ジェローム・プレヴォーから学ぶこと

2007.10.31  合田泰子

 10月になっても、気温の高い日が続きましたが、ようやく秋も本番を迎えました。
 秋とともにジェローム・プレヴォーが10月21日に来日し、数日間ばかり京都観光をいたしました。紅葉は、まだまだでしたが、庭園でジェロームとアニェスの夫妻は、腰をかがめて斜面の落ち葉を集めるモンペ姿のお婆さんの作業をじっと見たり、老職人が樹の姿を何度も確認して植え替えする作業を1時間も、感慨深げにながめていました。
 単なる観光客として出なく、来日前に日本研究をすませてきたジェロームにとって京都は、想像以上に刺激的であったようで、触れるもの全てを満喫していました。とりわけ日本の庭園文化にふれ、深く心を動かされたようでした。ジェロームが尊敬している安藤忠雄さんがどこかでいっていましたが、日本の建築において庭園は、ある意味では建築そのものよりも重要な役をしていたことはたしかです。ジェロームもまた、自分でそういう結論にたどりついたようです。私もまた「考える人」ジェロームの人柄に触れた一日でした。

 ジェロームは、大阪と東京で中身の充実したセミナーを開きました。ジェロームのこの10年の歩みが自分自身の目で要約されたので、その進み方がよく腑に落ちて理解することができました。--すべての個別作業を決して慣れることなく、考えて確認することの繰り返しの積み上げの結果、作品ともいうべきシャンパーニュが生まれること、有機栽培でないと実現できない醸造、その一つ一つが、アンセルム・セロスから学び、導かれた考え方であることなどが話されました。テイスティング3種類と、刺激的な討論をまじえた、熱のこもったセミナーでした。私自身、漠然ととらえていた有機栽培についての認識でしたが、いま一度、野生酵母での醸造のメカニズムでの有機栽培の役割の重要性を確認いたしました。
 
ジェローム・プレヴォー語録より:
 現在、世界の土質研究をリードし、ビオロジック栽培家におおきな影響をおよぼしているのが、クロード・ブルギニョンです。その著作は難解で有名ですが、ジェロームは著作を数回繰り返し読みとおしただけでなく、クロードのさまざまな実績を検討して、ようやくクロードの全体像を理解することができた、とラシーヌのオフィスで述べていました。セミナーでもジェロームは、次のように語っています。
 「土中のミネラルそのものは味わいには現れない。20mにもおよぶ長い根の先の毛根は髪の毛よりも細く、これが岩にあたると酸を放出して岩を溶かして穴をあける。その結果発生する、固有のミネラルのイオン(++)が根から吸い上げられ、ブドウの木に蓄えられる。酵母と酵素の活動が糖(炭素・酸素・水素分子のチェーン)を切断し、様々なアロマを発生する。ミネラルがその活動のエネルギーとなり、発生するアロマの種類が豊富なほど、味わいが複雑になる。が、ミネラルは醸造のメカニズムの中でエネルギーの働きをするのであって、味わいになるのではない」

 ジェロームの考え方に触発されて私は、「農薬、化学肥料や除草剤の長年にわたる多用で微生物が存在しない畑では、野生酵母が存在しないだけでなく、このような根の活動はありえない、ならば、有機栽培でない栽培から造られるブドウから生まれるワインは、いったい何なのだろう」と改めて考えました。セミナーの資料と記録は、追ってホームページに掲載する予定ですので、是非ご覧ください。

フラール・ルージュ《オクトーブル》

 さて、フラール・ルージュのジャン・フランソワ・ニックから、10月15日解禁の新酒が到着しました。新鮮な果実味にあふれ、楽しく軽やかです《アルコール度:11度》。しかも人工的なところがなくて親しみやすく、何杯もおかわりしたくなる飲み心地に人を誘う、とても自然な味わいをそなえています。

 赤いラベルには、黒い字で『オクトーブル』(10月)とだけ表示されています。謎のようなブランド名ですが、例によって映画のタイトルを引用するのが好きなジャン・フランソワですから、なにから引用されているのでしょうか。わたしたちは、1990年映画化されたショーン・コネリー主演「レッド・オクトーバーを追え」ではないかと思っています。真っ赤なラベルの「レッド」プラス「オクトーバー」だからです。

 みなさまにこの『オクトーバー』を追いかけていただきたい、という願いなのかもしれませんね。今年のヌーヴォーの第一弾、感想はいかがでしたでしょうか。

合田 泰子

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