろそかになってしまって、申し訳ない。実のところ、もし予定通りのヴィラージュの畑で作っていたなら、あの品質に仕上げることはできなかった。心からのお詫びを申し上げてほしい」と連絡がありました。これに懲りませず、ヴィヌメンティスのヌーヴォーを今後もよろしくお願い申し上げます。
[ラ・ルネッサンス・デ・アペラシオン]
11月27日のラ・ルネッサンス・デ・アペラシオンの会に向け、24日から順に造り手が到着し始めています。初来日のガイヤーホフのイルゼ・マイヤーさんは、まだ発酵中のセラー作業の間をぬっての来日のため、慌しく28日に帰国されます。本当に短い滞在ですが、25日にオフィスで、イルゼ・マイヤー、マルク・アンジェリ、ギィ・ボサール、ディディエ・バラルの4人の生産者と、日本人専門家の方々とのあいだで意見交換会と交流会を催しました。3時間近くも、興味深い話を聞くことができましたので、ご報告いたします。
[ガイヤーホフ]
18haの畑から、総生産本数80,000本という量は、良心的なワイン作りを物語っています。ルドルフ・シュタイナーが生まれたオーストリーですから、さぞ農業全般はもちろん、ブドウ栽培についても有機栽培が実践されている国だと思っておられる方も多いでしょうが、ワイン生産のうち5%が有機栽培で、これも近年のことだそうです。1988年に有機式に転じたときには、「変わり者」という目でみられ、長い間正しく評価されなかったと話しておられました。最新号の『インターナショナル・ワイン・セラー』に、オーストリー・ワインの2006年ヴィンテージについての記事が掲載されています。ガイヤーホフについても、詳細で極めて高い評価が載っていますので、翻訳をご参照ください。
[ギィ・ボサール]
1972年から、有機栽培を始めたギィ・ボサールは、大量生産型の産地であるミュスカデでは長い間仲間がなく、孤独な努力だったという言葉の中に、ギィの人となりと強い意思、1992年からマルク・アンジェリという同志ができた喜びが、感じとれました。
[マルク・アンジェリ]
11人の作り手で所有されている8haのモンラッシェの畑では、2/3で除草剤が使用されているという事実はほとんど知られていない。1970年以来使われている農薬が今後も使われ続ければ、20年後にはアペラシオンの根本であるテロワールの特徴がなくなり、アペラシオンが成り立たなくなる。有機栽培をせず、補糖をしないで醸造したというだけでヴァン・ナチュールを名乗る造り手がいる。そのようなワインは消費者に誤解と混乱を招くため、ヴァン・ナチュールとして認めるわけにはいかないので、ラ・ルネッサンス・デ・アペラシオンでは、栽培だけでなく醸造の面でも品質チェックを厳しくしている。もちろん、このグループに所属しない優れた造り手もたくさんいるが、買い手は自分たちの厳しい目でワインを選んでほしい。
農業経済は巨大組織の化学肥料・農薬会社に支配されているから、隣人の作り手を説得し、有機栽培の仲間を広げていくことは大変むずかしい。私たちは、一時的に縁があって畑をたまたま所有しているにすぎない。地球環境を守り、畑を未来に対して責任を持ち、よい状態で次の世代に引き渡す義務があるというだけでなく、消費者に対しても安全なものを届ける責任がある。原子力発電所をはじめとする敵は、いたるところに多すぎるほどいる。フランスワインはあまりにも有名になりすぎて、それだけで売れてしまうために事態を改善していけない。また、たしかにヴァン・ナチュールには様々な味わいがあるので、自分の味覚でもってテロワールと個性を有する美味しいワインを選んでいただきたい。
[ディディエ・バラル]
2007年のラングドックはずっと乾燥が続き、9月20日から10月にかけて150mmもの雨が降った。にもかかわらず、ほとんどの畑は土地が固くかたまってしまい、草は生えない状態になっている。ラングドックは日差しが強く、日陰をうまく作らないと、土の表面が陽によって焼ける。ボルドーやブルゴーニュ流のパリサージュが入ってきたが、日差しの強い南のこの地方には適せず、土が陽に焼けるようになった。乾燥といかに戦うかが大きな課題。カチカチになった土地では、人口肥料が輪をかけるため、地中に微生物が住めなくなってきた。けれども、この微生物の力で畑に生命を回復させなければならない。レオン・バラルでは、1995年から牛と馬によるブドウ畑の管理が行われ、土中の微生物や畑の中での虫が増えることにより、渡り鳥やこうもりによる虫の駆除が自然のサイクルの中で行われるようになった。
《ヴァン・ナチュール再考》
ワインの仕入れに携わるようになって20年になりますが、最近ますます、ヴァン・ナチュールに出会うことができて幸せだと思っています。
不愉快な臭いと欠点だらけのワインは、言い訳無用の欠陥品ですから、自然なワインだからといって認められるべきではないでしょう。自然なワインには、グラン・クリュのワインもあれば、原価2~3ユーロのヴァン・ド・ターブルもあります。しかし、優れた造り手がこしらえる、偉大なる自然なワインは、飲み手の心をうち、深い感動でみたしてくれます。今では私は、自然なワイン造りの考え方を踏まえなければ、真に偉大なワインは生まれないと考えています。収量の少ない良質で自然なワインを造るには、技術・忍耐・精神力と、厳しい肉体労働を必要とします。ですから、自然な方法でワインを造りたいという強い意思と信念のある人だけが、実現できる方法ですが、市場の応援がなくては造り続けることができません。これからは、単にピュアーで飲み心地のよいワインというレヴェルでなく、真に高いクオリティーをそなえたワインという目標に向けて、造り手を励ましていきたいし、また、すでに至難な高い目標を実現している造り手や、可能性のある新しい造り手の発掘をもまた、続けていきたいと思っています。
《今年一年を振り返って》
ユーロの異常な高騰は、マーケットを狭めてしまうため、造り手・インポーター・流通販売業・消費者のすべてにとって、好ましい状況ではありません。最も多くの方に喜んでいただいていた、2年前に小売2000円前後だったワインが、いまや3000円を超えています。弊社も、できるだけ販売方法を工夫して、価格の上昇を最小限にとどめたいと思っています。
今年もまた新たな造り手やお取引先に出会うという、実り多い1年でした。創業の理念である「ラシーヌ宣言」の精神を見失わずに、みずから過ちを正し、健全な活動を心がけてまいりたいと存じます。2007年のテーマは「原点に帰る」、「創業の年を支えてくださった方々への感謝を忘れず努力」でした。来年はいよいよ創立満5周年を迎えますので、高いご期待に添えるようさらに励むつもりです。私たちにとっては「第二期」に入る新しい一年に、仕入れの内容を厳しい目で問い直し、「お客様とともに歩むインポーター」であることを心がけ、ワイン文化の発展に少しでもお役にたてるよう努力してまいりたいと存じます。今年一年のご愛顧を心よりお礼申し上げます。どうぞよいお年をお迎えください。
合田 泰子